自己破産で裁判所が自動車の取り上げを判断する5つの基準

自己破産は債務者の負債(借金)の返済義務を免除(免責)するために用いられる手続きとして知られていますが、その本質は債務者の資産(財産)と負債(借金)を清算するところにありますので、債務者に一定の資産(財産)がある場合には「自由財産として保有が認められるものを除いて」すべて裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります。

この点、「自動車」もその例外ではありませんから、債務者が「自動車」を所有している場合には債権者への配当原資とされるため裁判所に取り上げられるのが通常です。

もっとも、あくまでも「自由財産として保有が認められるものを除いて」裁判所に取り上げられるにすぎませんから、自動車の状態によっては取り上げられないケースも存在しています。

では、具体的にどのような自動車であれば自己破産の手続きで取り上げられなくて済むのでしょうか?

自己破産の手続きで所有する自動車が裁判所に取り上げられてしまう具体的な基準が問題となります。

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自己破産で裁判所が自動車を取り上げるか判断するための5つの基準

自己破産の手続きにおいて、裁判所がどのような自動車を債権者への配当原資とする破産財団に組み込むか、つまり自己破産の手続きで裁判所がどのような自動車を取り上げることにしているのか、という点は各裁判所によってその判断基準が若干異なっているのが実情です。

もっとも、いずれの裁判所においてもおおむね次に挙げる5つの基準に従って自動車の資産価値を判断していますので、以下、それぞれ具体的にどのような状態に自動車がある場合には裁判所に取り上げられることがあるのか、簡単に解説していくことにいたしましょう。

(1)20万円以上の資産価値があると判断される場合

全国のほとんどの裁判所で基準とされているのが、その債務者の所有する自動車の資産価値が「20万円を超えているか」という点です。

(※裁判所によっては「30万円」を基準にしているところもあります)

自己破産の手続きでは資産価値が20万円を超えているものについては基本的にすべて裁判所が取り上げて債権者への配当にあてるのが通常の取り扱いとされていますから(※なぜ20万円が基準になるかは→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)、自動車の資産価値が20万円を超えている場合には自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられてしまうことは避けられないでしょう。

逆に、自動車の資産価値が20万円を超えていないような状態にあるのであれば、その自動車は自己破産の手続き上で取り上げられることはないといえます。

なお、所有している自動車に20万円(裁判所によっては30万円)以上の資産価値があるかないかは、中古車販売店で査定をしてもらうなどした際の評価額で判断されるのが通常です(※一般的には最低2軒以上の中古車販売店で発行された査定書を裁判所に提出するよう求められるのが通常です。)

(2)他の資産との資産価値の合計額が50を超える自動車

また、「自動車以外に所有している資産との合計金額が50万円を超えるか否か」という点も多くの裁判所で自動車の資産価値を判断する際の基準になっています。

(※裁判所によっては60万円が基準にされているところもあります)

例えば、先ほどの(1)のように「20万円以上の資産価値がある自動車」を債権者への配当に充てるものとして取り扱う裁判所では中古車販売店で「19万円」の買取価格しか値が付かない自動車は自己破産の手続きで裁判所に取り上げられることは基本的にないわけですが、その場合でも、例えば他にリサイクルショップに持っていけば「19万円で買い取ってもらえるネックレス」と「11万円で買い取ってもらえる腕時計」と「10万円で買い取ってもらえるアニメのフィギア」を所有している場合には、「自動車」と「それ以外の財産」との合計額が50万円を超えていることになるため、「資産価値が20万円を超えていない19万円の自動車」であっても裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになります。

(この場合、買取価格が19万円の自動車と買取価格が19万円のネックレス、買取価格が11万円の腕時計、買取価格が10万円のフィギアのすべてが裁判所に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者への配当に充てられることになります)

(3)新車購入時の価格が300万円を超える自動車

一部の裁判所では、新車購入時の購入価格が300万円を超える自動車については基本的にすべて裁判所が取り上げて債権者への配当に充てる取り扱いにしているところがあります。

このような裁判所では、先ほど説明した(1)や(2)のように自己破産申し立て時点の査定額の金額にかかわらず、「新車購入時に300万円以上の値段が付いていたか」という点で自動車が取り上げられるか否かが判断されることになるので注意が必要です。

たとえば、所有している自動車の査定価格が19万円しかない場合は前述の(1)の基準でのみ判断している裁判所では取り上げられることはありませんが、この(3)の基準を採用している裁判所で自己破産の申し立てを行った場合に、その自動車を購入した際の価格が300万円を超えていたような場合には、その自動車は裁判所に取り上げられることになると考えられます。

(4)初年度登録から5~6年を経過していない自動車

上記の(1)~(3)以外にも、初年度登録の年から5年を経過していない自動車をすべて取り上げて債権者への配当に充てることに取り扱いにしている裁判所も比較的多くあります。

(※裁判所によっては初年度登録から6年を基準としています)

このような「初年度登録から5年(ないし6年)」を基準として取り入れている裁判所では、先ほど述べたように「自己破産申立時の査定価格が20万円」を超えていなかったり、「他の財産の査定額と合計して50万円(ないし60万円)」を超えていなかったり、「新車購入時の価格が300万円」を超えていない自動車であっても、「初年度登録から5年(ないし6年)」を超えていない自動車であればすべて自己破産の手続きで裁判所に取り上げられてしまうことになると考えられるので注意が必要でしょう。

なお、裁判所によっては「軽自動車」については「3年」を超えているかいないかで判断しているところもありますので、その点にも注意が必要です。

(5)外国車(※主に欧州車および米車)

以上の他にも、裁判所によっては「外国車(※ただし欧州車や米車に限る)」についてはその査定額や購入価格、初年度登録からの年数如何にかかわらず、すべて取り上げて債権者への配当に充てる取り扱いにしているところもありますので注意が必要でしょう。

もっとも、このような裁判所でも、査定額が極端に低い外車の場合(例えば古いベンツやワーゲン等)には資産価値がないものとして破産財団に組み込まない取り扱いにするのが通常ですので、ケースバイケースで判断するしかないのが実情だと思います。

最後に

自己破産の手続きでは、裁判所はおおむね以上のような5つの基準で自動車を取り上げるか取り上げないか判断していますので、自分の所有している自動車が裁判所に取り上げられてしまうか否か判断に迷う場合は以上の基準を当てはめて考えてみるとある程度予想が付くのではないかと思います。

ただし、仮に上記の基準に当てはまらない場合であっても、ローンが残っている自動車についてはローン会社や販売店に所有権が留保されていることから裁判所ではなくローン会社や販売店に事前に引き揚げられてしまうのが通常ですし、その逆に上記の基準に当てはまる場合であっても「自由財産の拡張の申し立て」を行えば裁判所に取り上げられなくて済む場合もありますから、上記の基準だけを判断材料として自動車の保有の可否を判断するのは危険です。

ですから、正確なところはケースバイケースで考えないと判断できない部分もありますので、所有している自動車の処遇がどうなるか気になる場合は、早めに弁護士や司法書士に相談し、具体的にどのように対処するのが最善かという点を十分に検討してもらうことが必要といえるでしょう。