詐欺で作った負債は自己破産で免責が受けられるのか?

振り込め詐欺やネット通販詐欺など、21世紀の日本ではありとあらゆる詐欺犯罪が横行しているようです。

このような詐欺犯罪の犯人が警察に捕まった場合、その詐欺の被害に遭った被害者としてはその犯人に対して詐欺被害によって生じた損害賠償を行いたくなりますが、問題となるのが詐欺の加害者が自己破産の申し立てを行った場合です。

詐欺罪を犯した犯人が自己破産をして免責が出された場合、詐欺の被害者に対する損害賠償債務も当然その支払いが免除されることになりますから、損害賠償請求しようとする被害者は被害の救済が図れずに不都合な結果となってしまうでしょう。

では、実際の自己破産の手続きでは、詐欺の犯罪を犯した加害者についても免責(借金の返済義務が免除されること)が出されることはあるのでしょうか?

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基本的には詐欺犯罪の加害者には免責が出されないものと思われる(私見)

結論からいうと、あくまでも私見ではありますが、振り込め詐欺やネット通販詐欺などを犯した詐欺の加害者が自己破産した場合には、免責は認められないこともあるのではないかと思われます。

なぜなら、詐欺が原因となる損害賠償債務は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」と解されるところ、破産法ではそもそもが非免責債権の扱いを受けているため免責の対象とはされないからです。

【破産法第253条1項】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一(省略)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三(以下省略)

この点、この破産法第253条1項2号の「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」における「悪意」とは「積極的に相手方を害する意思」が必要と解されていますが、振り込め詐欺やネット通販詐欺の場合にも加害者においては被害者から「積極的にお金をだまし取ろうとする意志」があると考えられるため、十分にこの「悪意」の要件を満たすものと解されます。

ですから、詐欺の被害者が加害者に対して詐欺被害によって生じた損害金の賠償を請求している場合において、たとえ加害者の詐欺犯が自己破産の申し立てを行ったとしても、その詐欺犯に対する損害賠償請求債権は非免責債権と判断されることになり、加害者の自己破産によって被害金額の回収が不可能になることはないといえます。

詐欺の程度が深刻でない場合は免責が出されることもありうると考えられる(私見)

以上のように、詐欺という犯罪行為によって被害者に与えた損害賠償債務は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」と解されるため非免責債権となり、免責の対象にはならないものと解されます。

ただし、これもあくまでも私見ですが、詐欺被害の程度が比較的小さい場合で加害者に反省の念が見受けられ、いくらかの費用の弁償がなされるようなケースでは、裁判官の判断で例外的に免責が出されることはあるのではないかと思います。

たとえば、被害者に与えた被害金額が比較的少額な事件で、加害者の方にある程度の資産があって被害者である債権者への配当に充てられる配当原資が確保できる場合であったり、そうでなくても破産管財人の判断によって加害者に一定金額を積み立てさせ、その積み立てられた金額を配当原資にして配当ができるようなケースでは、詐欺によって生じた「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を通常の「不法行為に基づく損害賠償請求権」と判断して処理し、債務者の意見を聞いたうえで裁判官が裁量免責を認めることもあるのではないかと考えられます。

ただし、詐欺の犯人に資力はないので結局は泣き寝入りするしかないことが多いと思われる

以上のように、詐欺被害の損害賠償請求権は基本的に非免責債権と判断されるため、加害者が自己破産の申し立てを行った場合であっても、特別な事情があるケースで裁量免責が認められる場合でもない限り、詐欺犯の債務は免責とはならず、自己破産後も詐欺犯に対して「詐欺被害の損害金を賠償しろ!」と請求できるケースが多いのではないかと思われます。

ただし、その場合であっても、詐欺犯にはその損害金を支払う収入はないでしょうし、差し押さえ可能な資産もないでしょうから、事実上は損害金の回収は難しいのではないかと思います。

最後に

以上のように、詐欺犯に対する損害賠償請求権は非免責債権と解されるため基本的に自己破産の免責の対象とはならないものと解されますが、実際に被害金額を回収するのは至難の業と言えます。

ですから、日ごろから詐欺被害に遭わないように注意することはもちろん、万が一詐欺の被害に遭った場合にも、速やかに警察に通報するなどして被害を最小限に抑える努力が必要になるのではないかと思います。