自己破産の手続きで親からの借金だけを除外できるか?

自己破産の手続きを行うに際して、親からの借金がある場合には注意が必要です。

なぜなら、自己破産の手続きではすべての債権者を申立書に記載して裁判所に提出することが義務付けられていますから、仮に借金をしている相手方が自分の「親」であったとしても、その「親」を裁判所に「債権者」として届け出なければならないからです。

自己破産の手続きで「親」を「債権者」として届け出た場合には当然、裁判所からその「親」に「〇〇という人が自己破産の手続きを開始しましたよ」という開始決定書が通知されることになるため「親」に自分が自己破産していることがバレてしまいます。

また、「親」からの借金は他の債権者からの借金と同様に免責(借金の返済が免除されること)の対象となることから「親」への弁済は禁止されることになりますので、事実上「親」からの借金を踏み倒すことになるのは避けられないでしょう。

このように、「親」からの借金がある状態で自己破産する場合には「親バレ」してしまうこととや「親の借金を踏み倒す」ことになることが申立に際して障害となりますが、では、このような障害を取り除くため、自己破産の手続きから「親」の借金を除外したり、申立前にあらかじめ「親」からの借金だけを弁済してしまうことは可能でしょうか?

自己破産の申立前に「親」からの借金だけを手続きから除外したり、申立前に弁済したりしておけば「親バレ」したり「親からの借金を踏み倒す」こともなく自己破産の手続きを進めることができるため問題となります。

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自己破産の手続から「親」からの借入だけを除外することはできない

まず、自己破産の手続きにおいて「親」からの借金だけを除外することは認められません。

自己破産の手続きではすべての債権者を平等に扱わなければなりませんし(債権者平等の原則)、仮に「親」からの借金を除いて申し立てをしてしまった場合には、虚偽の債権者名簿を提出したものとして免責不許可事由に該当し、自己破産の免責(借金の返済を免除してもらうこと)が受けられなくなってしまうからです(破産法第252条第1項7号)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~6号(省略)
第7号 虚偽の債権者名簿(中略)を提出したこと
(以下、省略)

「親」からの借金だけを事前に弁済することも認められない

また、自己破産の申立前に「親」からの借金だけを弁済してしまうことも認められません。

なぜなら、前述したように自己破産の手続きでは全ての債権者を平等に扱わないといけませんから、たとえ「親」であっても特定の債権者だけを特別扱いして弁済することは禁止されるからです。

仮に「親」からの借金だけを事前に弁済してしまった場合には、自己破産の手続きで禁止された偏波弁済(※一部の債権者にだけ偏った弁済すること)として免責不許可事由に該当することになりますから、自己破産の免責(※借金の返済が免除されること)が受けられなくなってしまうので危険です(破産法第252条第1項3号)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~2号(省略)
第3号 特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。
(以下、省略)

ですから、「親」からの借金を自己破産の手続きから除外するために事前に弁済してしまうというのもできないと考えておいた方が良いでしょう。

「親」からの借金をどうしても自己破産の手続きに含めたくない場合には…

以上のように、「親」からの借金がある場合には事前に弁済することも自己破産の手続きから除外することもできませんので、「親」からの借金がある場合には、「親からの借金がある」ものとして自己破産の手続きを進めるしかないのが実情です。

もっとも、そうは言ってもどうしても「親」からの借金を自己破産の手続きに含めたくない場合はあるわけですが、そのようにしたい場合にはどうすれば良いかというと、その場合にはもう、上記のような免責不許可事由となることを承知の上で「親」の借金だけを自己破産の申し立ての前に弁済してしまうしかありません。

前述したように、自己破産の申立前に「親」の借金だけを弁済してしまうことは偏波弁済となって免責不許可事由となりますが、そのように免責不許可事由がある場合であっても自己破産の手続きでは「裁量免責」という制度が設けられており、裁判官が破産管財人の意見を聴いたうえで独自の判断でその「裁量」によって免責を与えること(裁量免責)も認められています。

そのため、裁判官から「裁量免責」を受けることを期待してあえて偏波弁済をするという”裏技”を使って処理することを考えるケースもあると思います。

なお、裁判官の裁量免責を受けたい場合は、裁判官に対して偏波弁済が必要であった事情などを上申書などに記載して裁判所や破産管財人に提出し、偏波弁済の必要性を説得するしかありません。

「裁量免責」はあくまでも裁判官の「裁量」により判断されるため必ずしも免責が認められるわけではありませんが、上申書を提出することで裁判官や破産管財人の理解を求めていくほかないのではないかと思います。