弁護士や司法書士に代理人となってもらい、債権者との間で債務の減額や利息のカット、分割弁済の協議をしてもらう手続きを「任意整理」といいます。
自己破産や個人再生、特定調停など法律で規定された法定の手続きと異なり、裁判所に申し立てをする必要がないことから、簡易迅速で柔軟な解決が望めるのが任意整理の主なメリットといえます。
ところで、退職金の支給を受けていたり、近い将来に退職金を受け取る予定がある人が自己破産をする場合には、その退職金の一部が債権者に配当すべき「資産」と認定されて裁判所(破産管財人)の管理対象とされる場合がありますが、任意整理の場合には「退職金」が債権者との交渉に何らかの影響を与えることがあるのでしょうか?
退職間近の人が任意整理で借金の整理をする場合には、近い将来多額の退職金を受け取ることがほぼ確定しているといえるため、その退職金を債権者への弁済に充当することが義務付けられたり債権者に取り上げられてしまうことがないのか、という点が問題となります。
任意整理の手続上で退職金が取り上げられたり弁済に充当されることはない
結論からいうと、任意整理の手続きで既に受け取っている退職金が取り上げられたり、今後受け取る予定になっている退職金が弁済に充当するよう義務付けられることはありません。
なぜなら、任意整理の手続きは債務者(実務上はその代理人となった弁護士や司法書士)と債権者が借金の返済について私的に協議を行う示談交渉に過ぎず、裁判所など公権力が関与する手続きではないからです。
この点、自己破産の手続きは裁判所に申し立てをすることが法律で定められており、その手続きの本質も「清算手続」の意味合いを持っていることから債務者の資産は全て裁判所(破産管材人)が管理して換価し債権者に配当するのが原則的な取り扱いとなります。
そのため、自己破産の場合には退職金も換価対象となりその一部(※原則として退職金の8分の1)が裁判所(破産管財人)に取り上げられて債権者に分配されることになるのです。
しかし、任意整理の手続きの場合はこのような清算手続きが行われることはありませんし、そもそも任意整理は裁判所に申し立てをする必要はないので自己破産のように退職金を取り上げたり債権者に配当(分配)する手続きも存在しません。
ですから、任意整理の場合には、たとえ莫大な退職金を受け取っていた李受け取る予定になっていたとしても、その退職金は一切任意整理の手続きに影響を受けないということになります。
債務者の意思で退職金を弁済に充てるのは差し支えない
上記で説明したように、任意整理は単に債務者と債権者の間で行われる示談交渉の場に過ぎず裁判所が関与する法定の手続きではありませんから、退職金が強制的に債権者辺弁済に充てられたり、債権者から弁済に充当するよう請求されることは100%ありません。
もっとも、債務者側の自らの意思で退職金を任意整理における分割弁済の返済原資に充てることはまったく差し支えありません。
たとえば、債権者に対して100万円の債務を負担している債務者が半年後に300万円の退職金を受け取ることが確定しているような場合には、債権者との任意整理の交渉で、半年後の退職金支払い月に退職金を返済原資にして100万を一括弁済する和解をしても良いですし、5カ月間毎月3万円を返済して半年後に残りの85万円を退職金を返済原資にして一括して弁済するような変則的な分割弁済案を提示しても良いでしょう(※勿論、それに債権者が応じることは必須ですが…)。
このように、債務者の側で退職金を返済に充てても良いというのであれば、その退職金や退職金の一部を返済原資として任意整理の和解を取り結ぶことは全く問題ありませんし、債権者の方としてもその方が返済が確実なので喜ぶ場合も多いと思います。
弁護士や司法書士と十分な打ち合わせが必要
もっとも仮に退職金を任意整理の返済原資として利用する場合であっても、それを債権者との交渉に持ち出すかは任意整理を依頼する弁護士や司法書士と事前に十分相談することが必要です。
安易に債権者側に退職金の存在を告知してしまうと「退職金があるなら利息のカットはしない」などと言われたり、交渉を有利に運ぶことができない可能性もありますので、弁護士や司法書士に自分の希望(退職金を返済原資に含めたいなど)を申告したうえで、最適な結果が得られるよう交渉を進めてもらう必要があるでしょう。