任意整理は弁護士や司法書士が債務者の代理人となって債権者と交渉し、利息のカットや債務の減額、分割払いの和解協議を行う債務整理手続きをいいます。
自己破産や個人再生、特定調停などの手続きと異なり裁判所に申立を行う必要がないことから簡易迅速で柔軟な解決が望める点が大きなメリットといえますが、法定の手続きでない単なる示談交渉に過ぎず法律上の強制力がないことから任意整理に応じない債権者に対しては手続き自体を行えないというデメリットもあります。
ところで、任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合には、依頼を受けた弁護士や司法書士から債権者に対して受任通知(※債務者から債務整理の依頼を受けましたよという通知)が発送されることになりますが、この受任通知を債権者が受け取った場合には、それ以後の債務者本人への請求は停止されるのが通常です。
これは、弁護士や司法書士から受任通知が届いた場合には、消費者金融などの貸金業者やクレジット会社は直接債務者本人に請求を行うことが禁じられていることが理由ですが、ごくまれに、受任通知が債権者に発送された後に債権者が裁判所に訴えを起こし、裁判所経由で請求を行うケースがあります。
では、このように弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後に裁判所に訴えを起こされてしまった場合には、具体的にどのような対処をとればよいのでしょうか?
任意整理を依頼した後に裁判所に訴えを起こされるケース
前述したように、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後は消費者金融などの貸金業者やクレジット会社が直接本人に請求することは禁止されますので、通常は本人に直接請求がなされることはありません。
しかし、この場合であっても債権者が裁判所に訴えを起こすことは禁止されませんから、場合によっては弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後であっても裁判所に訴えを起こされてしまうケースもあることになります。
もっとも、一般的な貸金業者やクレジット会社のほとんどは弁護士や司法書士に任意整理が依頼された後に裁判所に訴えを起こすことはまずありません。
仮に訴えを起こしても裁判が終了して判決が出るまでに任意整理の話し合いで解決することがほとんどですから、あえて裁判を継続する必要性に欠けるからです。
ただし、次のようなケースには、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後であっても裁判所に訴えを起こされてしまうことがあります。
(a)債権者が街金融などの場合
債権者が街金融などの場合には、債務者が弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後でも構わずに裁判所に訴えを起こしてしまうケースがあります。
前述したように、いわゆる大手といわれる消費者金融などの貸金業者やクレジット会社などは顧客の数も多く弁護士や司法書士に任意整理が依頼された後の対応もマニュアル化されていますから、通常は弁護士や司法書士に任意整理が依頼された後に訴えを起こすことはまずありません。
しかし、街金融などではそれほど顧客も多くなく、弁護士や司法書士が介入した場合の対応もマニュアル化されているわけではありませんので、その顧客との取引の経緯によっては弁護士や司法書士が介入した後であっても構わずに訴訟を提起してくる場合があります。
(b)任意整理を依頼した時点で既に訴えの手続きに着手されている場合
債務者が弁護士や司法書士に任意整理を依頼した時点で既に債権者が裁判の手続きに着手してしまっている場合にも、任意整理を弁護士や司法書士に依頼した後に裁判所に訴えを起こされてしまうケースがあります。
弁護士や司法書士に債務整理を依頼する場合には、依頼をして債権者に受任通知が発送されるまでどうしても数日間のタイムラグが生じてしまいます。
そのため、仮に弁護士や司法書士の事務所に相談にいった時点で既に債権者側が裁判所に訴えを起こす手続きを進めてしまっている場合には、弁護士や司法書士が受任通知を発送した段階で既に訴えが起こされてしまっていることもあるでしょう。
このように、いわゆる入れ違いで訴訟を提起されてしまうことは避けられないケースもあるといえます。
(c)時効が迫っている場合
貸金業者やクレジット会社から借金は最後の返済から5年が経過すると特段の事情がない限り時効で消滅させることができますので、最後の返済から5年が経過しようとしている債権については貸金業者やクレジット会社が消滅時効の中断を行う必要性から訴訟を提起する場合があります。
このように、消滅時効期間が迫っている場合には、仮に弁護士や司法書士が介入したとしても債権者側は訴えを提起せざるを得ませんので、このようなケースでは弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後であっても裁判所に訴えを起こされてしまう場合はあるといえます。
弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後に裁判所に訴えを起こされてしまった場合の対処法
以上のように、まれなケースになりますが、上記のようなケースでは弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後であっても裁判所に訴えを起こされてしまう場合はあるといえます。
なお、その場合には、次のような方法で対処するのが一般的です。
(1)取り下げを依頼する
弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後に裁判所に訴えを起こされてしまった場合には、依頼を受けた弁護士や司法書士が債権者に直接連絡を入れ、訴訟や支払い督促の取り下げを申し入れるので一般的です。
この場合、ほとんどの債権者は申入れに素直に応じてすぐに裁判所で取り下げの手続きをしてくれるのが通常の取り扱いとなっています。
債権者が裁判所に訴えを起こすのは、債務者本人に請求しても一向に返答がなかったりして返済される見込みがないと判断した場合がほとんどですから、弁護士や司法書士が介入したことがわかるとその後に任意整理で分割弁済の協議に入ってくれることが確認できるため、債権者としても訴えを継続する必要性はなくなるのですぐに取り下げてくれるのです。
もっとも、前述したように一部の街金融などの場合にはそのようなことはお構いなしに訴訟を継続する場合も有りますので、ごくまれに訴えを取り下げてもらえないケースもあるかもしれません。
(2)支払い督促の場合は「異議」を出す
債権者が「支払い督促」を裁判所から出している場合には、裁判所に「督促異議」を出すことが必要となります。
「支払い督促」とは、権利関係が明確な金銭請求について簡易裁判所において簡易な方法による裁判で請求することが認められる手続きのことを言います。
「支払い督促」が裁判所から出されると債務者本人に対して「支払い督促」の通知が発送されますが、そのまま放置しておくとその「支払い督促」の請求が確定してしまい(※通常の裁判で敗訴したのと同じような感じになる)、差押え等がなされる可能性が発生してしまうので、必ず「異議(督促異議)」を出す必要があります。
「督促異議」を裁判所に提出すると、その時点で「支払い督促」の手続きは終了し、通常の訴訟(一般の民事訴訟)に自動的に移行することになりますが、通常の訴訟手続きは最低でも半年程度の期間が必要になるためその期間は差押えの危険から解放されることになります。
そのため、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後に債権者から「支払い督促」を申立てられた場合には、「督促異議」を裁判所に提出して通常訴訟に移行させ、通常訴訟が行われている期間に任意整理の交渉を終わらせてしまうのが一般的な対処法となります。
(3)裁判に応じながら裁判外で和解をする
弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後に債権者から裁判所に訴えを起こされたり、支払い督促の申し立てを受けている場合において、債権者から訴えや支払い督促を取り下げてもらえず、裁判が継続されてしまっているような場合(※督促異議を出して通常訴訟に移行した場合も含む)には、その訴訟に応じて裁判で争う姿勢を見せなければなりません。
もっとも、とはいっても裁判が判決まで行ってしまうと債務者側が敗訴してしまうのは避けられませんから、通常は裁判を継続しながら裁判外で債権者と任意整理の交渉を行い、裁判外で分割和解の合意を取り付けるのが一般的です。
裁判外で任意整理の分割弁済の協議が整えば、その時点で裁判所に裁判の取り下げを願い出て裁判を終わらせることも可能ですので、通常は裁判所に出廷して裁判官に「現在、訴外で原告の業者さんと和解の協議中です」という申告をしたうえで裁判を引き延ばし、裁判外で任意整理の交渉を行うのが一般的な実務上の取り扱いとなります。
(4)裁判上で和解をする
債権者から訴えや支払い督促を取り下げてもらえずに訴訟が継続してしまっている場合には、前述の(4)で解説したように裁判外で任意整理の分割弁済の協議をし、その協議が整った段階で訴えを取り下げてもらうこと多いですが、ケースによっては裁判上で任意整理の分割弁済の協議を行う「裁判上の和解」を行う場合も有ります。
裁判所で訴訟が行われると通常は裁判所から「被告は原告に〇〇円払え」などという「判決」が出されるのが通常ですが、裁判官の職権や当事者からの申し立てによって「和解」の協議に入ることが可能です。
この裁判上で和解が協議される場合には、当然任意整理の分割弁済などの協議も行うことが可能ですから、ケースによっては裁判の途中で和解手続に移行し、「裁判上の和解」が成立することもあります。
「裁判上の和解」が行われそれが合意に至った場合には、裁判所から和解の決定が出されることになりますので、その時点で訴訟は終了し、あわせて任意整理の手続きも終了することになりますので、以後はその裁判上で和解した合意内容に従って債権者に分割して弁済することになるのが一般的です。
弁護士や司法書士に任せておけば問題ない
以上のように、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した後であっても、ごく稀に債権者が裁判所に訴訟や支払い督促を申立てることがありますが、その場合であっても適切な対処を採ることで判決を取られたり差押えを受けてしまうことを回避することが可能です。
もっとも、上記で解説したような方法は、弁護士や司法書士がそのケースに応じて適切に行ってくれますので、任意整理を依頼した債務者本人が上記のような方法を思い悩む必要はまったくありません。
ですから、借金の返済が困難になった場合には、債権者から訴えを起こされる前に早めに弁護士や司法書士に債務整理の相談をすることが必要ですし、仮に債権者から裁判や支払い督促を申立てられてしまっている場合には、速やかに弁護士や司法書士に依頼して適切な対処を取ってもらうことが必要といえるでしょう。