病院の医療費や歯医者の治療費も自己破産で処理できるか?

借金の返済が困難になっている人の中には、病院の医療費や歯科医院の治療費の支払いのため借金を重ねた結果、多重債務に陥ってしまったという人も多いかもしれません。

また、これとは逆に、借金の返済が困難になり生活費不足を起こしてしまった結果、病院の医療費や歯科医師の治療費の支払いが出来なくなったという人も少なからずいるのではないかと思われます。

このような人が返済・支払いができない場合には、最終的に自己破産の手続きを申立てて裁判所から免責(借金の返済が免除されること)の決定を受けるしかありませんが、ここで問題となるのが、このような病院の医療費や歯医者の治療費も自己破産で免責を受けることができるかという点です。

なぜなら、たとえば税金や国民保険料の滞納分については租税債権として非免責債権扱いとなり、自己破産をしても滞納分が免除されることはありませんから、病院の医療費や歯科医院の治療費等もこれに準じて自己破産の免責の対象とならないのではないか、という疑問が生じるからです。

では、自己破産の申し立てをした場合、病院の医療費(手術代や薬代も含む)や歯科医院の治療費等についても免責の対象となり、その返済が免除されるのでしょうか?

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病院の医療費や歯科医師の治療費も自己破産の免責の対象となる

結論からいうと、病院の医療費や歯科医院の治療費等も自己破産の免責の対象となりますので、これらの未払い分を自己破産の手続きで処理した場合には、免責を受けることによってその全額の返済が免除されることになります。

なぜなら、自己破産の手続きを規定した破産法という法律では、自己破産の免責によっても返済の義務が免除されない債権を非免責債権として列挙していますが、そこには病院の医療費や歯科医院の治療費は挙げられていないからです(破産法第253条1項)。

【破産法第253条第1項】

免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
第1号 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
第2号 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
第3号 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
第4号 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(中略)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
第5号 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
第6号 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
第7号 罰金等の請求権

このように、破産法の第253条では自己破産の免責が出されてもその免責の対象とはならない請求権を列記していますが、この条文には病院の医療費や歯医者の治療費は記載されていません。

したがって、病院の医療費や歯医者の治療費についても、他の貸金業者やクレジット会社などからの借入金と同様、自己破産の手続きで裁判所から免責が出されれば、その支払いが全額免除されることになるものと考えられます。

病院の医療費や歯医者の治療費を自己破産の対象としてしまうと、その後の治療を受けてもらえなくなるか?

以上のように、病院の医療費や歯医者の治療費を自己破産の手続きに含めて処理した場合には、その代金の未払い分についても免責の対象となり支払いが免除されることになります。

しかし、ここで問題となるのが、病院の医療費や歯医者の治療費を自己破産で処理し免責を受けてしまうと、その後の診察や治療を拒否されてしまうのではないか、という点です。

自己破産の手続きによって医療費や治療費の支払いを免除されるということは、相手方の病院や歯医者の側からすれば、「代金を踏み倒された」という事と同じですから、病院や歯医者の側が「お金を払わない人の治療はできない」と考えるのも納得できます。

病院や歯科医院もボランティアでやっているわけではないからです。

もっとも、このような心配は必要ありません。

なぜなら、医師や歯科医師は、患者から診察や治療の求めがあった場合には正当な事由がない限りその診察や治療を拒否することができないからです(医師法第19条1項、歯科医師法第19条1項)。

【医師法第19条1項】

診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

【歯科医師法第19条1項】

診療に従事する歯科医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

この点、過去に自己破産を申立てされて医療費や治療費の支払いを受けられなかった事実がある場合に、病院や歯科医院側が「医療費や治療費を自己破産の免責で支払ってもらえなかったことは診察や治療を拒否することができる正当事由に該当する」と主張して診療診察を拒否することも考えられますが、「その患者が過去に自己破産して医療費や治療費を支払わなかったこと」は、この「正当な事由」には当たらないと考えられています。

(※この点についてはこちらのページで詳しく解説しています→病院や歯医者の医療費を自己破産したら以後の治療を拒否される?

したがって、仮に過去に自己破産の免責によって医療費や治療費・診察料を「踏み倒した」ことのある病院や歯科医院で再度診察や治療を求めた場合であっても、その病院や歯科医院は診療や治療を拒むことができませんから、自己破産したことによってその後の診療や治療が拒否されるという心配は一切ないということが言えます。