通期や通学、介護に必要な車は自己破産しても取り上げられない?

自己破産の申立を行った場合、その所有する全ての財産(資産)が裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当(分配)されるのが通常です。

なぜなら、自己破産は申立人が負担する一切の債務の返済が免除されるのは、その申立人が全ての財産(資産)を支弁しても返済できない「返済不能」の状態に陥っていることが前提となりますから、その申立人に何らかの資産がある場合には、その資産(財産)を全て処分して換価し、その換価で得られる金銭を債権者に配当する清算手続きが必要になるからです。

しかし、ここで問題が生じるのが、その自己破産の申立人の生活に必要不可欠な「資産(財産)」がある場合です。

たとえば、「自動車(自家用車)」はよほど古い車でない限り売却すればお金になるでしょうから自己破産の手続きでは「資産」と判断されますが、仮にその自動車が通勤や通学、親の介護などに使用されていたとすると、その自動車が取り上げられてしまうことで日常生活に支障が生じるだけでなく、憲法で認められた「健康で文化的な最低限度の生活」すら営めなくなる可能性すら生じてしまい、あまりにも不都合な結果となってしまいます。

では、自己破産の手続きを行う場合には、たとえ通勤や通学、介護などに使用している自動車があったとしても裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却されてしまうのでしょうか?

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たとえ「通勤や通学、介護などに使用している自動車」であっても取り上げられて売却されるのが原則

結論からいうと、たとえその所有している自家用車が「通勤」や「通学」、「介護」など生活に必要不可欠な用途として使用しているものであったとしても、自己破産の手続きにおいては裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に配当されることになるのが原則的な取り扱いとなります。

なぜなら、破産法の第34条は自己破産の手続きにおいて「債権者の配当に充てるべき資産」となる「破産財団」に含まれない財産として民事執行法第131条に規定される「差し押さえることができない財産」を挙げていますが(破産法第34条)、その民事執行法第131条では「通勤や通学、介護などに使用している自動車」については「差し押さえることができない財産」として列挙されていないからです(民事執行法第131条)。

民事執行法第131条で「通勤や通学、介護などに使用している自動車」が「差押えすることができない財産」として除外されていない以上、自己破産の手続きを進める裁判所はその自動車を「債権者の配当に充てるべき資産」として処理しなければなりませんから、その自動車は破産管財人)に取り上げられて売却されることは避けられないということになるのです。

例外的に取り上げられない場合

以上で説明したように、破産法(および民事執行法)においては「通勤や通学、介護などに使用している自動車」を債権者への配当に回すべき資産となる「破産財団」の対象から除外していませんから、自己破産の申立を行う人が自動車を所有している場合には、例えその自動車を「通勤」や「通学」、「介護」などに使用していたとしても、その自動車を裁判所(破産管財人)に取り上げられてしまうことは避けられないといえます。

もっとも、これはあくまでも原則的にはそのような取り扱いになるというだけであって、特定のケースに当てはまる場合もしくは自己破産の申立人が特別な手続きを取った場合には、例外的に自動車を取り上げられなくて済む場合も有ります。

(1)自由財産の拡張の申し立てをした場合

自己破産の手続きにおいて、申立人が「自由財産の拡張の申し立て」を行い、裁判所(裁判官)がその申立を認めた場合には、仮に裁判所に取り上げられてしまう資産を所有していたとしても、自己破産後もその資産を所有し続けることが認められます。

「自由財産」とは、自己破産の手続きを行っても裁判所に取り上げられずに所有することが認められる財産のことをいい、前述した民事執行法第131条に規定される「差し押さえることができない財産」や99万円までの現金などをいいますが、通常は自己破産の手続きを行った場合、この自由財産に含まれる資産(財産)以外は全て裁判所が取り上げて売却することになります。

しかし、そうはいっても、申立人の生活の状況によっては本来であれば「自由財産」に含まれない財産(資産)であっても取り上げられると不都合な財産(資産)もあるわけですから、そのような特別な事情がある場合には、「自由財産」に含まれない財産であっても所有を認める必要性もあるといえます。

このような理由があることから、自己破産の手続きでは、申立人が「自由財産の範囲を拡張」するための「申し立て」の手続きを定めており、その申立があった場合において裁判官がその事情を考慮して特に「その財産はそのまま保有を認めた方が良いだろう」と認めた財産については、自己破産の手続きで取り上げることなくそのまま所有することを認める取り扱いにしているのです(破産法第34条)。

【破産法第34条】

第1項~第3項(省略)
第4項 裁判所は、破産手続開始の決定があった時から当該決定が確定した日以後一月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産の範囲を拡張することができる。
第5項 裁判所は、前項の決定をするに当たっては、破産管財人の意見を聴かなければならない。
第6項(以下省略)

このように、自己破産の手続きでは「自由財産の拡張の申し立て」を行うことができますから、仮に本来であれば裁判所に取り上げられてしまう自動車を所有していたとしても、その自動車が「通勤や通学、介護などに必要不可欠であること」を説明する内容の「自由財産の拡張」を申立てた場合には、裁判官の判断によって、特別に自由財産の拡張が認められ、その自動車の所有が認められる場合も有ることになります。

(2)その自動車の資産価値が20万円を超えない場合

所有する自動車の評価額(時価)が20万円を越えない場合には、自己破産の手続きにおいてその自動車が裁判所に取り上げられることは無いのが原則的な取り扱いとなります。

「自動車の評価額(時価)が20万円を超えない場合」とは、「その自動車を購入したときの価格が20万円より安かった」という意味ではなく、「自己破産の申し立てをする時点で中古車販売店で売却したとしても20万円以上で買い取ってもらえない」という意味のことをいいます。

なぜ自動車の評価額(時価)が20万円を超えないと裁判所に取り上げられないかというと、裁判所が申立人の資産を取り上げて売却し債権者に配当する手続きを行うためには裁判所が破産管財人を選任する必要がありますが、その破産管財人(※通常は裁判所の管財人名簿に掲載された弁護士が指名されます)に支払う報酬(管財費用)が最低でも20万円は必要となるからです。

この破産管財人の報酬(管財費用)当然、自己破産の申立人が支払うことになりますが、所有する自動車の評価額(時価)が20万円を下回るにもかかわらず、20万円の報酬が必要となる破産管財人を選任するというのでは、20万円に満たないお金を債権者に配当するために20万円の費用が必要となる破産管財人を雇うということになり、いわゆる「費用倒れ」になって不都合な結果となってしまうでしょう。

(※この点についてはこちらのページで詳しく説明しています。→なぜ「20万円」が基準になるのか?

このように、資産価値が20万円に満たないものについては、そもそも破産管財人が選任されず「同時廃止」という簡易な手続きで処理されるのが一般的ですので、所有する自動車の評価額(時価)が20万円を超えない場合には、前述した「自由財産の拡張」の申立を行うまでもなく、自己破産の手続きで自動車が取り上げられることはないと考えてよいでしょう。

ローンが残っている場合は自己破産の手続きとは関係なく、債権者に引き揚げられる

以上のように、自己破産の申立人がその評価額(時価)が20万円を超える自動車を所有している場合には、たとえそれが「通勤や通学、介護などに実用不可欠」な自動車であっても裁判所に取り上げられて換価されるのが原則的な取り扱いとなりますが、「自由財産の拡張」の申立を行って裁判官に認められた場合には、例外的にその所有も認められることになると考えられます。

もっとも、このような取り扱いになるのは、あくまでもその所有している自動車が一括払いで購入されていたり、そのローンが完済されている場合の話であって、自己破産の申立を行う時点で未だローンが完済されていない場合には話が異なります。

なぜなら、自己破産の申立をする時点でローンが完済されていない場合には、クレジット会社や販売会社が自己破産の手続き前にその自動車を引き揚げてしまうからです。

商品をローンで購入した場合にはその商品がすぐに購入者に引き渡されることになりますが、契約上はそのローンが完済されるまでその商品の「所有権」はクレジット会社や販売会社に「留保」されているのが通常です。

そうしておかないと、いざ購入者の返済が滞った場合に、商品代金を立て替えたクレジット会社や販売店が貸付金の返済が受けられないうえに商品も取り戻せなくなって大きな経済的損失を受けてしまうからです。

そのため、仮にローンの途中で返済が滞った場合には、その車の「真の所有者」であるクレジット会社や販売店がその留保された「所有権」に基づいて、「ローンを支払えないなら自動車を返してください」と連絡し、強制的にその車を引き揚げてしまうことになるのです。

引き揚げた車はどうなるかというと、クレジット会社や販売店によって中古車市場で売却され、その売却代金がローンの残額に引き揚げられることになります(※なお、このように売却代金をローンの残額に充当してもなおローンが残る場合には、そのローンの残額が自己破産の手続きにおける債権額として裁判所に申告されることになります)。

このように、所有している自動車のローンが残っている場合には、自己破産の手続きとは関係なく、その車の代金を立て替えたクレジット会社や販売会社がその車を引き揚げて売却することになりますので、その車の市場価格が20万円を超えているかいないかに関係なく、自己破産の手続きに入る前の時点で(裁判所ではなく)クレジット会社や販売店などの債権者に取り上げられてしまうことになります。

早めに弁護士や司法書士に相談することが必要

以上で説明したように、自己破産の手続きでは全ての財産(資産)が「債権者の配当に充てるべき資産」と判断されるのが原則ですから、たとえ所有する自動車が「通勤や通学、介護」などに必要不可欠であったとしても、その価値が20万円を下回っていたり、自由財産の拡張の申し立てが認められない限り、自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられて売却されてしまうことは避けられないといえます。

また、ローンが残っている場合には、そもそも自己破産の手続きに入る前にクレジット会社や販売店に引き揚げられてしまうのが通常ですので、その場合にも自動車を失ってしまうことは避けられないといえるでしょう。

このように、自己破産の手続きを検討するうえでは、「通勤や通学、介護」などに必要不可欠な自動車であっても取り上げられてしまうリスクはありますので、借金の返済が厳しくなった時点で早急に弁護士や司法書士に相談することが大切です。

弁護士や司法書士に相談するのが遅れてしまうと、思わぬ時期に債権者に引き揚げられたり、裁判所に取り上げられたりして通勤や通学、介護などに重大な支障が出てくることもありますので、早めに弁護士や司法書士に相談し、自由財産の拡張や代替手段の検討を行う必要があるといえるでしょう。