カードのショッピング枠を現金化してはいけない3つの理由

「ショッピング枠の現金化」は、クレジットカードの「ショッピング枠」を利用して顧客自身に商品を購入させ、その顧客が購入した商品を業者が買い取る形で顧客にキャッシュバック等の形で金銭を交付する一連の行為を言います。

この「ショッピング枠の現金化」には法的な問題点がいくつかありますが、それはなにもその「ショッピング枠の現金化」を行う業者だけに生じるものではありません。

それを利用する顧客の側にも様々な法的な問題を生じさせるものでもありますので、安易な考えで「ショッピング枠の現金化」を利用することは実は非常に危険な行為といえるのです。

では、「ショッピング枠の現金化」を利用した場合、具体的にどのような法的問題が生じうるのでしょうか?

「ショッピング枠の現金化」を利用することがどれだけのリスクを生じさせるのか、考えてみます。

広告

 【1】ショッピング枠を現金化する行為自体がクレジット会社に対する「詐欺罪」にあたる

「ショッピング枠の現金化」を行う業者の業態は様々ですが、主な業者は次の【A】【B】2種類の行為によって「ショッピング枠の現金化」を行っているようです。

【A】
比較的多いのが、顧客に対して数百円程度の資産価値しかない商品をクレジットカードのショッピング枠を利用して購入させ、クレジット会社から受け取る商品代金から手数料を差し引いた金額でその資産価値のない商品を買い戻すような業態です。
たとえば、「ショッピング枠の現金化」を行う業者Xが、顧客Aに対して100円ショップで10個100円で売られているようなビー玉をP社のクレジットカードのショッピング枠を利用して「1個10,000円」で100個購入させ、P社から100万円の立替金が振り込まれた時点で90万円をAに交付するようなケースです。
この場合、AはPに対して100万円の債務を負担することになりますが、Pから100万円の立て替え金を受け取ったXにその100個のビー玉を買い取ってもらうことで90万円の現金を受け取ることができますから、Pのクレジットカードの100万円のショッピング枠を利用して90万円の現金を取得することができるため「100万円のショッピング枠を90万円に現金化」することができることになります。
(※この場合、Xはクレジット会社のPから100万円を受領しているにもかかわらずAには90万円しか渡さないのでその差額の10万円がXの利益となります)
【B】
次に多いのが、顧客に高級バッグ等の高額な商品をクレジットカードのショッピング枠を利用して購入させたうえで、その商品を8~9割程度の価格で買い取るような業態です。
たとえば、「ショッピング枠の現金化」を行う業者Yが、顧客Bに対して100万円のブランド品のバッグをQ社のクレジットカードのショッピング枠を利用して購入させ、Yがその100万円のバッグをBから90万円で買い取るようなケースです。
この場合、BはQに対して100万円の債務を負担することになりますが、Yにそのブランド品のバッグを90万円で買い取ってもらうことで90万円の現金を受け取ることができますから、Qのクレジットカードの100万円のショッピング枠を利用して90万円の現金を取得することができるため「100万円のショッピング枠を90万円に現金化」することができることになります。
(ちなみにこの場合、Yはその90万円で買い取った商品を90万円以上で中古品市場で転売し、その差額を利益として収受することになります)

このように、「ショッピング枠の現金化」を行う業者には大きく分けて2種類の業態があるわけですが、この【A】【B】いずれの業態の業者を利用した場合であっても、その「ショッピングの現金化」を行う行為自体がクレジット会社に対する「詐欺罪」を構成する可能性があります。

なぜなら、この【A】で例示したケースではそもそも1個で10円程度しか資産価値のないただのビー玉を100万円の価値があるものとしてクレジット会社から100万円を立て替えてもらっているわけですから、その点で「クレジット会社を欺いて100万円の財物を交付させた」ということが言えますし、【B】で例示したケースでも100万円の価値のあるバッグを購入したという点に嘘はないにしてもその商品をすぐに業者に売却して金銭の交付を受けているのですから、それはショッピング枠を本来の目的とは異なる目的で利用していることになりその点でクレジット会社を「クレジット会社を欺いて100万円の財物を交付させた」という点は異ならないからです。

また、クレジットカードのショッピング枠を利用して商品を購入した場合には、その購入代金の支払いが終わるまでその購入した商品の所有権はクレジット会社に留保され、万一返済が滞るような場合はその留保された所有権に基づいて商品を引き揚げ、中古品市場で売却してローンの残高に充当するのが通常ですが、上記の【A】ケースであればそもそも100万円の価値がない商品にすぎませんし、【B】のケースでは商品自体すでに業者に買い取ってもらって存在していないわけですから、クレジット会社に所有権が留保されているとはいってもその商品からクレジット代金の回収はそもそも不可能であって、そのような「クレジット会社が所有権留保の利益を受けられない商品のクレジット代金を支払わせられた」という点で「クレジット会社を欺いて100万円の財物を交付させた」ということになります。

このように、【A】のようなケースでも【B】のようなケースでも「ショッピングの現金化」を行う業者を利用したこと自体が「クレジット会社を欺いて100万円の財物(クレジット代金)を交付させた」ということになるわけですが、刑法246条1項ではそのような「人を欺いて財物を交付させ」る行為が詐欺罪として刑事罰の対象とされています。

【刑法第246条1項】
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

このように考えると、「ショッピングの現金化」を行う業者を利用すること自体が「詐欺罪」として処罰される危険性を生じさせるといえるのです。

【2】ショッピング枠の現金化を行う業者に商品を譲り渡す行為が「詐欺破産罪」にあたる

また、「ショッピング枠の現金化」の現金化を行う業者に対してクレジットカードのショッピング枠を利用して購入した商品を譲り渡す(買い取ってもらう)行為自体が破産法で禁止されている「詐欺破産罪」に該当する可能性があることも十分に認識しておくべきでしょう。

先に述べたように、「ショッピングの現金化」を行う業者を利用した場合は先ほどの例に挙げた【A】の場合であっても【B】の場合であってもそのクレジットで購入した商品は現金化業者に譲り渡す(もしくは買い取ってもらう)ことになりますので、その時点でその商品相当額の資産が目減りしてしまうことになります。

もちろん、先ほどの【A】のようなケースではその購入した商品にそもそも資産的価値はありませんし、【B】のようなケースでもそもそもその所有権はクレジット会社に留保されているわけですから、「ショッピングの現金化」を利用した債務者がその購入した商品を業者に譲り渡したとしても債務者自身の資産が目減りすることは実質的にはないかもしれません。

しかし、その資産価値がないか、あるいはクレジット会社に所有権が留保されている商品であったとしても、自己破産の手続きが開始されれば破産管財人の管理下の元で換価手続きが行われ、その換価代金が債権者に公平に配当される必要があるわけですから、その面で考えれば自己破産の手続きでは債務者の財産として考えて差し支えないともいえます。

そうすると、「ショッピングの現金化」を行う業者に言われるがままクレジットカードのショッピング枠を利用して購入した商品をその業者に譲り渡す(買い取ってもらう)行為自体が「債務者の財産を損壊した」とか「債務者の財産を譲渡(又は譲渡を仮想)した」とか「財産の価格を減損させた」とか「債務者の財産を債権者の不利益に処分した」ということにもなりかねず、そうであれば破産法265条1項で禁止されている詐欺破産罪に該当してしまう危険性は十分にあるといえます。

【破産法265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為

【3】ショッピング枠の現金化を行う業者を利用する行為が「免責不許可事由」に該当する

上記の【1】と【2】はいずれも犯罪行為に該当する危険性を論じていますが、「ショッピングの現金化」については自己破産の免責手続きにおいても影響することも注意する必要があります。

「ショッピング枠の現金化」が免責不許可事由に当たることの詳細は『クレカのショッピング枠現金化で自己破産の免責が不許可になる?』のページで詳しく解説していますのでそちらを読んでもらえればわかると思いますが、先ほども述べたように「ショッピング枠の現金化」を利用する場合はクレジット会社に立て替えてもらったお金で購入した商品を実際の商品価格とは異なる価格で業者側に譲り渡す(買い取ってもらう)ことになるわけなので、それ自体が「信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと」という破産法252条1項2号に抵触することになり、免責不許可事由に該当するものとして免責が許可されない危険性を生じさせるのです。

【破産法第252条1項】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一(省略)
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三(省略)

このように、「ショッピング枠の現金化」を利用した場合は、後に自己破産した場合に免責を受けられなくなってしまう危険性があるわけですから、「ショッピング枠の現金化」を利用することは厳に慎まなければならないといえるのです。

最後に

以上のように、「ショッピング枠の現金化」を利用する行為は、その利用する債務者の側において詐欺罪や詐欺破産罪などの犯罪事実を構成する可能性がありますし、破産手続きにおける免責不許可事由に該当するものとして免責が受けられなくなってしまう可能性もある危険な行為といえます。

ですから、借金の返済が困難になったのであれば「ショッピング枠の現金化」など危険な行為に手を染めるのではなく、迅速に弁護士や司法書士に相談して適切な対処をしてもらうよう心掛けてもらいたいと思います。