自営業者が自己破産する場合、在庫の商品はどう扱えばよい?

自営業者(個人事業主)が自己破産する場合に気になるのが、在庫商品をどのように扱えば良いかという点です。

なぜなら、自己破産は借金の返済を免除してもらう手続きですが、借金の返済が免除される反面、全ての財産(資産)を裁判所(破産管財人)に申告し債権者への弁済(配当)に充てることが前提となりますので、自営業者の抱える在庫商品も売却すれば対価を得られる以上、債権者への配当に回すべき「資産」と判断されるからです。

しかし、自営業者(個人事業主)の保有する在庫商品といっても、漁師が捕獲した魚などの生ものから、職人などが製作する商品にいたるまで、さまざまな性質を持つ物がありますから、どのような在庫商品を具体的にどのように扱えば良いのかといった点について疑問が生じてしまいます。

では、自営業者(個人事業主)が自己破産する場合において、在庫商品がある場合、その在庫商品は具体的にどのように扱えば良いのでしょうか?

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自己破産の申立前に在庫商品を勝手に処分してはならない

前述したように、自己破産の手続きにおいては自営業者(個人事業主)が保有する在庫商品も「資産」と判断されますから、原則としてその在庫商品は、自己破産の手続きにおいて裁判所から選任される破産管財人が取り上げた市場で売却し、その売却代金が債権者に配当として舞敗されることになるのが通常です。

そのため、自己破産の申立を決意した場合には、それ以後はその在庫商品を勝手に処分することはできません。

なぜなら、自己破産をすることが決まっているにもかかわらず、債権者の配当に充てるべき資産である在庫商品を勝手に処分してしまったとなると、あとで自己破産の手続きに入った際に「債権者の配当に充てるべき資産を勝手に処分した」ということになって免責不許可事由に該当し、自己破産の免責(借金の返済が免除されること)が受けられなくなってしまう可能性があるからです(破産法第252条第1項1号)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
(以下、省略)

在庫商品は「そのままの状態」で破産管財人に引き継ぐのが原則

このように、自己破産を予定している自営業者(個人事業主)の保有する在庫商品は自己破産の手続きにおいて債権者への配当に充てるべき「資産」と判断されますから、自己破産の申立前に処分してしまうことは、例えその処分価格がその商品の定価であり適正な価格であったとしても、自己破産の手続き上で免責不許可事由にあたるものとして問題にされる可能性があり危険です。

ですから、もしも在庫商品がある場合には、その在庫商品に手を付けずに、そのままの状態で保管して自己破産の手続きで裁判所から選任される破産管財人に引き継ぐのが原則的な取り扱いとなります。

もっとも、これはあくまでも原則的な取り扱いであって、その在庫商品の価額や性質等によっては、それに応じて以下の(1)~(4)に挙げるような適当な対処をすることが求められます。

(1)在庫商品の売却(引渡し)が決まっている場合

在庫商品の売却がすでに決まっていて、その引渡日が自己破産の申し立てをする日までに到来してしまうような場合には、その在庫商品を売却することも基本的に差し支えないと考えられます。

このように引渡日があらかじめ定められているような場合には、その契約上、引き渡しが遅れることによって損害賠償金などを請求される可能性も否定できないからです。

仮に引渡ができないことによって損害賠償請求がなされるようになれば、その損害賠償金の金額の債務が増えることになり、かえって自己破産の債権者に配当に回す金額が減少してしまう可能性もありますので、あらかじめ引き渡す方が適当と考えられます。

もっとも、この場合であっても、通常よりディスカウントした金額で売却することは「不当に資産を棄損させた」として問題にされますので、あくまでもその商品の適正な価格で販売(引き渡す)ことが前提となりますし、あとで裁判所や破産管財人に「正当な金額で売却した」ということが説明できるように、その証拠など(契約書や領収書など)も保管しておかなければならないことには十分注意しておくべきでしょう。

また、このような場合は可能な限り自己破産の申立前であっても、事前に裁判所の書記官に相談するなど、裁判所の判断を仰ぐことも後のトラブルを防ぐ意味で重要となります。

もっとも、このあたりは自己破産の手続きを依頼する弁護士や司法書士がやってくれるはずですので、あまり心配はいらないのではないかと思います。

(2)腐りやすいものの場合

在庫商品が腐りやすいものである場合には、自己破産の申し立てまで保管すると商品を腐らせてしまい、かえって損をすることになりますので、あらかじめ売却することも認められると考えられます。

たとえば、漁業従事者が水揚げした魚や魚介類などは水揚げしてすぐに漁港で組合などに卸す必要があるでしょうから、そのような腐りやすい商品については処分しても差し支えない思います。

もっとも、この場合も不当に安い価格で売却してしまうと後で裁判官や破産管財人から「著しく低い価格で売却して資産を不当に目減りさせた」と問題にされる場合がありますので、裁判所や破産管財人に「正当な金額で売却した」ということが説明できるような証拠などを保管しておかなければならないことには十分注意しておくべきでしょう。

(3)消費期限や賞味期限が到来してしまうものの場合

消費期限や賞味期限が到来してしまうような商品についても、そのまま保管してしまうと売却できなくなったり商品価値が下がってしまう可能性があります。

そのため、消費期限や賞味期限が到来してしまうような商品もそのまま保管しておくことで資産としての価格がかえって目減りしてしまう恐れがありますので、そのように価値の減損が予想される場合には、自己破産の申立前に売却することも差し支えないものと考えられます。

なお、後で裁判官や破産管財人から「著しく低い価格で売却して資産を不当に目減りさせた」と問題にされる場合を想定し「正当な金額で売却した」と証明できる証拠を保管しておかなければならないことは前述したとおりです。

(4)保管しておくのに多大な費用が必要となるものの場合

在庫商品のなかでも保管しておくのに多大な費用が掛かるような商品については、その商品を売却した場合の価格と、自己破産の手続きを行って破産管材人に引き継ぐまでの費用を勘案して個別のケースで検討する必要があります。

たとえば、「家畜」などを「在庫商品」として抱えている場合には、すぐに出荷すれば現金化することができますが、出荷する日が延びれば延びるほどその餌代や飼育料、その他建物の賃料や光熱費等の経費がかさんでしまいますので、自己破産の申立前に売却しないことでかえって資産の減少を招いてしまう可能性があります。

このように、管財人に引き継ぐまでに多大な費用が発生してしまうのが避けられない在庫商品については、そのケースによっては自己破産の申立前に適正価格で処分することも検討する必要があります。

なお、このような場合にも、あらかじめ裁判所の書記官などに連絡を入れてどのような処置が適切か照会を掛けることも必要と考えられますが、この点については依頼する弁護士や司法書士に任せておけば十分でしょう。

なお、後で裁判官や破産管財人から「著しく低い価格で売却して資産を不当に目減りさせた」と問題にされる場合を想定し「正当な金額で売却した」と証明できる証拠を保管しておかなければならないことは前述したとおりです。

処分した場合であっても、それによって得た売却代金は生活費以外に使わないようにしなければならない

以上のように、自己破産の申立を行って裁判所から選任される破産管財人に引き継ぐまで保管しておくことが事実上困難であったり、保管しておくことによってかえって費用が発生し資産の減少を招く恐れがあるような在庫商品がある場合には、そのケースによっては自己破産の申立前に適正価格で売却することも認められるものと考えられます。

もっとも、仮にそのような理由で売却することになったとしても、その売却代金は自己破産の手続き上で債権者への配当に回すべき「債権者の資産」となりますので、その全額を破産管財人に引き継がなければなりません。

もちろん、生活費としてどうしても必要な場合にはその売却代金を使用することも仕方ありませんが、その場合であっても無駄な費用に支出してしまった場合は後で裁判官や破産管財人に厳しく調査されることになりますので注意が必要です。

処分する場合は必ず自己破産を依頼する弁護士や司法書士に相談して決めること

以上のように、自営業者(個人事業主)が自己破産する場合において在庫商品がある場合には、その商品は「債権者の配当に充てるべき資産」と判断されますので、破産管財人に引き継ぐまでに慎重な取り扱いが求められます。

ですから、自営業者(個人事業主)の人が自己破産を検討している場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、在庫商品などをどのように取り扱えば良いか、適切な助言を受けることが重要になりますので十分注意した方が良いでしょう。