自己破産すると車のカーナビも裁判所に取り上げられる?

自己破産の申し立てを行う債務者が自動車を所有している場合、裁判所からその自動車に資産価値があると判断されれば、その自動車は裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられる配当手続きが実施されるのが通常の取り扱いです。

そのため、自動車を所有している債務者が自己破産しようとする場合には「自分の自動車が取り上げられてしまうのか否か」という点が非常に重要な関心ごとになるわけですが、ここで問題となるのが、その所有している自動車に「カーナビ(カーナビゲーションシステム)」が取り付けられている場合です。

自己破産の手続きで裁判所に自動車が取り上げられるか否かの判断は『自己破産で裁判所が自動車の取り上げを判断する5つの基準』のページでも説明したように一定の基準が各地の裁判所で採用されており、その基準に従って処理されることになっています。

しかし、車に取り付けられたカーナビはその「自動車」とは全く別の品物ということもできますから、その「自動車とは全く別のカーナビという財産」が自己破産の手続きで具体的にどのような取り扱いを受けるのか、という点が問題となるわけです。

では、実際の手続きでは、所有している自動車に取り付けられている「カーナビ」はどのように取り扱われるのでしょうか?

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自己破産で所有する自動車に取り付けられているカーナビはどう処理されるか

自己破産の手続きで所有している自動車に取り付けられているカーナビがどのように取り扱われるかについては、その取り付けられているカーナビが「標準装備として装着されている物(車体に内蔵する装備として装着されている物)」の場合と「後付けで取り付けられている物」の場合とで若干取り扱いが異なるかと思われますので、以下、個別に検討してみることにします。

(1)標準装備や車体に内蔵する状態で取り付けられているカーナビの場合

私はあまり車に詳しくないので詳細なことは言えませんが、車種によっては新車納入時に上旬装備としてカーナビが付いていたり、運転席のパネルに内蔵されているカーナビもあるようです。

このように、カーナビが標準装備で装着されていたり、車の内装部分に内蔵されているような状態で購入した自動車がある場合には、その取り付けられているカーナビもその自動車の一部を構成している物と解されますので、自己破産の手続きではそのカーナビは車の処分に従って処理されることになるでしょう。

具体的には『自己破産で裁判所が自動車の取り上げを判断する5つの基準』のページでも説明したような基準に従って、その所有している「自動車」に資産価値があると判断されて裁判所に取り上げられる場合にはそのカーナビも裁判所に取り上げられてしまうことになりますし、逆にその「自動車」が資産価値がないと判断される場合には、そのカーナビもその自動車に取り付けられたままそのままの保有が認められることになるものと考えられます。

(2)オプションや後付けで取り付けられているカーナビの場合

一方、所有している自動車に取り付けられているカーナビが、その自動車を購入した際にオプションとして購入し取り付けたものであったり、後付けで購入して取り付けたものであるような場合には、上記の(1)とは若干取り扱いが異なることになろうかと思われます。

ア)オプションや後付けのカーナビで取り外しが困難なもの

自動車に取り付けられているカーナビがオプションで取り付けられていたものであったり、後付けで取り付けたものであったりする場合で、かつ、その取り付けられているカーナビが取り外しが困難なものである場合には、先ほど説明した(1)の場合のカーナビと同様に、その自動車と一体となったものと解されるため、(1)の場合と同じようにその自動車の処分に従って処理されるものと解されます。

例えば、オプションで購入したカーナビで運転席のフロントパネルに内蔵されて設置される種類のものであったり、自動車用品店で購入したカーナビであっても内装の改造等が必要で事後の取り外しが困難な状態で設置されているものの場合には、(1)の場合と同じように、その自動車の処分にしたがって、裁判所に取り上げられるか保有が認められるかが判断されることになろうかと思われます。

イ)オプションや後付けのカーナビで取り外しが容易なもの

「ア」の場合とは異なり、そのオプションや後付けで取り付けたカーナビが取り外しが容易な状態で設置されているものである場合には、その所有している自動車とは別個の「動産」として認識できますので、自己破産の手続きでは、そのカーナビは「現金以外の財産」と考えて判断されることになろうかと思われます。

この点、自己破産の手続きでは「現金以外の財産」は資産価格が20万円を超えないものについては自由財産として自己破産後も保有が認められていますが、資産価格が20万円を超えるものについてはすべて裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てる取り扱いになっていますので、その取り外したカーナビを中古品市場で売却した場合に20万円以上の値段が付くようなケースでは、そのカーナビは裁判所に取り上げられてしまうことになるでしょう(※なお、この場合のカーナビはそのカーナビ自体が固有の資産として判断されますので、自動車が裁判所に取り上げられるか否かに関係なく裁判所に取り上げられることになります)。

もちろん、その反対に、その取り外したカーナビ自体の資産価格が20万円を超えないような場合には、その取り外したカーナビは自己破産の手続き上、特段の事情がない限り自由財産として保有が認められるなるものと考えられます。

取り付けてあるカーナビを安易に取り外してしまうと免責不許可事由や詐欺破産罪の問題を生じさせる危険性がある

以上のように、所有する自動車に取り付けられているカーナビは自動車の処分に従って処理される場合もありますが、取り外しが容易なカーナビについてはそのカーナビ自体が自動車とは「別個の資産(財産)」と判断されるケースがありますので、所有しているカーナビが自己破産でどのように処理されるかはケースバイケースで判断しかないのではないかと思います。

なお、気を付けてもらいたいのが、取り付けられているカーナビを自己破産前に安易に取り外したりしない方がよいという点です。

先ほど述べたように、取り外しが容易なカーナビについてはそのカーナビ自体が自動車とは独立した別個の資産(財産)と判断されますので、そのカーナビが自由財産と判断される限り自動車の処分とは関係なくそのカーナビの保有は認められることになります。

しかし、その「取り外しが容易か否か」は判断が難しい面もありますので、自分では「取り外しが容易」と判断できたとしても、社会通念上の判断基準では「取り外しが容易」とは判断できないカーナビを無理に取り外してしまう可能性も絶対にないとは言い切れないでしょう。

もし仮に、本来であれば自動車の処分に従って処理されるべきカーナビを無理やり取り外してしまったとすれば、その行為は「本来であれば裁判所に取り上げられて債権者に充てられるべき財産を勝手に取り外した」と判断されてしまう可能性があります。

そうすると、その行為自体が「破産財団の価値を不当に減少させる行為」として免責不許可事由に該当し免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられなくなってしまう可能性がありますし、場合によっては「財産(自動車)を損壊した」とか「財産(自動車)の現状を改変してその価格を減損させた」とかいう理由で詐欺破産罪の責任を問われる事態にもなりかねません。

【破産法第252条第1項】
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
2号(以下省略)
【破産法265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為

ですから、カーナビが取り付けられている自動車を所有している場合には、そのカーナビは無暗に取り外さない方が良いかもしれません。

容易に取り外せるカーナビでも自動車ごと破産管財人に引き継いで破産管財人の判断に任せる方がよい

このように、所有している自動車にカーナビを付けている場合において、自己破産前にそのカーナビを取り外してしまうことは一定のリスクがあるためお勧めできません。

では、そのような場合に具体的にどのようにすればよいかというと、そのカーナビを付けたままの状態で破産管財人に自動車を引き継ぐのが一番いいのではないかと思われます。

カーナビを付けたまま自動車を破産管財人に引き継げば、その破産管財人がそのカーナビを自動車と一緒に処分するか、それともカーナビを独自の資産として処理するか判断してくれますので、免責不許可事由や詐欺破産罪の問題を生じさせることはありません。

もちろん、破産管財人に何も説明せずにカーナビを引き継いでしまうと、破産管財人がカーナビの存在に気付かずに自動車と一緒に査定して処分してしまう可能性がありますから、上申書等でそのカーナビが自動車とは別個に処分されるべき資産であることを説明したり、場合によっては自由財産の拡張の手続き(※注1)を行ってそのカーナビの保有を認めてもらう必要があるケースもあるかもしれませんが、破産管財人に引き継ぐ限り少なくともそのカーナビの件で免責不許可事由や詐欺破産罪の責任を問われることはありません。

ですから、カーナビについては安易に取り外したりせず、自動車と一緒に破産管財人に引き継いで、そのうえで改めてそのカーナビが(あるいは自動車も含めて)自由財産として保有を認めてもらえるよう手続きを進める方がよいのではないかと思われます。


※注1:自由財産の拡張について

仮に自己破産の手続きで「資産(財産)」と判断され取り上げられる資産(財産)がある場合であっても、自己破産の手続きでは裁判官の判断によって特別に自由財産としての保有を認める「自由財産の拡張」の制度が認められています(破産法第34条4項)。

【破産法第34条4項】
裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。

最後に

以上のように、車に取り付けられたカーナビについては、その装着の程度によってその取扱いに若干の違いがあるので注意が必要です。

もっとも、実際に自己破産の申し立てを行う場合は弁護士や司法書士に依頼するのが普通だと思いますから、手続きを依頼する弁護士や司法書士に、所有しているカーナビを取り付けていることだけでなく、そのカーナビがどのような状況で取り付けられたものか(標準装備か内蔵か、外付けで取り外しが容易なものなのか)を十分に説明し、自由財産として保有が認められる可能性がないかという点を慎重に検討してもらう必要があるといえるでしょう。