自己破産を行うとそれまで借り入れたすべての借金の返済が免除されることになります。
しかし、自己破産は裁判所に申立を行う手続きであり、その性質は清算手続の意味合いもありますから、自己破産によって生じる一定の不利益は甘受しなければなりません。
もちろん、自己破産は申立を行う個人の債務について手続きを行うものですから、それに伴って発生する不利益も、基本的には本人に関係するものに限られるのが原則です。
しかし、現代の入り組んだ経済社会では、家族との間で密接な経済的があるがゆえに経済的な繋がりが深い家族に対して間接的に一定の影響が生じるのは避けられない場面もあるといえます。
では、自己破産した場合には具体的にどのような不利益が家族に及ぶ可能性があるのでしょうか?
家族が保証人になっている場合には家族が請求を受ける
まず抑えておかなければならないのが、自分の借金に家族の誰かが保証人や連帯保証人になっているような場合には、その保証人になっている家族に対して一括請求がなされるという点です。
一般的な銀行や消費者金融のカードローンであったりクレジット会社のローン契約等の場合には保証人を付けずに借り入れられる場合が多いですが、銀行や信用金庫などの融資によっては保証人(または連帯保証人)を付けるよう要求される場合があります。
また、奨学金などの借り入れについても連帯保証人を付けるのが一般的ですから、これらの借り入れがある契約では家族が保証人(または連帯保証人)になっていることも多いでしょう。
この保証人(または連帯保証人)の役割は、債務者本人が返済できない場合に返済を保証するところにありますから、債務者本人が自己破産をした場合には当然その保証人(または連帯保証人)に対して債権者である金融機関から「債務者が自己破産して払えなくなったんだからお前が代わりに払え」と請求がなされることになります。
ですから、自分の借金に家族に保証人になってもらっている場合には、自己破産の相談を弁護士や司法書士にする前に(最悪でも自己破産の申し立てをする前までに)家族にも事情を説明して理解を得てもらわなければならないでしょう。
家族が連帯債務者の場合にも家族が請求を受ける
家族が連帯債務者になっている場合にも自己破産することによって家族に請求がなされるので注意が必要です。
ローンなどの契約では「夫」と「妻」がそれぞれ連帯債務者となっている場合がありますが、このようなローンでは通常、連帯債務者の一方を債務を弁済する者として指定し毎月その指定した一方がローン会社に返済することにしている場合が多くあります。
しかし、これは便宜上債務の返済を一方に指定しているだけであって、連帯債務者の契約上の地位は債務者本人と全く変わりありませんから、仮にその債務の弁済を行うと指定している一方の弁済が滞った場合には、他方の連帯債務者に督促が出されることになります。
そのため、たとえば夫と妻が連帯債務者となっている何らかのローンがある場合に、「夫」をその債務の弁済を指定したものの、弁済の途中で「夫」の返済が滞ってしまった場合には、もう一方の連帯債務者である「妻」の方に請求が行くことになるのです。
また、契約によっては連帯債務者の一方が自己破産した場合にはローン契約自体が失効し、一括請求がなされるものもありますから、そのような契約の場合には連帯債務者の一方(たとえば「夫」)が自己破産したことによって、もう一方の連帯債務者(たとえば「妻」)の方に借り入れ残金の一括請求がなされることもあります。
このように、自己破産する人の家族がローンの契約の連帯債務者になっている契約がある場合には、その連帯債務者になっている家族に対して請求がなされる場合があるので注意が必要でしょう。
家族の保証人になっている場合は別の保証人を求められる
自己破産する人が家族の借金の保証人や連帯保証人になっている場合には、自分が自己破産することによって他の保証人(または連帯保証人)を付けるよう債権者から求められることがあるので注意が必要です。
たとえば、子供が奨学金などの借り入れを行う場合にはその「親」が連帯保証人になるのが一般的ですが、この場合に「親」が自己破産をする際の破産手続きにおいては奨学金を貸し付けている団体を「保証債務の債権者」として届け出なければなりませんので、裁判所で自己破産の免責が認められた場合には、その「親」は奨学金の保証人(または連帯保証人)から外れてしまうことになります。
そうすると、奨学金を貸し付けている側からすれば、奨学金を借りている「子」が返済できなくなった場合に代わりに請求をすることができる保証人(連帯保証人)を失ってしまうことになりますから、奨学金を貸し付けている側は奨学金を借りている「子」に対して「保証人がいなくなったんだから代わりの保証人を付けなさい」と要求するのが一般的です(契約上そのようになっているのが一般的なようです)。
ですから、「子」の奨学金の保証人(または連帯保証人)に「親」がなっている場合に、その「親」が自己破産をする場合には、「子」の奨学金の保証人(または連帯保証人)になってもらえる人を別に探しておかなければならないことになるので注意が必要でしょう。
家族の車が引き揚げられてしまう(ことがある)
自己破産をする場合は、家族が使用している自動車が債権者に引き揚げられてしまうことがあるので注意が必要です。
自己破産をする人が所有する自動車がローンで購入したものである場合には、自己破産に先立ってその自動車はローン会社に引き揚げられて売却され、売却代金がローンの残額の返済に充てられることになるのが一般的な実務上の取り扱いです。
しかし、この自動車が引き揚げられるのは、何も自己破産をする人が使用している自動車の場合だけではありません。
仮に家族が使用して自動車で、車検証に自己破産をする人以外の家族の氏名が「使用者」として車検証に記載されているような場合であっても、その自動車ローンの契約者が自己破産をする人であったような場合には、その自動車は債権者に引き揚げられて売却されてしまうことになります。
債権者からしてみれば、その自動車の使用者が誰かは関係なく、ローンが完済されるまでその自動車の所有権は債権者であるローン会社に留保されていることになりますから、返済が止まった段階で債権者であるローン会社が引き揚げて売却し、売却代金がローンの返済に充てられることになるのです。
ですから、自動車ローンで購入した自動車がある場合にそのローンの途中で自己破産するような場合には、たとえ使用者が家族の名義になっているような場合であってもその車を失うことになる場合がありますので事前に家族から理解を求めておくことも必要といえるでしょう。
家族の財産が引き揚げられてしまう(こともある)
また、自己破産に伴って家族の所有するものが引き揚げられてしまう場合も有るので注意が必要です。
もちろん、前述したように自己破産はその申立人個人を対象とする清算手続きですので、たとえ家族であってもその申立人以外の財産が債権者や裁判所に引き揚げられてしまうことは基本的にありません。
しかし、購入した商品のローンの返済が終わらない状態で自己破産の申し立てをする場合には、そのローン会社が商品を引き揚げて売却し売却代金をローンの弁済に充てるのが一般的ですから、そのような場合にはたとえ家族の所有するものであっても自己破産に先立って債権者に引き揚げられることがあります。
たとえば自己破産をするAさんがクレジット会社のローンを利用して購入したヴィトンのハンドバッグを奥さんにプレゼントしたとしましょう。
この場合、ヴィトンのバッグは奥さんが所有していますが、このローンの途中でAさんが自己破産をする場合には返済を受けられないクレジット会社がヴィトンのバッグを引き揚げて売却し売却代金がAさんのローン残高に充当されることになるのが一般的です。
ですから、このようにローンで購入したものを家族が使用しているような場合には、その商品が自己破産に先立って債権者に引き揚げられてしまう(可能性がある)ということも家族に伝えておいた方が良いと思います。
家族の保険が解約させられてしまう(こともある)
自己破産をする場合には、自己破産をする人が契約者となっている保険ががある場合には、たとえ被保険者がそれ以外の家族になっている場合であっても解約させられる場合があるという点も想定しておかなければなりません。
自己破産は清算手続きの性質を含みますから、借金の返済が免除される代わりにその所有する財産については一定の範囲を除いて全て裁判所に取り上げられ売却され、その売却代金が配当として各債権者に案分分配されることになります。
そのため、仮に生命保険や学資保険など解約した場合に解約返戻金などの金銭が戻ってくるような保険がある場合には、「資産」と判断されて裁判所(正確には破産管財人)に強制解約され、その解約返戻金を取り上げられることになるのが通常の取り扱いです。
もちろん、前述したように自己破産は個人の借金について清算する手続きですから、たとえ家族であっても自己破産の申立人ではない人が契約している生命保険や学資保険が解約されることはありません。
しかし、例えば「妻」が自己破産する場合において、「妻」を契約者とする生命保険や学資保険がある様な場合には、たとえその被保険者が「夫」や「子供」であった場合であったとしても、その保険や学資保険は(解約返戻金の金額にもよりますが)基本的に解約の対象になります。
※ただし、保険が解約されてしまうのは解約返戻金の合計額が20万円を超える場合などに限られますので(※自己破産を申立てる裁判所によっても異なります)、自己破産の申立人が契約者となっている保険がすべて解約されるというわけではありません。
ですから、生命保険や学資保険の契約がある場合には、自己破産を申し立てる前にその保険の契約者は誰なのかという点を今一度チェックする必要があると思います。
家族の給与明細書のコピーが必要になる(ことがある)
自己破産の申立書には家計を同一にする者の収入を証明する書類のコピーを添付することが求められています。
収入を証明する書類とは、たとえば給与明細書が一般的ですが、年金生活者の場合は年金受給証明書などを添付する必要があります。
そのため、例えば夫の両親と同居し、かつ、家計が一つになっているような場合において妻が自己破産をする場合には、夫の両親の給与明細(または年金受給証明書)の添付が必要となりますし、子がアルバイトをして家計にいくらか入れているような場合には子の給与明細についてもそのコピーが必要となります。
給与明細書のコピーを提出することでその家族に何らかの不利益(給料が取り上げられるとか、会社に連絡が行くとか)が及ぶものではありませんが、人によっては裁判所に自分の給与明細を提出することに抵抗を感じる場合もありますので、その理解を得る必要があります。
同居の家族の通帳のコピーが必要になる(ことがある)
また、同居の家計を同じくする家族の銀行口座から光熱費等の引き落としがなされている場合には、その家族の預金通帳のコピーも裁判所に提出しなければならない点についても注意が必要です。
自己破産の申立書には光熱費の支払伝票を添付しなければなりませんが、光熱費を口座引き落としにしている場合にはその通帳の写しが必要となります。
この場合、自己破産を申し立てる人の通帳から引き落とされているのでは問題はありませんが、例えば同居する親の口座から引き落とされているような場合には、その親の通帳のコピーが必要となります。
通帳を裁判所に提出したからと言って、その家族の預金口座が凍結させられたり預金を取り上げられたりすることはありませんが、人によっては裁判所に提出することに抵抗を覚える場合も有るかもしれませんので事前によく説明しておく必要があるでしょう。
子供の携帯電話の契約ができなくなる(ことがある)
自己破産をすると、たとえば子供に携帯電話を持たせたり、家族の機種変更をする際に携帯キャリアから申請を却下される場合がある点も理解しておくべき事項といえます。
子供に携帯(スマホ等)を持たせるために新しく契約をしたり、機種変更をする際は、その親が契約者となるのが通常ですが、携帯(スマホ等)の機種の代金はたいていの場合、機種の代金を一括して支払うのではなく、キャンペーンなどで毎月の通話料(通信料)分が無料になるか、もしくは機種代金がゼロ円になる代わりに数年間の契約が強制されるようなプランに加入されるかになるのが一般的です。
しかし、このような契約は形式的には携帯の機種代金が「0円」になっていたとしても、実質的には携帯の機種代金が「0円」なのではなく、毎月の通話料として差し引かれていることになりますので、契約上では携帯の機種購入代金をクレジット会社が立て替え払いするローンを利用しているにすぎません。
ですから、携帯の契約や機種変更をする際には、携帯キャリアの代理店からクレジット会社に契約者が信用情報機関に事故情報として登録されていないか照会がなされることになりますが、自己破産をしているとこの審査に引っかかり、審査で落ちてしまうことになります。
この点、自己破産をすると信用情報機関に最低でも5年間登録されますから、その期間は自己破産をした人は携帯の契約や機種変更ができなくなるということになります。
そのため、仮に親が自己破産した場合を考えると、その子供の携帯を契約したり、同居の家族の携帯の機種変更をする場合に、その自己破産した親が携帯の契約者だったりすると、信用情報で落とされて携帯の契約や機種変更が出来なくなる場合があるということになるのです。
これを防ぐには夫が自己破産した場合には妻が、妻が自己破産した場合には夫が携帯の契約者となって子供の携帯を購入したり機種変更をするか、もしくは携帯キャリアの代理店で機種を購入するのではなく、中古販売店などで携帯(スマホ等)の機種だけを購入し、携帯キャリアの代理店にその中古で購入した携帯の機種を持ち込んで契約なり機種変更するしかありません。
こうすれば自己破産をした親の信用情報は問題になりませんから、機種変更の際にローン会社から信用情報機関に照会がなされることもなく、機種変更ではじかれることもなくなります。
ですから、親が自己破産したからといって絶対に子供が携帯の契約をしたり機種変更をすることができないわけではないですが、携帯の契約において問題が発生する場合があるということは覚えておいた方が良いかもしれません。
最後に
以上はあくまでも一例ですので、これら以外にも家族に影響することがあるかもしれませんが、自己破産をしたことによって家族に影響が出るとは言っても、それは間接的なものに過ぎませんし、仮に影響が出たとしても他の何らかの方法を使えば代替が利くものばかりです。
ですから、自己破産をする際に家族に迷惑がかかるかもしれないと考えて躊躇する気持ちはわかりますが、誠実に説明すれば理解してもらえるものと思いますので、あまり深く考えすぎないようにして早めに弁護士や司法書士に相談することが必要といえるでしょう。