マイホームを所有している人が自己破産する場合に一番気になるのは、自宅の持ち家がどのように処理されるのか、という点ではないでしょうか?
自己破産の手続きは借金の返済義務を免除(免責)するだけでなく、債務者の資産と負債を「精算」する手続きでもありますので、債務者が所有する資産(財産)がある場合には自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則です。
そうすると当然、持ち家となっている自宅も自分の資産である以上、自己破産の手続きで取り上げられてしまうことが予想できますが、自宅として居住している持ち家が裁判所に取り上げられてしまうことは生活の本拠を失うことを意味しますので、その受ける影響は他の資産の比ではないでしょう。
ですから、持ち家を所有している人が自己破産する場合には、持ち家が具体的にどのように扱われるのかという点が不安になるのです。
では、実際の自己破産の手続きでは、申立人である債務者の持ち家は具体的にどのように扱われることになるのでしょうか?
自己破産すると持ち家(自宅)はどうなるのか?
自己破産した場合に自宅として居住している持ち家が具体的にどのように処理されるかという点は、その持ち家の「住宅ローンが残っている場合」と「住宅ローンが残っていない場合」との場合でその取扱いが異なりますので、以下その2つのケースを別々に解説してみることにいたします。
【1】住宅ローンが残っている場合
住宅ローンが残っている持ち家がある場合には、裁判所か住宅ローン会社のどちらかがその持ち家(不動産)を取り上げて競売に掛けるか、もしくは住宅ローン会社が任意売却で売却してしまうかのどちらかになりますが、いずれの場合も「住宅ローンの残高が持ち家の評価額より多い場合(オーバーローンの場合)」と「住宅ローンの残額が持ち家の評価額より少ない場合」とで扱いが異なりますので、以下それぞれのケースごとに解説していきます。
ア)住宅ローンの残高が持ち家の評価額より多い(オーバーローン)の場合
住宅ローンの残高が持ち家の評価額より多い場合(いわゆる「オーバーローン」になっている場合)には、自己破産の手続きを行う裁判所が取り上げてその不動産を競売にかけても、競売で得られる売却代金のすべてが住宅ローン会社にとられてしまいますので、自己破産の手続きを行う裁判所がその持ち家を取り上げることは通常ありません。
ただし、そういったオーバーローン状態の不動産であっても住宅ローン会社にとっては売却する価値がありますので、そのようなオーバーローンになっている持ち家の場合には、住宅ローン会社が任意売却(※裁判所の手続きによらずに不動産仲介業者を介して売却すること)にかけて売却し、その売却代金を住宅ローンの残額にあてるか、住宅ローン会社が抵当権を実行して競売にかけ、その競売代金を住宅ローンの残額に充当するのが通常の処分方法となります。
このように、住宅ローンの残高が持ち家の評価額より多い(オーバーローン)の場合には、自己破産の手続きを行う裁判所が持ち家の処理に関与しない代わりに、住宅ローン会社が主導してその持ち家を処分することになりますので、いずれにしても所有している持ち家は失うことになります。
※裁判所によってはオーバーローンの基準を「評価額の1.3倍」とか「評価額の1.5倍」にしているところもありますので、詳細は各裁判所で事前に確認することが必要です。
イ)住宅ローンの残高が持ち家の評価額より少ない場合
「住宅ローンの残高が持ち家の評価額より少ない場合」には、競売や任意売却を行って売却しても、自己破産の手続きを行う裁判所が一定のお金をその売却代金から回収することができますので、自己破産の手続きを行う裁判所が主導して競売か任意売却を行うことになります。
なぜなら、住宅ローンが残っている不動産がある場合には、その不動産を競売や任意売却で売却することによって得られる売却代金からまず最初に住宅ローン会社が住宅ローンの残額を差し引くことになりますが、「住宅ローンの残高が持ち家の評価額より少ない場合」には、住宅ローンの残額よりも高い金額で売却することが可能だからです。
このような場合、その売却代金から住宅ローン会社が住宅ローンの残額を差し引いたとしても売却代金の一部が残されることになりますから、その競売や任意売却で売却された売却代金から住宅ローン会社が住宅ローンの残額を差し引いた残りの残額が、自己破産の申立人である債務者の資産として残ることになります。
そうすると、その「競売や任意売却で売却された売却代金から住宅ローン会社が住宅ローンの残額を差し引いた残りの残額」を自己破産の債権者への配当原資とすることができますので、自己破産の手続きを行う裁判所が主導して競売や任意売却を行う意味があることになります。
ですから、「住宅ローンの残高が持ち家の評価額より少ない場合」には自己破産の手続きを行う裁判所が主導して競売や任意売却でその申立人が所有する持ち家を処分することになるのです。
もっとも、自己破産の申し立てを行う債務者本人としては、競売や任意売却を主導するのが住宅ローン会社であるか自己破産の手続きを行う裁判所かであるかで結論がことなるわけではなく、いずれにせよ持ち家を取り上げられてしまうことには変わりありません。
「住宅ローンの残高が持ち家の評価額より少ない場合」にも、自己破産の申し立てを行えば、その所有する持ち家は処分されて失うことは避けられないといえます。
【2】住宅ローンが残っていない場合
住宅ローンが残っていない持ち家(相続で取得したり、住宅ローンを完済しているような不動産)がある場合には、自己破産の手続きを行う裁判所が主導して競売か任意売却を行ってその持ち家を売却し、その売却代金を債権者への配当に充てるのが通常の処分方法となります。
したがって、「住宅ローンが残っていない」持ち家を所有している場合には、自己破産の手続きを行うことでその持ち家を失うことは避けられないのが実情です。
ただし、その持ち家に「資産価値がない物件」であったり「資産価値があるものの買い手がつかない物件」であるような場合には、例外的に裁判所に取り上げられず、自己破産後も引き続き所有することが認められる場合もあります。
ア)評価額が20万円を下回っている物件の場合
住宅ローンが残っていない持ち家であっても「評価額が20万円を下回っている」ような物件の場合には、基本的に裁判所に取り上げられて競売や任意売却で処分されることはありません。
なぜなら、20万円を下回っているような不動産を競売や任意売却で処分しても破産管財人に支払う費用が最低でも20万円は必要となるため、費用倒れに終わってしまい、競売や任意売却で処分する意味がなくなってしまうからです。
債務者の資産である不動産を競売や任意売却で処分する場合はその手続きや売却価格の適性性を担保するために破産管財人の選任が必要となりますが、その破産管財人に支払う管財費用(引継予納金)が最低でも20万円は必要となりますので、自己破産の申立人に20万円は現金を用意してもらう必要があります。
しかし、競売や任意売却で処分しても20万円に満たない不動産しかない場合には、20万円に満たない資産を処分するために20万円を債務者に支払わせて破産管財人に仕事をさせることになり、不都合な結果となってしまいます(そうなるぐらいなら破産管財人を選任しないで最初から債務者に20万円を積み立てさせて債権者に配当する方が債権者の利益となるからです)。
このような事情があることから、持ち家がある場合であっても、その評価額は20万円を超えない場合には競売や任意売却で処分することはせず、自己破産の申立人である債務者にそのまま引き続き所有を認める取り扱いにしているのです。
ですから、住宅ローンが残っていない持ち家であっても「評価額が20万円を下回っている」ような持ち家を所有している場合には、自己破産をした後も引き続き自宅としてその持ち家に住み続けることができるということになります。
※ただし、裁判所によっては若干取り扱いが異なる場合もありますので、詳細は申立前に各裁判所で確認することが必要です。
※なお、不動産の評価額は市役所等の固定資産税課で発行される固定資産税評価証明書で確認することができます。
イ)評価額が20万円を超えていても買い手がつかないような物件の場合
また、仮に持ち家の評価額が20万円を超えている場合であっても、その持ち家が誰も買い手がつかないような物件である場合にも、自己破産の手続きで裁判所が競売や任意売却で処分せず、そのまま所有することが認められる場合があります。
先ほども述べたように、評価額が20万円を超えている持ち家がある場合には裁判所が取り上げて競売や任意売却で処分し、その売却代金を債権者への配当に充てるのが通常なのですが、売却しようと思っても誰も買い手がつかないような物件は、いくら固定資産税の調査で評価額が20万円を超えると判断されているものであっても、実質上の評価額は「0円」となりますので、競売や任意売却に掛ける意味がありません。
ですから、そのような買い手がつかない持ち家の場合には、たとえ市町村役場が発行する評価証明書に20万円を超える価格が表示されている場合であっても、自己破産の手続きで取り上げられて処分されることはなく、自己破産後もそのまま自宅として所有することが認められる場合があるのです。
なお、「評価額が20万円を超えていても買い手がつかないような物件」としては、たとえば山奥の限界集落にある物件であるとか、何らかの事件事故で事故物件になっているとか、廃棄物によって土壌が汚染があるとか、原発の影響で放射能汚染があるとか、そういった何らかの事情で誰も買い手がつかないようなものが代表的な例として挙げられるでしょう。
※ただし、「買い手が付くか付かないか」といった判断は慎重に行われる必要があり、破産管財人の調査が必要となるでしょうから、このようなケースでは管財事件として処理される必要性から管財費用(引継予納金)として20万円程度の費用は納付する必要があると思います。
最後に
以上で説明したように、自己破産の手続きでは持ち家がある場合には裁判所が取り上げて売却されるのが通常ですが、その物件に住宅ローンが残っているかいないか、また実質的な資産価値があるかないかなどによって若干の取り扱いに違いがあるので注意が必要です。
もっとも、この辺りの細かいところは、実際の持ち家の状況や債務の状況などによって判断が難しい面もありますので、持ち家がある状態で自己破産を検討している場合には、なるべく早めに弁護士や司法書士に相談し、持ち家を取り上げられなくてすむ方法がないか、あるいは少しでも高く売却できる方法はないかなど、十分に検討をしてもらう必要があるでしょう。