自己破産した人の末路は哀れで悲惨なものなのか?

自己破産しなければならないほどの借金を抱えているにもかかわらず、弁護士や司法書士からの勧めがあっても頑なに自己破産することを拒み続ける人は少なくありません。

自己破産を躊躇してしまう人の理由は様々あるでしょうが、その理由を考えてみると、そのほとんどは「自己破産した後の生活」が不安なために自己破産の手続きに踏み出せないのだろうと思います。

自己破産は借金の返済義務を免除(免責)してもらうのと同時に、債務者が所有する資産を清算する手続きでもありますから、自己破産するまでに築き上げてきた資産は原則としてすべて取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則です。

また、信用情報機関に事故情報が登録されて(いわゆる「ブラックリストに載る」ということ)新たな借り入れやローンを組むことさえできなくなってしまうのが通常の取り扱いとなっています。

このような事実を考えると、それまで借り入れに頼って生活してきた人にしてみれば「自己破産したらどうやって生活していけばいいんだろう」と不安になる気持ちも当然といえば当然なのかもしれません。

しかし、自己破産した後の生活は、本当にそのように困難な毎日が続くのでしょうか?

ここでは、自己破産した後に「生活が立ち行かなくなる」ほど厳しい毎日が避けられないものなのか、自己破産した人の末路がどのようなものになるのか、といった点について考えてみたいと思います。

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自己破産した人の末路は「悲惨なもの」ではない

結論から言うと、自己破産した人の人生は決して悲惨なものになるわけではありません。

確かに、先ほども述べたように自己破産した場合は保有しているすべての資産が裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則ですが、自由財産として認められる財産(現金であれば99万円まで)は自己破産をしても引き続き保有することが認められていますし、自己破産の手続きが開始された「あと」に取得する給料等についてはすべて自己破産の手続きとは切り離されて取り扱われますから、自己破産した「あと」の生活で特段の支障が発生することは考えられません。

自己破産の手続きが開始された後は、その後に会社から振り込まれる給料の範囲でつつましく生活すればよいだけであって、世間一般の人と同じ生活ができることに変わりはないのです。

また、先ほども述べたように自己破産することで信用情報機関に事故情報が登録されて(いわゆる「ブラックリストに載る」ということ)それ以降一定の期間(5年から10年の間)は新たな借り入れやローンを組むことができなくなりますが、借り入れやローンを組むことができないからと言って生活が破綻するわけでもないでしょう。

もちろん、ローンを組むことができなくなるのは厳しい面もありますが、ほしいものがあれば毎月の収入から節約をして貯金をし、その貯金がたまったところで一括払いで購入すればよいだけですから、ローンや借り入れができないからと言って「悲惨な生活」が待っているとまでは言えないはずです。

それに、そもそも破産という手続きは「債務者の生活の再生」が目的であって、債務者に「罰」を与えるための制度ではありませんから、「自己破産したらとんでもない毎日が待っている」というような話はまったくの「都市伝説」にすぎないといえます。

【破産法1条】

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

このように、冷静に考えれば自己破産したことによって受ける不利益はそれほど深刻なものではなく、ごく普通の一般の人とさほど変わりはないのが実情なのですから、自己破産することに必要以上に恐怖を抱く必要はないといえます。

自己破産したことが知られることはまずない

自己破産することを躊躇する人の中には、「自己破産したことが周りの人に知られてしまうのではないか」と不安になる人がいるようですが、そういった心配も冷静になって考えれば取り越し苦労にすぎません。

もちろん、自己破産で免責の対象とする借金に、勤務先からの借り入れがあれば勤務先には知られてしまいますし、友人や親族などからの借り入れがあればその友人や親族に知られてしまうことは避けられないでしょう。

また、保証人が付いている債務を自己破産で処理する場合には、その保証人に対しては一括請求がなされてしまうので、その保証人になってくれている人に自己破産することが知られてしまうことは避けられないといえます。

しかし、そのような事情がないのであれば、自己破産した事実が身内や勤務先に知られてしまう可能性はほぼありません。

自己破産すると、官報という国が発行する冊子に破産者の氏名と住所が掲載されますが、官報を毎号チェックする人はまずいませんから、官報から自己破産したことが自分の知り合いに知られてしまうことも考えられないのが実情です。

ですから、自己破産したからといってその事実が知られてしまうことによって不利益を受けるようなことは通常はありえませんので、その面で考えても自己破産の末路が悲惨なものになるとは到底考えられないのです。

ただし負債に関係している関係者へのケアは必要

以上のように、自己破産したとしても、それまで保有していた資産が債権者への配当に充てられたり、信用情報機関に事故情報が登録される5年から10年の間は借り入れが制限されるというような、経済的な不利益を受けることはあっても、それ以上の生活上の不利益は受けないのが普通なのです。

また、自己破産したとしてもそのことが知り合い等に知られてしまうこともまずないのですから、交友関係の面で考えても生活上の不都合はないものと考えられます。

ただし、保証人や連帯保証人に親族や友人がなってくれていたり、友人や親族などからの借り入れがある状態で自己破産する場合には、その親族や友人などに経済的な不利益を与えてしまうことになるわけですから、それ相応のケアは必要でしょう。

(たとえば自己破産する前の時点で十分に事情を説明して理解を得ることはもちろんですが、自己破産の手続きが終わった後も、なるべく早く謝罪のあいさつにはいくべきでしょう)

賃貸物件を追い出されることもまずない

なお、自己破産したら「自宅を追い出されるのではないか」と不安になる人がいるようですが、自己破産したからと言って賃貸マンションや賃貸アパートを追い出されるようなことはありません。

もちろん、賃貸で借りている自宅の家賃を滞納している場合でその滞納家賃を自己破産の免責の対象として処理した場合には、家主の心証を悪くして次の更新を受けられなくなるといったような不都合が生じるかもしれませんが、その場合はその場合で新しく別の物件を借りればよいだけですし、そもそも家賃を滞納しているのであれば自己破産しなくても遅かれ早かれ賃貸借契約は解除され、追い出されてしまうのは避けられないでしょう。

また、自分が所有している家やマンションであれば自己破産によって競売にかけられたり任意売却されたりするかもしれませんが、その場合も自己破産の手続き中に賃貸マンションや賃貸アパートを借りればいいわけで、自己破産したからと言ってホームレスになるわけではありません。

ちなみに、自己破産した場合は信用情報機関に事故情報が登録されますが、その事故情報は賃貸借契約の際に問題になることはまずありませんので、自己破産したことを理由に賃貸借契約を拒否されるケースはほとんどありません。

このように、自己破産しても住む場所を失うことは基本的にないわけですから、その面を考えても自己破産の末路が悲惨なものになるとは言えないのです。

最後に

以上のように、自己破産した後の生活は、若干の制約はあるとしても一般の人の生活とほとんど同じであって絶対に「悲惨」なものではないのが実情です。

「自己破産した人の末路は悲惨」というのは単なる都市伝説であって、実際には自己破産した人の末路は決して哀れなものではないのですから、借金の返済に窮した場合には恐れることなく早めに弁護士や司法書士に相談し、適切な対処をしてもらうことを心掛けてほしいと思います。