自己破産すると携帯電話は使えなくなる?

自己破産は裁判所に申立を行い裁判所から「免責」を受けることによって借金全部の返済を免除してもらう手続きです。

裁判所で免責が認められると負担している全ての借金の返済が免除されることになりますが、自己破産は清算手続の側面も有していますから、一定の不利益も生じてしまうことは避けられません。

たとえば、自己破産をすると信用情報機関に5年から10年間事故情報として登録されることになりますのでその期間は金融機関から新しくお金を借りたりローンを組んだりすることがほぼできなくなりますし、自己破産の手続きが終わるまでの一定期間、一定の職業に就くことができなくなったり、銀行口座が一時的に凍結されたりすることもあります。

このように、自己破産をすると一定の不都合が生じるわけですが、自己破産を予定している人の中で意外に心配する人が多いのが「自己破産をすると携帯電話はどうなってしまうのか」という点です。

携帯電話(特にスマホ)は”電話”の機能だけでなくSNSなどのコミュニケーションツールや電子マネーなど決済ツールとしても使用されていますので、はもはや現代人にとって欠くことのできない重要なアイテムといえます。

そのため、自己破産を検討する際に「携帯電話の利用に影響しないか」という点が手続きを進めるうえでの重要な要素になっているのでしょう。

この点、自己破産をする際に携帯電話の契約にどのような影響が出るかは、携帯電話の支払に「延滞がない場合」と「延滞がある場合」とで若干違いがありますので、それぞれの場合に分けて具体的にどのような影響が生じるのかを考えてみることにいたしましょう。

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携帯電話の料金に「延滞がない場合」

(1)直接的な影響はない

携帯電話の料金に「延滞がない場合」には、使用している携帯電話の契約に特に影響が生じることはありません。

携帯電話を利用する契約では携帯会社から毎月利用料金の請求がなされますが、延滞がない状態であれば毎月の請求に応じて支払っても何ら自己破産の手続きに問題は生じさせません。

そのため携帯電話の料金に「延滞がない場合」には、自己破産をしたとしても携帯電話の契約に直接的な影響はないといえます。

(2)間接的に影響が出る場合はある

もっとも、自己破産をすることが直接的に携帯電話の契約に影響を与えないとはいっても、間接的に影響が出る場合があることは知っておく必要があります。

たとえば、自己破産をした後に、新しく携帯電話の契約をしたり機種の変更をしたりする場合です。

新しく携帯電話の契約を行ったり携帯の機種変更をする場合には、携帯会社の代理店でスマホ等の機種を購入するのが一般的ですが、そのスマホの機種代金は一括で支払うのではなく、スマホの機種代金が「実質0円」となる代わりに一定の期間の解約が制限されたり、携帯電話の機種代金相当額の通信料が割引されるような契約になるのが一般的です。

しかし、これは形式的に携帯電話の機種代金が「実質0円」になっているだけであって、契約上は「機種代金の分割払い契約」となり携帯会社の提携するクレジット会社にローンの申請がなされるのが通常ですから、携帯の機種代金を一括で支払わない限り、クレジット会社にローンの申込みがなされることになります。

クレジット会社にローンの申込みがなされると、クレジット会社から信用情報機関に利用者の信用情報の照会がなされますが、自己破産をしているとその記録が明らかとなってしまうのでクレジット会社は当然ローンの申請を認めてくれません(※この点については『自己破産した場合のデメリットとは?』のページで詳しく解説しています)。

そうするとクレジット会社から携帯会社に対して「融資不可」の通知がなされることになりますから、携帯会社は携帯の新規契約や機種変更を拒否することになります。

このように、自己破産をすると信用情報機関に事故情報として登録されることから、間接的に携帯電話の新規契約や機種変更が制限されることがあるので注意する必要があるでしょう。

なお、これを回避するためには事前に中古販売店などで中古のスマホなどを購入し、その購入した中古のスマホなどを携帯会社の代理店に持参して新規の契約や機種変更をするしかありませんが、この点については『任意整理すると携帯電話は使えなくなる?』のページで詳しく解説していますのでそちらをご覧ください。

携帯電話の料金に「延滞がある場合」

携帯電話の料金に「延滞」がある場合には、自己破産の債権者として手続きに含めなければならないのが原則です。

なぜなら、自己破産の手続きにおいては全ての債権者を平等に扱うことが求められ一部の債権者を特別扱いすることは禁止されますから、たとえ携帯電話の料金の滞納分であったとしても他の債権者への返済をしないで携帯会社にだけ滞納分を返済してしまうと偏波弁済(一部の債権者にだけ返済をすること)として免責不許可事由(自己破産で借金の免除が認められないこと)に該当する可能性が生じてしまうからです。

もっとも、携帯会社を自己破産の債権者として申立をしてしまうと携帯会社から強制的に契約を解約されてしまう危険性があり不都合が生じる場合がありますから、実務上は携帯電話の料金に滞納がある場合であっても自己破産の債権者に含めずに申立をするのが一般的です。

(1)自己破産で携帯会社を債権者として含める場合

携帯電話の料金に「延滞がある場合」において、その携帯会社を自己破産の債権者に含めて申立を行う場合には、自己破産の手続きが終了して裁判所から免責の許可が出されれば、その携帯料金の滞納分は全て返済が免除されることになります。

ただし、このように自己破産の手続きに携帯料金の延滞分を含めてしまう場合には、自己破産の依頼を受けた弁護士や司法書士から携帯会社に対して「これから自己破産の手続きを始めますよ」という受任通知が出された時点で「料金不払い」が確定することになりますので、携帯会社の側で携帯電話の契約を強制解約してしまうケースがあるからです。

この点、携帯電話事業者が利用者が自己破産の手続きを開始したことを理由に携帯電話の利用を拒否したり契約を解除することは破産手続を規定した破産法という法律で禁止されていますが(破産法第55条1項)、この破産法第55条1項にいう「双務契約」は通常、電気・ガス・水道などのライフラインに関する契約をいい、これに携帯電話の契約が含まれるかという点については争いがありますので、携帯会社が携帯電話の契約を強制解約してしまうリスクはどうしても生じてしまうでしょう。

【破産法第55条1項】

破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る破産債権について弁済がないことを理由としては、破産手続き開始後は、その義務の履行を拒むことができない。

ですから、携帯電話の延滞料金を自己破産の債務として、携帯会社を自己破産の債権者として含めたうえで自己破産の申立を行う場合には、携帯電話の契約が強制されてしまう可能性があるということは認識しておくべきだろうと思います。

 

なお、携帯電話の料金の未納が確定したことを理由に携帯会社から携帯電話の契約を強制解約された顧客についてはその情報が電気通信事業者協会に5年間登録され携帯キャリア各社がその情報を共有することができるシステムになっていますので、仮に携帯料金の不払いを理由に携帯会社から携帯電話の契約を強制解約された場合にはそれ以後5年間はたとえ他の携帯会社であっても携帯の再契約が「形式的には認められない」ことになります。

もっとも、自己破産の手続きにおいて携帯料金の滞納分を「負債」として、携帯会社を「債権者」として申立を行ったとしても、自己破産の手続きが終了し裁判所から出される免責の許可決定が確定した場合には、携帯電話の再契約も「事実上認められる」のが携帯会社の一般的な取り扱いです。

自己破産の免責許可決定が確定した場合には、この電気通信事業者協会に登録された「料金不払いで強制解約された」という顧客情報が抹消される取り扱いになっていますので、自己破産の手続きが終了し裁判所から出される免責の許可決定が確定した後は5年を経過しなくても携帯電話の再契約は認められることになります(※料金不払いで強制解約された元の携帯会社でも携帯の再契約が認められることになります)。

▶ 不払者情報の交換 |一般社団法人 電気通信事業者協会(TCA)

※電気通信事業者協会のサイトでは「不払者情報の交換」として登録の対象となる顧客を「平成11年4月1日以降に契約解除となり料金不払いのあるお客様」としていますが、「自己破産等により免責が決定している方」はこれに「含まれない」とも記載されていますので、自己破産の免責が出た場合には仮に「不払い者情報」として登録がされていても抹消される取り扱いになっているものと思われます。

仮に自己破産の免責が確定しているにもかかわらず携帯電話の契約ができない場合には、この「不払い者情報の交換」の登録が抹消されていない可能性がありますので、そのような場合は電気通信事業者協会に「自己破産の免責が決定していること」を届け出た方が良いかもしれません。

(2)自己破産で携帯会社を債権者として含めない場合

前述したように、携帯電話の料金に滞納分がある場合には、偏波弁済の問題があることから携帯電話の料金の滞納分についても自己破産の手続きで「負債」として申告し、携帯会社を「債権者」として申立を行って処理するのが原則的な取り扱いです。

しかし、前述したように携帯会社を自己破産の債権者として処理してしまうと携帯電話の契約を強制解約されてその後5年間は再契約ができなくなってしまうことになるため不都合が生じてしまいます(※ただし前述したように自己破産の免責が確定すれば5年を経過しなくても再契約は可能となります)。

そのため、実務上は携帯電話の料金の滞納が数か月分しかないような場合には、自己破産の申立前にその滞納分を全て携帯会社に弁済し、滞納分を解消した状態で自己破産の申立書を裁判所に提出するのが一般的です。

弁護士や司法書士に自己破産を依頼した場合には、債権者は債務者本人に借金の返済を請求することは禁じられていますから、弁護士や司法書士に依頼して裁判所に申立書を提出するまでの数か月間は家計に余裕が出来るのでたいていの場合は申立前に滞納分を解消できるのです。

もちろん、このように申立直前に一部の債権者だけを特別扱いしてその債務を弁済してしまうことは「偏波弁済」として自己破産の手続上問題となるのですが、そのように原則的な取り扱いに固執してしまうと携帯電話という現代社会では必要不可欠なツールを自己破産の申立人が使用できなくなってしまうことになり、生活の再建に大きな支障が生じることになります。

自己破産手続きの最終的な目的は借金の返済ができなくなった債務者の「生活の再建」にありますから、原則的な取り扱いに固執してしまうと本末転倒となってかえって債務者に不利益が生じてしまうでしょう。

そのため、数か月分の携帯料金の滞納分を申立直前に弁済してしまっても裁判所や裁判官は問題として指摘しないのが実務上の取り扱いです。

もっとも、滞納分があまりにも長期間に渡ったり、他の借金の債務と比較してあまりにも高額になるような場合には裁判所や裁判官、あるいは破産管財人が「偏波弁済」として問題にする場合も有るかもしれませんので注意が必要です。

ですから、もしも自己破産を申し立てる際に携帯電話の滞納分がある場合には、依頼する弁護士や司法書士と事前に十分に打ち合わせを行うことが必要でしょう。