弁護士や司法書士に債務整理の相談をすると、まず最初に聞かれるのが「一番最初に債権者と取引をしたのはいつですか?」という質問です。
この「一番最初に借り入れをした日」とは、文字どおり借金をしている銀行や貸金業者から「一番最初に取引をした日」という意味ですが、債務整理をしたことがない一般の債務者の人にはその正確な意味が分からない人も多いようです。
では、債務整理で弁護士や司法書士から聞かれる「一番最初に取引をした日」とはいったい「いつ」のことをいうのでしょうか?
「一番最初にお金を借りた日」のこと
債務整理の依頼をした際に弁護士や司法書士から聞かれる「最初の取引日はいつですか」といった質問の意味は、「一番最初にお金を借りた日」はいつか、ということです。
貸金業者や銀行などから「お金を借りる」という行為は法律的には「金銭消費貸借契約」ということになりますが、この金銭消費貸借契約が成立するには「お金が実際に交付されること」が必要となりますので、実際にお金を受領していない限り「取引をした」ということにはなりません。
そのため、貸金業者や銀行との間で「最初に取引した日」は「一番最初にお金を借りた日(借りたお金を受け取った日)」となります。
なぜ「最初の取引日」を聞かれるか?
弁護士や司法書士が債務整理の相談を受けた際になぜ「最初の取引日」言い換えれば「最初にお金を借りた日」を聞くかというと、「最初の取引日」がわからない限り正確な債務額(借金の残額)を算出することができない、もしくは著しく困難になるからです。
弁護士や司法書士が依頼者から債務整理の依頼を受けた場合には、貸金業者などから取引履歴という債務者が借り入れと返済を行った一覧表を入手し利息の再計算を行うことになります。
この利息の再計算は一般に「引き直し計算」と呼ばれていますが、この引き直し計算は「取引の最初」から「取引の最後(つまり現時点までのこと)」までの全体を「一つの取引」として計算しなければなりませんので、「最初の取引日」がわからないと正確な計算をすることができません。
そのため、債務整理の依頼を受けた弁護士や司法書士はまず「最初に取引を開始したのはいつですか?」と聞くのです。
また、「最初の取引日」は自己破産や個人再生手続きを検討するうえでも、いつごろから取引を開始してどのような経緯を経て借金の返済が行き詰まったかといった点で重要な情報となってきますので、その意味でも最初に聴取しておく必要のある事項ということが言えます。
ですから、弁護士や司法書士に債務整理の相談を行う場合には、事前に自分がいつごろから借り入れを開始したのか、といった点については記憶を呼び起こしたり資料を整理したりしてある程度説明できるようにしておいや方が良いでしょう。
「途中完済」があっても完済前の取引から申告する
貸金業者との取引によっては、途中でいったん借金を完済し、しばらく期間を置いてから再度借り入れを始めたというような場合もあるかもしれません。
しかし、このような途中完済があったとしても、それ以前のその債権者との間の「最初の取引日」を申告するようにします。
なぜなら、貸金業者との取引は途中完済があったとしても、その完済する前の取引から遡って全ての取引を「一つの契約(取引)」として計算する必要があるからです。
途中完済の前後で別個の取引として利息の再計算をしてしまうと、全体を一個の取引として計算する場合と比較して支払わなければならない利息の金額が大きくなってしまうことがありますので、途中完済した場合であってもその前の取引から調査する必要があるのです。
たとえば、貸金業者のA社から「2010年の4月1日」に金5万円を借り入れ多のを最初に借り入れと返済を繰り返して「2012年の10月31日」にいったん完済し、「2013年の2月1日」に金10万円を借り入れて借入と返済を繰り返して返済に行き詰り弁護士(または司法書士)に債務整理を依頼することになったしましょう。
この場合には途中でいったん完済していますが、一番最初に借り入れを行った「2010年4月1日」を「最初の取引日」として申告する必要があるということになります。
「2012年10月31日」にいったん完済し、「2013年2月1日」から新たに借り入れを行っていますが、「2010年4月1日」からの借り入れと「2013年2月1日」からの借り入れはどちらも同じ貸金契約から借り入れを行っているということになりますので、それぞれ別個の契約ではない同じ取引として計算する必要がありますから、このように途中完済がある場合であっても一番最初の取引から利息の計算を行う必要があるのです。
「おまとめローン」がある場合も以前の取引を申告する
「おまとめローン」を利用した場合も同様です。
「おまとめローン」を知らない人もいるかもしれませんので念のため説明しておきますが、おまとめローンとは複数の契約や債権者からの借金を全て一つの契約に「おまとめ」して借金を一本化する契約のことをいいます。
例えばA社から50万円、B社から30万円、C社から50万円と20万円の2つの借金があるとすると、毎月A・B・C社にそれぞれ返済(C社からは2つの借金があるのでC社には2つの返済)しなければなりませんから非常に煩雑となります。
これをたとえばA社から改めて150万円を借り入れてA社・B社・C社からの借金を全て完済し、A社に対して150万円の借金を返済していくというような借り換え手続きが「おまとめローン」となります(※この場合A社でなく全く別のX社から150万円を借り入れてX社でおまとめローンを組むものもあります)。
この場合、B社やC社の借金は完済しているので、おまとめローンをしたA社(またはX社)に対してだけ返済すればよいですから返済の振り込みが面倒になりませんし、返済先が一本に絞れることから完済までのスケジュールが管理しやすくなるというメリットがあります。
しかし、おまとめローンにはそのようなメリットがある反面、「おまとめ」する前の取引について利息の再計算が正確に行われない可能性があるという危険性も存在します。
なぜなら、おまとめローンをする際には借金を一本化する債権者(前述の例でいえばA社やX社)から新たにお金を借り入れて他社(前述の例でいえばA社・B社・C社)からの借金を完済することになりますが、この場合にA社・B社・C社に支払う金額は、A社・B社・C社からそれぞれ請求がなされた金額をそのまま支払うのが通常だからです。
いわばA社・B社・C社から言われるままの金額を支払うことになるのですから、A社・B社・C社で利息の再計算が行われることはありませんので、場合によっては本来であれば払わなくても良い利息まで払わされている危険性があるのです。
そのため、「おまとめローン」を利用している場合には、弁護士や司法書士に債務整理を依頼する際に「おまとめローン」をする前の借入先の取引についても利息の再計算をして正確な借金額を計算しなければならないことから、「おまとめローン」前の借り入れについての「最初の取引日」も申告しなければならないということになるのです。
「最初の取引日」がわからない場合
以上のように、弁護士や司法書士に債務整理を依頼する場合には借金のある債権者について「最初の取引日」を申告する必要がありますが、そうはいっても何年も前の取引日について記憶していない人も多いと思いますので、いざ「最初の取引日はいつですか?」と聞かれても正確に答えられない人も多いのではないかと思います。
契約書や伝票、銀行への振り込み表などが残っている場合にはそれに記載がされているでしょうが、そうでない場合にはどうしようもありません。
このような場合にはどうしたらいいかというと、そのような場合には仕方がないので大体の年月日を記憶を頼りに申告するしかありません。
弁護士や司法書士は債務整理の依頼を受けた場合には各債権者から取引履歴を取り寄せて過去の借り入れと返済のあった日を調査することになりますから、取り寄せた取引履歴から「最初の取引日」を確認することも可能ですので、「最初の取引日」がわからない場合には「わかりません」と答えても問題ありません。
しかし、「途中完済」があった取引については債権者によっては「途中完済後」の取引履歴しか発行しない業者もありますし、古い取引履歴が処分されていることもありますから、そのような場合には「最初の取引日」がわからないということになり、自分が不利益を受けてしまう恐れもあり得ます。
そのため、弁護士や司法書士に債務整理を依頼する場合には、極力自宅にある資料などを探して「最初の取引日」がいつだったかを確認しておいた方が良いのではないかと思います。