ビットコインの購入は自己破産の免責不許可事由にあたるか?

ビットコインを筆頭に、モナコインやリップルなど様々な仮想通貨が発行されている現在では、実際にその仮想通貨を保有し、もしくは商品購入の対価として利用している人も少なくありません。

そうなると当然、多重債務に陥って債務整理をする人の中にも仮想通貨を所有ないし利用したことがある人が現れ始めるわけですが、債務整理の中でも自己破産の手続きに入る場合には、過去に行った仮想通貨の取引に気を付ける必要があります。

なぜなら、ビットコインなどの仮想通貨の取引自体が、自己破産の手続き上で免責不許可事由の問題を生じさせる可能性を含んでいるからです。

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ビットコインなどの仮想通貨の取引が免責不許可事由にあたるか

自己破産の手続きは借金の返済義務を免除(免責)することで債務者の経済生活を再建させることが目的となりますが、債権者の利益を害するような一定の不正な行為が見受けられる場合には、その「免責」を不許可にするという「免責不許可事由」が定められています。

この点、ビットコインなどの仮想通貨の取引に関連する「免責不許可事由」としては、破産法252条1項1号に規定された「破産財団の価値を不当に減少させる行為」と同条同項4号に規定された「浪費」か、もしくは「射幸行為」が該当するのではないかと思われますので、以下、順にそれぞれの免責不許可事由に当たるかという点を検証してみることにいたします。

【破産法第252条第1項】

裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
2号~3号(省略)
4号 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。

(1)ビットコインなどの仮想通貨の購入は資産を不当に減少させる行為にあたるか

自己破産の手続きは申立人の負担する負債の返済義務を免除(免責)する手続きであるとともに、債務者の負債(借金)と資産(財産)を清算する手続きでもありますから、自己破産を申し立てる時点で債務者(自己破産の申立人)が所有する資産(財産)がある場合には、自由財産として保有が認められるものを除いて、すべて裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いです。

このような債権者への配当に充てられる債務者(自己破産の申立人)の資産のことは法律で「破産財団」と呼ばれますが、この「破産財団」の価値が不当に減少させられてしまうと、そこから配当を受けられるはずであった債権者が不測の損害を受けてしまいます。

そのため、先に挙げた破産法では「破産財団の価値を不当に減少させる行為」を免責不許可事由として列挙し、そのような資産の減少行為がなされないように制限をかけているのです。

この点、ビットコインなどの仮想通貨の購入がそのような「資産を不当に減少させる行為」に該当するかが問題となるわけですが、もちろん、ビットコインなどの仮想通貨を購入すること自体が直ちに「資産を不当に減少させる行為」に該当するわけではありません。

ビットコインの本質はあくまでも「商品やサービスの対価」として取引相手とやり取りする「通貨」の役割をになうツールにすぎず「ビットコインなどの仮想通貨を購入すること」は「現実の通貨を仮想通貨に両替すること」と同じだからです。

ただし、ビットコインなどの仮想通貨には「通貨」としての性質の他に「投資」や「投機」的な性質もあり「相場」が存在しますから、ビットコインなどの仮想通貨を購入した後の交換レートの値動き次第では、その「ビットコインなどの仮想通貨を購入したこと」という事実が「資産を不当に減少させる行為」に該当する可能性はあるでしょう。

なぜなら、ビットコインなどの仮想通貨を購入した後に、その相場が暴落してしまったような場合には、購入した仮想通貨の交換価値がその暴落した分に応じて棄損されることになるわけで、事実上、資産が目減りしてしまうのは避けられないからです。

例えば、100万円の資産を保有している状態で50万円分の仮想通貨を購入し、その後自己破産の申し立て直前にその仮想通貨の相場が10分の1まで下落してしまった場合には、その自己破産する際の総資産は55万円になり、45万円の資産が棄損されたことになってしまいます。

そうすると、仮想通貨を購入しなければ100万円の資産から配当を受けられるはずであった債権者が55万円の資産からしか配当を受けられなくなってしまいますので、自己破産の債権者は45万円分の資産から配当を受ける権利を失ってしまうことになってしまうでしょう。

このように、購入した仮想通貨の交換レートが暴落したり、著しく下落したような場合には、過去に行ったビットコインなどの仮想通貨の購入が「破産財団の価値を不当に減少させる行為」に該当し、免責不許可事由にあたると判断されるケースもあると考えられます。

ですから、多額の借金を抱えている状況であればビットコインなどの仮想通貨の購入は控えるのが賢明ですし、すでにそういった仮想通貨を保有している場合には、速やかに売却し利益を確定させるか損切しておく必要があるといえるでしょう。

もちろん、先ほども述べたように仮想通貨の本来の目的は商品やサービスの対価として交換する通貨の役割にあるわけですから、仕事上における商品やサービスの取引にどうしてもビットコインなどの仮想通貨が必要であるような場合には、仮想通貨を購入することは避けられないかもしれません。

しかし、ビットコインなどの仮想通貨が、現時点における一般社会で相場が不安定で投機的要素の強い資産という位置づけで理解されている現状では、相場の急落や暴落によって免責不許可事由の問題を生じさせるリスクがある点は十分に理解しておくべきでしょう。

(2)ビットコインなどの仮想通貨の購入は「浪費」にあたるか

先ほど挙げた破産法の252条1項では「浪費」についても免責不許可事由とされていますので、ビットコインなどの仮想通貨の購入が「浪費」に当たるのか、という点が問題となります。

この点、確かに先ほども述べたように、ビットコインなどの仮想通貨は相場によって価値に変動が生じる「投資的」ないし「投機的」な性質を有していますから、そういった仮想通貨に大金を注ぎ込み、急激な値下がりや暴落などによって価値を減少させてしまった場合には「浪費」と判断されることもありえるものと考えられます。

しかし、先ほども述べたように、ビットコインなどの仮想通貨には商品やサービスの対価として交付する「通貨」としての本来的な役割があるわけですから、そういった「通貨的」な利用を目的に購入しているような場合にまで「浪費」と判断されてしまうのは不都合でしょう。

ですから、実際の自己破産の手続きでは、自己破産の申し立て前にビットコインなどの仮想通貨の売買がある場合には、その全体的な取引量と、購入した時期と申立時の交換レートにおける価格減少幅の程度によって個別具体的に「浪費」か否かが判断されることになろうと思われます。

たとえば、仕事上の取引でビットコインなどの仮想通貨が必要であったためにその必要な範囲で仮想通貨を購入したのであれば、たとえその購入後に相場の下落や暴落があったとしても「浪費」とは判断されない可能性の方が高いでしょうが、それとは異なり「投資」や「投資」目的で価格の上昇を狙って仮想通貨を購入し、その後の値下がりや暴落によって多額の損失を出してしまったような場合には、そもそも購入する必要性がなかった仮想通貨を購入し、無駄に価値を現存させたことになるわけですから、破産法上の「浪費」と判断され免責不許可事由に該当し、免責が受けられなくなる可能性も高くなるのではないかと思います。

(3)ビットコインなどの仮想通貨の購入は「射幸行為」にあたるか

先ほど挙げた破産法の252条1項では「射幸行為」についても免責不許可事由とされていますので、ビットコインなどの仮想通貨を購入することがギャンブルのような「射幸行為」に該当するのか、という点も考えておく必要があります。

この点、「射幸行為」とは、不確定要素を含む行為によって儲けを得ようとするような行為をいいますが、自己破産の実務上ではパチンコやスロット、競馬競輪協定などのような公営ギャンブルだけでなく、株取引(デイトレ等)、FXなどの投資活動もこの「射幸行為」に含まれる取り扱いがなされていますから、先ほども述べたように「ビットコインなどの仮想通貨の購入」の要素に「投資」や「投機」の性質も含まれることを考えると、仮想通貨を購入した事実は基本的には破産法252条1項4号の「射幸行為」に該当し免責不許可事由に該当すると考えた方がよいかもしれません。

ただし、先ほども述べたように、ビットコインなどの仮想通貨は「投資」や「投機」が本来の目的ではなく、商品やサービスの対価として支払う「通貨」としての役割が本来的な目的としてあるわけですから、仕事上の取引で仮想通貨の購入が必要で仕事上の取引のためにビットコインなどの仮想通貨を必要な数量だけ最低限購入したような場合には、そこには「投資」や「投機」の目的がないことから「射幸行為」にはあたらず免責不許可事由には該当しないと判断されることもあるのではないかと思います。

仮に免責不許可事由に当たる場合には裁量免責を受けられるようにするしかない

以上のように、ビットコインなどの仮想通貨の購入がある状態で自己破産の申し立てを行うケースでは、その仮想通貨の値下がりや暴落によって事実上資産を目減りさせてしまった場合は「破産財団の価値を不当に減少させる行為」や「浪費」として免責不許可事由の対象になると考えられますし、仮に値下がりや暴落が生じていない場合であってもその購入目的が「投資」や「投機」にあるような場合には、やはり「射幸行為」として免責不許可事由に該当する可能性が高いものと判断されます。

もっとも、免責不許可事由に該当する事実がある場合であっても、破産法では裁判官の裁量によって特別に免責を認める「裁量免責」の制度がありますので、ビットコインなどの仮想通貨の購入が免責不許可事由に該当するからといって必ずしも免責が受けられなくなってしまうわけではありません。

ビットコインなどの仮想通貨の購入によって資産を目減りさせたり、投機や投資目的で購入することで射幸行為と判断された場合であっても、そのことを深く反省していることを裁判官に理解してもらえれば裁量免責が受けられるのが普通ですので、過度に不安を感じる必要はないでしょう。

仮に免責不許可事由に当たらない場合であっても上申書の提出は不可欠

前述したように、ビットコインなどの仮想通貨の本来的な役割は商品やサービスの対価として交付するバーチャル的な「通貨」の面にあるわけですから、その仮想通貨を購入する目的が「投資」や「投機」といったものではなく、純粋に「通貨」としての役割を期待したものである場合には、その購入したことのみをもって「浪費」や「射幸行為」と判断されることはないと思いますし、仮に購入した後に著しい価格の値下がりや暴落が生じた場合であっても「資産を減少させた」ものとして免責不許可事由としての問題は生じさせないものと考えられます。

もっとも、だからといって「投資」や「投機」目的でビットコインなどの仮想通貨を購入していないのであれば絶対に免責不許可事由の問題が生じないというわけではありません。

先ほども述べたように、ビットコインなどの仮想通貨には「投資」や「投機」的な要素が多分に含まれており、仮想通貨は「通貨」としてではなく株やFXなどと同じ「投資」や「投機」を目的としたものという認識が一般的なのですから、裁判所としても申立人である債務者に仮想通貨の購入がある限り「投資や投機が目的で購入したもの」として扱うのが通常です。

ですから、仮に自己破産の申し立てを行う際に、その時点で仮想通貨の保有があったり、過去に仮想通貨の売買をしていたような場合は、それが「投資」や「投機」的な目的ではなかったことを上申書に記載して、その上申書を提出することで裁判官や破産管財人を説得する必要があるでしょう。

最後に

以上のように、ビットコインなどの仮想通貨の購入は、その購入した目的によっては「射幸行為」と判断されますし、購入した目的にかかわらず相場の下落が生じた場合にも「浪費」や「破産財団を棄損させる行為」と判断されるでしょうから、免責不許可事由の問題を生じさせる危険性は存在するものであるといえます。

このことを踏まえれば、借金を抱えた状態にあるのであれば、ビットコインなどの仮想通貨を購入することを控えるのが最も妥当といえますが、仮に購入してしまった場合には、その値上がりを期待するのではなく損失を最小限に抑えられるように最善の手段を尽くすことが必要です。

また、ビットコインなどの仮想通貨の購入事実がある場合には、先ほども述べたように、裁判所に裁量免責を求めたり上申書を作成するなど事前準備や特別な対処が必要となりますから、借金の返済が困難になった時点で早めに弁護士や司法書士に相談し、適切な対処をしてもらうことが何よりも重要になるといえるでしょう。