「闇金から命懸けで守る」と言う弁護士や司法書士がいない理由

一昔前まで、「闇金から命懸けで守ります!」と威勢の良い言葉で闇金の処理を行う弁護士や司法書士がテレビや雑誌などで取り上げられることがありましたが、最近ではそのような弁護士や司法書士を見る機会もめっきり減ったのではないかと思います。

もちろん、そういった「命懸けで闇金と戦う」弁護士や司法書士が絶滅したわけではないでしょうが、「闇金から命懸けで守ります!」と大見えを切ってメディアに登場する弁護士や司法書士はほぼ見かけなくなりました。

ではなぜ、そのように「闇金の処理」に「命を懸け」てくれる弁護士や司法書士が居なくなったのでしょうか?

「闇金」と「命を懸け」て戦ってくれるような頼もしい弁護士や司法書士はこの世から完全に消滅してしまったのでしょうか?

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弁護士や司法書士からすれば「闇金の処理」は「生命の危険」が生じる類の仕事ではない

「闇金と命を懸けて戦う」弁護士や司法書士が消滅してしまったのか、という点を検証する前に、そもそも弁護士や司法書士が行う「闇金の処理」という仕事は「生命の危険」が生じるほど危険な作業ではないということを理解してもらわなければなりません。

「闇金」は貸金業法や出資法と言う法律に違法して法外な高金利を利用者から巻き上げる犯罪者集団ですから、「闇金からの借り入れについて相談を受けてその闇金とのトラブルを解消する」作業を行うことは「犯罪者集団と対決すること」を意味します。

そのため、弁護士や司法書士が「闇金の処理」の依頼を受けるという行為は一見すると「命の危険」が生じる危険な行為のようにも思えるのですが、実際には「闇金の処理」には「生命の危険」が生じることはないのです。

「闇金」の態様も様々ですが、一般に「闇金」を呼ばれているのは「090金融」や「080金融」などと呼ばれている業者のことをいいます。みなさんも街角の電柱に「即日融資!」とかのうたい文句で無造作に張られている広告や、毎日のように自宅の郵便受けに投函されている「ブラックでもOK!」などのキャッチコピーで融資を勧めるチラシを見たことがあると思いますが、そういった業者がここでいう「闇金」にあたります。

このような「闇金」がなぜ「携帯電話だけ」で顧客との連絡を取るかというと、「対面」で「融資」や「取り立て」を行ってしまうと、「面が割れ」てしまい、逮捕されるリスクが高くなるからです。

先に述べたように、「闇金」の行う融資は違法な行為であって貸金業法や出資法と言った法律に違反する犯罪行為となるのですから、闇金が顧客やその顧客から依頼を受けた弁護士や司法書士に「顔」を見せてしまったり「居所」が知られてしまえば、警察に逮捕される危険性が高まります。

だからこそ「闇金」は携帯電話の番号だけを教えて「顔」や「居所」を明かさないわけです。

このように考えると弁護士や司法書士の「闇金の処理」という仕事に「生命の危険が生じ得ない」ことはすぐに理解できます。

なぜなら、もし仮に闇金側が「暴行」や「傷害」などといった実力行使に出てきた場合には、すぐに逮捕されて刑務所に入れられるのが明らかだからです。

「闇金」の処理をしていると、闇金から「こ〇すぞ!」とか「お前の事務所なんか潰すぞ!」とか散々な暴言を吐かれることは普通にありますが、実際に闇金が事務所に押し掛けてきたり、暴力を振るうことは一切ありません。

「ヤミ金」が「”闇”金」であるゆえんは、「闇」に隠れて顧客を脅し、高金利を巻き上げる点にあるわけですから、「”闇”金」が逮捕されるリスクを冒してまで「闇」から「表」に出て来て「暴行」や「傷害」事件に該当するような実力行使をしてくるはずがないのです。

ですから、「闇金」のトラブルを抱えている依頼者から「闇金の処理」を依頼されたとしても、その依頼人自体が闇金から「暴行や傷害」を受けたり、依頼を受けた弁護士や司法書士が闇金から「暴行や傷害」を受けたりするシチュエーションは常識的に考えればありえないということがわかるでしょう。

闇金は「暴力」を背景にしながら「姿を隠して」高金利を脅し取ることが目的ですので、弁護士や司法書士が行う「闇金の処理」という仕事は「生命の危険」が生じるほど危険な作業ではないのです。

「闇金から命懸けで守ります!」と言うことは「闇金の脅し」を「事務所の宣伝」に利用することになる

前述したように、闇金は「暴言」を吐いて顧客を脅すことで高金利を支払わせることが目的ですから、闇金が「〇〇するぞ!」とか「お前の家に行くぞ!」とか言っているとしてもそれは単なる脅しにすぎません。

にもかかわらず、弁護士や司法書士が闇金のトラブルを抱えている人に対して「闇金から命懸けで守ります!」と言って依頼人を誘引したとなるとどうなるでしょうか?

「命懸けで守ります!」と言うことは「命を懸けるほどの危険」が存在することを前提としていますが、先ほども述べたように闇金が実際に押し掛けてきたり暴行や傷害を行うことは常識的に考えてあり得ないわけですから、「闇金の処理」という仕事をするうえで「命を懸ける」ほどの危険は存在していません。

それにもかかわらず、弁護士や司法書士が「闇金から命懸けで守ります!」と事務所のホームページやテレビ・ラジオのコマーシャルで広告を行ったとすると、「本来は存在しないはずの危険」を煽って顧客を誘引することになり、「闇金の脅し」を「弁護士や司法書士の事務所の宣伝」に利用することにつながってしまいます。

「闇金から命懸けで守ります!」と宣伝して顧客を募ってしまうと、実際には危険が生じえない「闇金の”単なる”脅し」を「危険が生じますよ」と相談者の不安を煽って集客することになってしまうので、弁護士や司法書士は「闇金から命懸けで守ります!」とは言わないのです。

なぜ昔は「闇金からは命懸けで守ります!」と声高に叫ぶ弁護士がいたのか?

前述したように、闇金がいくら「お前の家に行くぞ!」とか「こ〇すぞ!」とか脅してきたとしても、「090金融」や「080金融」など、携帯電話やメールだけでしか応対しない闇金がその姿を現すことはないわけですから、そのような闇金が逮捕されるリスクを冒してまで顔や姿を現して押し掛けてくることは常識的に考えてありえないといえます。

ですから「闇金のトラブル」を解決するのに「命の危険」は伴わないといえますので、弁護士や司法書士が「闇金の処理」をするのに、そもそも「命を懸ける」必要はないわけです。

ではなぜ、昔のテレビや雑誌などに「闇金から命懸けで依頼人を守る」ような弁護士が出ていたかというと、携帯電話やインターネットがなかった時代には、実際に闇金が押し掛けてきたり、闇金に暴力を振るわれたりするケースがあったからです。

携帯やネットのない時代には、闇金は顧客と「対面」でお金の受け渡しをしたり、顧客の自宅まで取り立てに行くことも多く行われていましたから、闇金とトラブルを抱えてしまった場合には実際に「闇金と対面」することも多く「生命身体の危険」を感じるシチュエーションも生じていたわけです。

だからこそ昔は「闇金から命懸けで守ります!」と依頼人に告知することで依頼人を「闇金からの恐怖」から解放し安心感を与える必要性があったわけで、「闇金処理に命を懸ける」ような気骨のある弁護士が求められていたわけです。

しかし、時代が変わった現在では、先ほども述べたように顧客と「対面」で連絡や金銭の授受をしている闇金はほぼ絶滅危惧種になっていて、いわゆる「090金融」や「080金融」など携帯電話やメールだけを使い、金銭の授受には預金口座(ATM)を利用するなど「姿を隠して」顧客と対応する闇金が主流です。

この「090金融」や「080金融」などの闇金は「姿を表に出さない」で「言葉で脅すだけ」でいかに多くの顧客から法外な利息を巻き上げることができるかが至上命題なのですから、わざわざ逮捕されるリスクを冒してまで実際に取り立てに出向いたり、暴行など暴力を用いるような馬鹿な真似はしないわけです。

実際、私も司法書士をしていた時代に比較的積極的に闇金トラブルの依頼を受けて処理した時期がありますが、闇金から「生命の危険が生じうるような乱暴な言葉で脅された」経験は数多くあっても、それで「実際に生命に危険が生じるような暴行や傷害を受けた」ことは一切ありませんでした。

(というか、仮に闇金から暴行などを受ければ即警察を呼んで逮捕してもらえばその時点でその案件の処理は終わりますので弁護士や司法書士からしてみると闇金が事務所に押し掛けて来て一発殴ってくれた方が手っ取り早く仕事を終わらせることができて好都合です。ですから、そもそも「090金融」や「080金融」の処理で闇金と顔を合わせること自体、正直言ってありえません)

こういった理由があるため、現在では「闇金から命懸けで守ります!」と声高に叫ぶ弁護士や司法書士がいなくなったのです。

「闇金から命懸けで守ります!」と言ってくれる弁護士や司法書士が見られなくなったのは、なにも弁護士や司法書士に正義感や倫理観がなくなったからではありません。

「闇金トラブル」を処理するのに「命の危険」が生じるほどの危険性は存在しなくなったから、「命を懸ける」と言わなくなっただけなのです。

「闇金からは命懸けで守ります!」と言うこと自体が悪いわけではないけれど…

繰り返しますが、闇金は単に「言葉で脅して」法外な金利を巻き上げるのが目的ですから、いくら闇金が乱暴な言葉で脅してきたとしても、闇金が実際に殺人や傷害事件に発展するような暴力を用いて取り立てにくることはありません。

闇金は「姿を隠し」て携帯電話を使って「脅し」ているだけですから、「闇金とのトラブル」を解消するために「命を懸ける」必要はありませんし「命を懸ける」ほどの危険性は一切ないのです。

「闇金から命懸けで守ります!」などと言ってくれる弁護士や司法書士がいれば、一般の人は「命懸けで闇金と戦ってくれるのか!なんて頼もしい先生なんだ!!」と思うかもしれません。

しかし、先に述べたように、闇金のトラブルが生命に危険を及ぼすトラブルでないことを考えると、「闇金から命懸けで守ります!」と言う言葉の裏には「実際には危険性のない闇金の単なる脅し」を「さも危険性があるように錯覚させ」て「依頼人の不安を煽り」ながら「自らを頼もしい先生」と認識させる目的があることが透けて見えます。

もちろん、個々の弁護士や司法書士が「命を懸け」て仕事を処理するかしないかは自由ですから、「闇金から命懸けで守ります!」と言うこと自体は個々の弁護士や司法書士の自由でしょう。

しかし、「闇金」は「言葉で脅し」ているだけであって「実際に闇金が暴行や傷害を加えること」はあり得ないのですから、闇金の処理に「命を懸けるか懸けないか」は個々の弁護士や司法書士の能力とは全く関係がないことになります。

弁護士や司法書士から「闇金から命懸けで守ります!」と言われれば、一見すると頼もしく見えてしまうため短絡的に「この先生に依頼しよう!」と決めてしまいがちですが、「闇金から命懸けで守ります!」と言わなくても闇金トラブルを真摯に処理してくれる弁護士や司法書士はたくさんいるのが現実です。

むしろ、「闇金から命懸けで守ります!」などと声高に「本来は怖くない闇金を怖いと錯覚させる」ような弁護士・司法書士よりも、「闇金など普通のサラ金と変わらない」と考えて粛々と処理してくれる弁護士や司法書士の方が、はるかに真摯に対応してくれるはずですし、費用的な負担も柔軟に考えてくれるはずですから、「闇金から命懸けで守ります!」などと言う言葉に踊らされないように冷静な判断力をもって依頼する弁護士や司法書士を選んでほしいと思います。