弁護士や司法書士に債務整理を依頼して利息の再計算など引き直し計算を行った結果算出された債務残高(残元本)を36回(3年)以内で完済できないような場合には、自己破産で問題解決を図ることも検討する必要があります。
この債務残高(残元本)を36回(3年)以内で完済できない場合とは、毎月の収入から生活費を差し引いた残りの金額を原資として余裕をもって完済できない場合をいいますから、毎月の収入が極端に低い場合には借金の債務残高(残元本)がそれほど高額にならない場合でも自己破産の申立を避けられないということになります。
たとえば、現在の日本では全労働者人口の約3人に一人がアルバイトや契約社員、派遣社員などの非正規労働者として就業しているといわれていますから、たとえば毎月の給料が15万円程度しかない人であれば毎月の生活費を13万円とすると毎月の返済原資は2万円となり、そのうち余裕をもって返済に回せる金額は1万円程度にしかなりません。
そうすると、毎月1万円で36回で返済できるのは36万円が限度となりますから、非正規労働者として働くほとんどの人は借金残元本が36万円以上の借金があれば自己破産も可能ということになってしまいます。
しかし、36万円という一般的な感覚で考えてもそれほど高額とは言えない金額の借金しかない人でも本当に自己破産することができるのか、という点に疑問が生じます。
では、借金の総額が極端に少ない場合でも自己破産することはできるのでしょうか、それとも金額があまりにも少ないと自己破産は認められないのでしょうか?
借金が極端に少額であっても自己破産するのに問題はない
結論からいうと、仮に借金の総額が極端に少額であったとしても、その申立を行う債務者の収入から生活費を差し引いた残りの残額で余裕をもって返済できないような場合には、自己破産することは可能です。
なぜなら、自己破産の手続きを規定した破産法という法律では、自己破産の申立が認められる条件を「債務者が支払不能にあるとき」としか定めていないからです(破産法第15条1項)。
【破産法第15条1項】
債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
債務者の毎月の収入から生活費を差し引いた残額を返済原資とし、その返済原資で借金の残額を36回(3年間)の分割で余裕をもって返済できない場合はすなわち「支払不能」ということですから、たとえその借金の残額が極端に低額であったとしても自己破産することは可能ということになります。
例えば前述の例でいうと、毎月の給料が15万円程度しかない人がいたとして、その人の毎月の生活費(家賃や光熱費、通信費や交通費、食費、遊興費等の総額)が最低13万円必要であったとすると、毎月の返済原資は2万円となり余裕をもって返済に回せる金額は1万円程度にしかなりませんから、36万円を超える程度の借金しかなかったとしても「支払不能」の状態にあるということになりますから、裁判所に自己破産の申立を行えば自己破産の申立は原則として認められることになるでしょう。
実際の案件では…
もっとも、実際には36万円程度の借金で「支払不能」と判断される人はごくまれでしょうから、そのような少額で自己破産が認められた人がいるかはわかりません。
ですが、私が実際に知っている案件では借金の総額が140万円程度しかない人でも自己破産が認められた事例がありますし、昔弁護士さんに聞いた話では100万円を少し超える程度の借金で自己破産が認められたケースもあるそうです。
ですから、「自分は借金の金額が100万円以上ないから自己破産はできない」とか「借金額が少なすぎるから自己破産は無理だろう」と安易に判断して無理な返済を続けないようにすることが重要です。
毎月の収入と生活費はその人の職業や勤務先、生活実態などによって異なってきますから、勝手な自己判断で自己破産をあきらめないようにする必要があります。
自分が自己破産できるかどうかの判断は、専門家である弁護士や司法書士に相談しなければわからない場合も多いと思いますので、まずは弁護士や司法書士に相談し、自己破産の可否を検討してもらうことが必要といえるでしょう。