オリンピック選手が自己破産すると金メダルも取り上げられるか?

自己破産の申立を行った場合、所有するすべての資産(財産)は裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当(分配)されるのが原則です。

なぜなら、自己破産の手続きは負担する借金などの債務の支払いを全て免除(免責)することを目的としていますが、債務者(申立人)が債務を弁済する資産(財産)を所有したまま免責を認めてしまうと、債務者(申立人)が資産(財産)を残したまま債権者が多大な経済的損失を受けてしまう結果となり不都合だからです。

そのため、自己破産の手続きでは、裁判所から選任される破産管財人によって厳格な資産調査が行われ、債務者(申立人)に保有が認められる一定の自由財産以外の資産(財産)については破産管財人に市場で売却され、その売却代金が債権者に配当されることになるのです。

ところで、このように自己破産の手続きでは申立人(債務者)の所有する財産(資産)は裁判所(破産管財人)によって取り上げられ売却されてしまうのが原則的な取り扱いとなるわけですが、例えば申立人がオリンピック選手などである場合、その取得した金メダルやトロフィーなども裁判所(破産管財人)に取り上げられて債権者への配当に回されることがあるのでしょうか?

オリンピック選手などスポーツ選手が競技大会で取得したメダルやトロフィーは、その「物」自体にはさほど金銭的な価値はありませんが(※ほとんどが金メッキなどで純金や純銀ではないから)、オークションなどに出品すればそれなりの値段が付く可能性があることから「資産」としての価値もあると考えられるため問題となります。

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メダルやトロフィーは自己破産しても取り上げられない

結論からいうと、スポーツ選手がオリンピックなどの大会で取得したメダルやトロフィーについては、たとえ自己破産したとしても裁判所(破産管財人)に取り上げられてしまうことはありません。

確かに、スポーツ大会で選手に贈られるメダルやトロフィーは金や銀、銅などの外見を有していますがその全てが純金や純銀などでできているわけではありませんのでその実体的価値はオリンピックの金メダルであっても数千円の価値しかありませんが、収集家にとっては「その選手」の「そのメダル」に価値があるためオークションなどに出品すれば数万円から数十万円の価値が付く場合もあり、「資産」としての価値は十分に存在する思われます。

しかし、破産法という法律では「差押えすることができない財産」は債権者への配当に回す「破産財団」には該当していないと規定しており、民事執行法では「債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物」は差押えすることができないと規定されていますから、スポーツ選手に贈られるメダルやトロフィーも「名誉を表章するもの」である以上、債権者の配当に充てるべき資産として破産管財人が取り上げて売却することはできないものと考えられます(破産法第34条、民事執行法第131条)。

 

【破産法第34条第3項】

第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない

  1. (省略)
  2. 差し押さえることができない財産(省略)
  3. (以下、省略)

【民事執行法第131条】

次に掲げる動産は、差し押さえてはならない

第10号 債務者又はその親族が受けた勲章その他の名誉を表章する物

したがって、スポーツ選手がオリンピックなどの大会で取得したメダルやトロフィーはたとえ自己破産したとしても、裁判所(破産管財人)に取り上げられることはないということになります。

なお、もちろんこれはスポーツ選手に贈られるメダルやトロフィーだけでなく、他のケースにも同様にあてはまりますので、たとえば国や天皇陛下から賜る勲章であったり、文化的な活動に対して贈られる表彰等などについても、自己破産の手続きにおいて裁判所(破産管財人)に取り上げられることはないといえます。