奨学金を自己破産で処理する場合に注意すべき3つのこと

給付型と異なり、貸与型の奨学金を利用した場合には、その奨学金は単なる「借金」となりますので、卒業後に分割で返済していく必要があります。

もちろん奨学金の金額にもよりけりですが、短くても10数年、長ければ数十年の期間は厳しい返済が義務付けられるのは当然の帰結でしょう。

そうなると当然、その奨学金の返済が卒業後の生活に大きな負担となるのは避けられません。

安定した企業に就職し定年まで安寧な勤務が保障されているならまだマシですが、高度成長期の時代とは大きく異なる現代では、そうそう安定した職業などあるはずもありませんから、就職先の経営状況や社会全体の景気動向などによっては奨学金の返済が滞る可能性も否定できないといえます。

もっとも、だからと言って不安になる必要もありません。なぜなら、どうしても返済ができないというのであれば「自己破産」という選択肢も利用できるからです。

奨学金も「借金」である以上、破産法で認められた手続きを利用することができますから、奨学金の残額を破産債権として裁判所に申告し、裁判所から免責(借金の返済義務が免除されること)を受けることができれば、奨学金の返済地獄から解放してもらうことも可能です。

ただし、奨学金は金融機関から借り入れる通常の借金とその性質が若干異なる点がありますから、自己破産するにおいて特別に注意すべき点がいくつかあります。

そこでここでは、奨学金の返済ができないことを理由に自己破産する場合に注意すべき点を3つだけご紹介してみることにいたしましょう。

広告

【1】保証人・連帯保証人に一括請求されることに注意

貸与型の奨学金を借りる際には保証人や連帯保証人を付けることが必須の利用条件として設定されているのが通常です。

保証人や連帯保証人は債務者本人が債務の返済をできなくなった場合に「代わりに返済すること」を約束するものになりますから、奨学金を借りた本人が返済できなくなった場合には当然、その保証人や連帯保証人になった人が残りの奨学金の返済をしなければならないことになります。

そうすると当然、奨学金を借りた本人が自己破産する場合には、その奨学金を借り入れる際に保証人や連帯保証人になってくれた人のところに一括請求がなされることになります。

自己破産の手続きは債務の返済を法的に免除してもらう手続きであって、自己破産の申し立てをすること自体が「返済不能」になっていることを表象する行為となり、奨学金の返済をしないことが確定してしまうからです。

この点、奨学金の保証人や連帯保証人は親や親せきなどになってもらうのが一般的でしょうから、奨学金を借りた自分が自己破産する場合には当然、その保証人や連帯保証人になってくれている「親」であったり「親戚」に奨学金の返済を求める一括請求がなされることは避けられないでしょう。

もちろん、親に十分な収入や資産があり、残りの奨学金を全額返済できるというのであれば特に問題はないかもしれません。

しかし、子が奨学金を借りる場合は親が低所得であったり資産もないようなケースがほとんどでしょうから、奨学金を原因として自己破産する場合では保証人や連帯保証人になっている親にも返済ができずに自己破産してしまうケースは比較的多くみられるのが実情です。

ですから、奨学金の返済が滞り自己破産が避けられなくなった場合には、なるべく早めに保証人や連帯保証人になってくれている「親」や「親戚」に事情を説明し、「親」や「親戚」においても自己破産に陥る可能性がないか十分に検討できる時間を与えてあげることは必要不可欠であるといえます。

【2】弟や妹が奨学金を借りるのが難しくなる可能性

奨学金を自己破産の債権として処理する場合には、自分の弟や妹が奨学金を利用することが難しくなるという点にも注意する必要があります。

なぜなら、奨学金の返済債務を自己破産してしまうと、奨学金の保証人や連帯保証人になってくれている親や親族に請求がなされる結果、その親や親族が支払い困難になって信用情報機関に登録されることにより、弟や妹が奨学金を借りる際に再び保証人や連帯保証人に就任することができなくなる可能性があるからです。

先ほども述べたように、奨学金を借りている人が自己破産する場合にはその奨学金の保証人や連帯保証人になってくれている人に一括請求がなされることになりますので、親や親せきに保証人や連帯保証人になってもらっている場合には、その親や親せきが大きな経済的負担を強いられることになります。

その場合、保証人や連帯保証人になっている親や親せきが請求される奨学金を一括で支払うことができるのであれば特に問題ありませんが、その支払いが事実上困難で分割払いの協議に入ってしまうとその時点で任意整理をするのと同じことになりますから、ケースによってはその保証人や連帯保証人になってくれている人が信用情報機関に事故情報として登録(いわゆる「ブラックリストに登録される」ということ)されてしまう可能性が生じるでしょう。

仮にその保証人や連帯保証人になってくれている親や親族が信用情報機関に登録されてしまうとなれば、その人はその後最低5年間は新たな借り入れや保証人への就任が制限されてしまいます。

そうなると当然、その親や親せきは最低でも5年間は再び奨学金の保証人にはなれないことになりますから、仮に弟や妹が奨学金を借りる予定にしている場合には、その奨学金の保証人や連帯保証人になってくれている人がいなくなってしまう可能性が生じてしまうのです。

このように、奨学金の返済が滞って自己破産する場合には、保証人や連帯保証人になってくれている親や親族の人に請求がなされる結果、その親や親族が信用情報機関に登録されることによって弟や妹が奨学金を借りる際に保証人や連帯保証人になってくれる人がいなくなり、弟や妹が奨学金を借りることができなくなってしまうという可能性があることも、頭の隅に入れておいた方がよいのではないかと思います。

 【3】勤務先にバレる可能性がゼロではないこと

奨学金を自己破産の対象として処理する場合は、勤務先に生じる影響にも気を配る必要があります。

といっても、奨学金の返済が滞ったことを理由に自己破産する際に、必ず勤務先の会社に自己破産していることがバレてしまうというわけではありません。

もちろん、勤務先から借り入れがあるような場合には自己破産の手続きで勤務先の会社も債権者として扱わなければならなくなることから、会社にバレてしまう可能性がないわけではありませんが、単に奨学金としての借り入れや金融機関からの借り入れを自己破産するだけで勤務先の会社にバレてしまうようなことはないでしょう。

しかし、自己破産の手続きを行うには、自己破産の申し立て直近の給与明細書であったり、退職金に関する書類の提出を裁判所から求められるのが通常ですから、そういった書類の収集の場面で会社に自己破産の手続きをとっていることが知られてしまう可能性は否定できません。

また、自己破産の手続き中(免責許可決定が確定するまでの期間)については一定の職業(警備員や保険の販売員など)での就業が法令上禁止されていますから、そういった職業の会社で働いている場合には、勤務先に自己破産することを告知する契約上の義務が生じることも考えられます。

このように、奨学金を自己破産することで直接そのことが会社に知られることはないとしても、手続き中に生じる問題によって勤務先に自己破産の事実が知られてしまうリスクは少なからず生じてしまうのが現実です。

ですから、奨学金を自己破産の対象として処理する場合には、勤務先に自己破産の事実が知られてしまわないように、依頼する弁護士や司法書士と十分な準備を整えて手続きを進める必要があるといえます。