ビットコインやモナコイン、リップルなどに代表される仮想通貨は、「決済の簡素化」によって経済活動の簡略化や効率化を促し、取り引きの安全性や安定性を確保することなどに本来的な目的があるのであって、一般に認識されているような「金儲けのための道具」というようなものではありません。
確かに、仮想通貨を取得するためには現実の通貨から仮想通貨に「トレード」する必要があり、そこには「相場」が生まれますから、相場の変動によって利益や損失を出すことはありえるでしょう。
しかし、それはあくまでも仮想通貨の副次的な産物にすぎませんので、仮想通貨の購入や取引自体を「金儲け」として全否定してしまう現在の風潮は、明らかに仮想通貨の本質を理解していない誤った解釈に基づく暴論といえるのではないでしょうか。
…と、前置きはこのぐらいにして…
ところで、このように「決済の簡素化」という本来の目的から離れて「投資」や「投機」の手段として認識されることの多い仮想通貨は、実際に取引のツールとして利用されるよりも、その相場の不安定さから急激な上昇と下落を繰り返す「ハイリスクハイリターン」な投資商品として購入されているのが実情ですから、世の中には一攫千金を夢見てビットコインなどの仮想通貨に大金をつぎ込んでしまう人も少なからずいるのが実情なのではないかと思われます。
もちろん、投資は自己責任ですから、自分の余剰資金で仮想通貨を購入し、暴落によって損をすることは一向にかまいません。
問題は、銀行や貸金業者から融資を受けた借金でビットコインなどの仮想通貨を購入しているような場合です。
借り入れたお金でビットコインなどの仮想通貨を購入し、その後の著しい値下がりや暴落などで損失を抱えてしまった場合、その借金の返済は事実上困難になるわけですから、最終的には自己破産をして借金の返済義務を免除してもらう必要が生じます。
しかし、先ほども述べたように、ビットコインなどの仮想通貨は、その本質は「決済の簡素化」等を目的とした「通貨的役割」にあるとしても、実際には「投資」や「投機」を目的とした「ハイリスクハイリターンな投資商品」という位置づけで認識されているのですから、ビットコインなどの仮想通貨の購入自体が「浪費」や「射幸行為」と判断されて、免責不許可事由や詐欺破産罪の問題を生じさせかねないでしょう。
そうすると、自己破産したくても自己破産できない状況に陥ることも懸念されますから、借金をしてまでビットコインなどの仮想通貨を購入した場合に自己破産が認められるのかという点が問題になるわけです。
ビットコインなどの仮想通貨の購入は「射幸行為」として免責不許可事由になるのが原則
前述したように、銀行や貸金業者などから借り入れたお金でビットコインなどの仮想通貨を購入し、その後の値下がりで損失を抱えてしまったことを原因として借入金の返済が困難になった場合に自己破産の申し立てをして免責(借金の返済義務が免除されること)を受けられるか、という点が問題になりますが、結論から言うと、そのようなケースで免責を受けることは原則としてできないものと考えられます。
なぜなら、破産手続きのルールを定めている破産法という法律では「射幸行為」つまりギャンブルや投資などにお金を費やす行為が、免責を与えない免責不許可事由とされているからです。
【破産法第252条第1項】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1号~3号(省略)
4号 浪費又は賭博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
先に述べたように、ビットコインなどの仮想通貨の本来的な目的は「決済の簡素化」等にあるわけですが、現在では事実上「ハイリスクハイリターンな投資商品」として売買されているのが実情で株式投資やFXなどと同じですから、自己破産の手続きでは当然、ビットコインなどの仮想通貨を購入する行為は「射幸行為」と判断されることになるでしょう。
(※この点はこちらのページでも詳しく解説しています→ビットコインの購入は自己破産の免責不許可事由にあたるか?)
そうすると、金融機関や貸金業者から借り入れを行い、その借り入れ金を原資としてビットコインなどの仮想通貨を購入してしまった場合には、この破産法252条1項4号の「射幸行為をしたことによって…過大な債務を負担した」ものと判断されることは避けられないものと解されます。
破産法252条1項4号の射幸行為と判断されれば当然、自己破産の申し立てを行っても裁判所から免責(借金の返済義務が免除されること)は受けられなくなりますから、自己破産の手続き後も借金は残ることになり、従前どおり働いて借金の全額を返済しなければならなくなってしまいます。
裁量免責が受けられる可能性はあるが…
このように、ビットコインなどの仮想通貨を購入することは「射幸行為」と判断され免責不許可事由になるのが原則ですが、だからといって絶対に免責が受けられないかというとそうでもありません。
自己破産の手続きでは、免責不許可事由がある場合であっても裁判官の裁量によって特別に免責を認める「裁量免責」の制度が設けられていますので、その「射幸行為」となるビットコインなどの仮想通貨を購入するに至った事情などを上申書で説明するなどして十分に裁判官に理解してもらうことができれば裁判官から例外的に免責を認めてもらえる場合もあるからです(破産法第252条第2項)。
【破産法第252条第2項】
前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる。
ただし、法律で裁量免責が認められているとはいっても、実際に裁判官が裁量免責を検討する場合には、破産管財人を選任して申立てに至った経緯を厳しくチェックさせるでしょうから、「同時廃止」ではなく「管財事件」として処理されるのは避けられません。
仮に「管財事件」として処理されれば、裁判所が選任する破産管財人に支払う管財費用(引継予納金として最低でも20万円)が必要となってきますので、その経済的負担は逃れられないでしょう。
また、そのビットコインなどの仮想通貨を購入した経緯などが裁判官の心情的に問題とされる場合には、たとえば債権者への配当に充てるため一定金額を債務者(自己破産の申立人)に積み立てさせるなどの措置が取られる場合もありますので、仮にそういった措置がとられる場合には、裁判所が指定する一定の金額を積み立てなければならず、その金額分の経済的負担も避けられなくなってしまうでしょう。
このように、裁量免責の制度が認められているとはいっても、実際のケースで裁量免責を受けるためには一定の経済的な負担を求められるのが通常ですので、安易な気持ちで仮想通貨に手を出すのはあまりにも危険といえます。
最後に
以上のように、金融機関や貸金業者から借りたお金を原資にビットコインなどの仮想通貨を購入した場合には、後の自己破産の手続き上で「射幸行為」と判断され免責不許可事由に該当するものとして免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられないのが原則です。
また、仮に裁判官の裁量免責が認められるケースであったとしても、管財費用(引継予納金)等の経済的な負担を強いられたり破産管財人による厳しい調査がなされることを考えれば、その受ける不利益は重大といえます。
ですから、金融機関や貸金業者から借りたお金を原資にする場合はもちろん、たとえ自分のお金であっても借金を抱えている状況にあるのであれば、そもそもビットコインなどの仮想通貨に手を出すことは避けるべきですし、もし仮に甘い考えで仮想通貨を購入してしまったというのであれば、将来の値上がりを期待して保有し続けるのではなく、なるべく早く売却して損失を確定させてそれ以上損失が膨らむのを防ぐ必要があるでしょう。
もっとも、そういった場合には、裁量免責等の問題もあり、自己破産の手続きを代行する弁護士や司法書士の方でも特別な対応が求められますので、なるべく早めに弁護士や司法書士に相談し、適切な措置を取ってもらうよう十分に注意することが必要です。