携帯電話の滞納分を任意整理で処理できるか?

借金の返済が困難になった場合には、弁護士や司法書士に任意整理を依頼して債権者と交渉して利息のカットや分割返済の和解を取り付けてもらうことができます。

任意整理は、自己破産や個人再生の手続きとは異なり裁判所に申し立てをする必要がありませんから、残りの借金元本を3年程度、36回の分割払いで返済できるような場合には有効な債務整理の手段といえます。

ところで、借金の返済が滞っている人の中には携帯の料金を長期間滞納してしまい支払に窮しているという人も中にはいるのではと思われます。

では、このような携帯料金の滞納分については任意整理で処理してもらえるのでしょうか?

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携帯料金の滞納分も任意整理できないことはない

結論からいうと、弁護士や司法書士に依頼して携帯料金の滞納分について任意整理してもらうことも不可能ではありません。

しかし、携帯料金の延滞分を任意整理することにそれほど意味はありませんし、携帯料金の滞納分を任意整理することで不都合も生じてしまいますから、特段の事情がない限り携帯料金の滞納分を任意整理することは控えた方が良いかもしれません。

理由は以下のとおりです。

(1)携帯料金にはそもそも利息が付いていないこと

消費者金融などの貸金業者やクレジット会社との間で任意整理を行うのは、請求されている貸金に付帯して支払わなければならない利息をカットして返済金額を借入元本だけに減額する点に大きなメリットがあるからです。

貸金業者やクレジット会社がお金を貸してくれるのはその貸付金に利息を付けてその利息分で収益を上げることができるからです。

そのため、貸金業者やクレジット会社からお金を借りた場合には、そのリスクが債務者の大きな負担になって返済が困難になる場合があるのですが、任意整理で弁護士や司法書士が介入した場合にはその利息(将来利息)をカットして借入元本だけにもしくは借入元本の減額も求めて債務の減額を交渉するのが一般的です。

弁護士や司法書士に任意整理を依頼するのは、この「利息のカット」という大きなメリットがあるからに他ならないともいえるのです。

一方、携帯料金についてはそもそも「利息」は発生しませんから、弁護士や司法書士に任意整理を依頼したとしても「利息のカット」というメリットは享受することができません。

ですから、「利息のカット」という側面を考えると、携帯料金の滞納分について任意整理で処理するほどの積極的な理由はないといえます。

(2)携帯料金を滞納しても遅延損害金は高額にならないこと

また、携帯料金の滞納分については滞納した場合に発生する遅延損害金もさほど高額にならない点も考える必要があります。

貸金業者やクレジット会社からの借金を滞納した場合には、借入元本全額について一括請求がなされ、その借金全額について20%を上限とする遅延損害金が加算されるのが通常です。

そのため、貸金業者やクレジット会社からの借金を滞納した場合には、貸付元本のみならず遅延損害金も含めた金額を支払わなければならくなりますが、弁護士や司法書士に依頼して任意整理をした場合には通常、この遅延損害金をカットした借入金元金のみ(または元本の減額)の分割返済を提案することになります。

一方、携帯料金を滞納した場合にもその滞納期間によっては遅延損害金が付加されることもありますが、仮に遅延損害金が付いたとしても「その滞納した月」の料金について遅延損害金がつくだけであって滞納分全額について付くわけではありませんし、そもそも月々の携帯料金は貸金業者からの借入金ほど高額にはならないのが通常ですから、付加される遅延損害金もそれほど高額にはならないのが一般的です。

ですから、仮に弁護士や司法書士に依頼して携帯料金の滞納分を任意整理してもらったとしても、遅延損害金のカットで受けられるメリットはさほどありませんから、、「遅延損害金のカット」という側面を考えてみても、携帯料金の滞納分を任意整理で処理するほどの積極的な理由はないといえます。

(3)携帯料金の支払いがそもそも分割払いになっていること

貸金業者やクレジット会社からの借金を任意整理する一番のメリットは、滞納して債権者から一括請求がなされていたり、リボ払いで毎月定められた返済金を延々と支払わなければならない状態をいったんフラットにして、残りの借金を債権者との交渉によって分割払いにするという点にあります。

任意整理の大きな利点は、たとえ一括請求がなされていても、リボ払いで延々と返済しなければならない契約になっていても、それをいったんすべて白紙にしてしまい、借金の元本のあたる金額を36回程度の分割払いにする点にあります。

一方、携帯の料金は「〇月分について〇円」「○月分について〇円」とそれぞれの月に応じて請求がなされるものであって、そもそもの支払いが分割払いの状態になっていますから、任意整理として弁護士や司法書士が介入したとしても元々分割払いの支払いを再度分割払いにするだけで対して意味はありません。

もちろん、弁護士や司法書士に介入してもらって1か月分の支払金額を減額させて支払期間を長くすることは可能かもしれませんが、そのようにしても当月分の携帯料金は発生するはずですから、よほどの長期間の分割にしない限りメリットはあまりないでしょう。

例えば、1月分から月1万円の携帯料金を6カ月間滞納しているとすると滞納金額は6万円になりますので、これを半年間で解消しようと思ったら以後6カ月間毎月2万円支払えば解消することができるでしょう(月々の携帯料金1万円とは別に滞納分の1万円を6カ月間毎月払うので毎月2万円の支払いになる)。

一方、これを弁護士や司法書士に任意整理をしてもらったとして半年間で解消しようと思えば結局は当月の携帯料金と合計して毎月2万円の支払いが必要になりますから任意整理してもしなくても変わりません。

(4)弁護士や司法書士の費用も発生すること

以上のように、携帯料金の滞納分を任意整理したとしても、利息や遅延損害金のカットという任意整理の大きなメリットはほぼありませんし、そもそも毎月の分割払い状態になっている携帯料金を任意整理によって分割払いにしてもメリットはほぼありませんが、弁護士や司法書士に依頼してしまうと弁護士や司法書士の報酬が発生してしまいます。

任意整理の報酬は事務所によって異なりますが、最近は3万円~5万円のところが多いようですから、弁護士や司法書士に携帯料金の滞納分を任意整理で依頼してしまうと、その分支払う費用がかさんでしまいます。

はたして、その費用を支払うだけの経済的なメリットがあるのでしょうか…

(5)以後の5年間、携帯の再契約ができなくなること

携帯電話の料金の未納が確定した場合には、携帯会社はその顧客との携帯電話の契約を強制解約してしまうのが通常です。

この点、弁護士や司法書士に携帯料金の滞納分について任意整理を依頼した場合も、たとえその後に分割払いの和解が成立する可能性があったとしても、その弁護士や司法書士が介入することによって「料金不払い」が一時的に確定することになりますから、強制解約の対象となるのが一般的です。

仮に携帯会社が「料金不払い」で契約を強制解約してしまった場合には、その契約を強制解約された顧客の情報が電気通信事業者協会に5年間登録されることになり、この強制解約の情報は携帯キャリア各社がその情報を共有することができるシステムになっています。

そのため、仮に携帯料金の滞納分を任意整理したことによって携帯料金の不払いを理由に携帯会社から携帯電話の契約を強制解約された場合には、それ以後5年間はたとえ他の携帯会社であっても携帯の再契約が事実上できないことになります。

 

▶ 不払者情報の交換 |一般社団法人 電気通信事業者協会(TCA)

 

以上のように、携帯料金の滞納分を任意整理で処理することは、さほどメリットがないにもかかわらず、以後5年間も携帯電話の契約が出来ないという大きなデメリットを発生させます。

ですから、仮に弁護士や司法書士に携帯料金の滞納分を任意整理してもらう場合には、この点のところを十分に弁護士や司法書士と相談する必要があるといえるでしょう。