借金の返済が困難になった場合には、弁護士や司法書士に依頼して債権者との間で債務の減額や利息のカット、分割弁済の協議を行う任意整理の手続きによって多重債務問題を解決することが可能です。
この任意整理の手続きは、自己破産や個人再生など裁判所に申し立てが必要となる他の債務整理手続きと異なり、債権者が合意するのであればどのような解決方法でも認められることから、簡易迅速で柔軟な解決が見込める点が大きな特徴といえます。
ところで、任意整理で借金を処理する場合には、利息の再計算によっても残ってしまう債務については原則3年以内で分割弁済することが求められるのが通常ですが、その場合には生活保護受給者であっても任意整理の交渉をすることは可能でしょうか?
生活保護受給者は健康で文化的な最低限度の生活を送るだけの収入がないからこそ国庫から生活保護費を受給していますが、支給される生活保護費をやりくりすれば、借金額によっては任意整理で必要となる分割弁済額を工面できる場合もあると考えられるため問題となります。
生活保護受給者が任意整理で借金を処理することはできない
結論からいうと、生活保護受給者が任意整理で借金を処理することはできません。
なぜなら、生活保護受給者は生活を賄うだけの収入がないからこそ生活保護費を受給しているのであって、その支給された生活保護費を任意整理後に債権者に支払うべき返済に充ててしまうと、私人の借金を国が肩代わりしているのと同じ状態になってしまうからです。
任意整理の手続きを行うと、介入した弁護士や司法書士が利息の再計算をしても残ってしまう債務の残高については、債務者が原則3年以内に分割して債権者に返済していくことが求められます。
この場合、通常は毎月の給料や事業収入から毎月の余剰金を計算し、その余剰金から余裕をもって返済できる金額を返済原資として債権者に弁済していくのが通常の実務上の取り扱いとなります。
しかし、生活保護受給者がこれをやってしまうと、その毎月の返済原資は国庫から支給される生活保護費の余剰金が充てられることになりますから、突き詰めて考えると「国」が私人である「債務者」の借金を肩代わりしているのと同様になってしまいます。
また、後述するように、自分の生活を賄うことができる収入がない債務者は本来であれば自己破産で借金を処理するしかなく、債務者が自己破産した場合はその債権者はその回収不能になった貸付金を不良債権として財務上の処理をしなければなりませんが、債務者が生活保護費を返済原資として任意整理してしまった場合には、貸金業者という一企業の不良債権の処理に事実上国庫という税金が充てられることになりますから、突き詰めて考えると「国」が私企業である「債権者」の不良債権を議会の承諾なく勝手に肩代わりしてよいのかという問題も生じてしまうでしょう。
このように、生活保護費を任意整理の返済原資に充てるということは、生活保護費という国庫(税金)を財源とする公的資金を、事実上、私人の借金の返済にもしくは私企業の不良債権処理に充てるということになってしまいますから、生活保護受給者が任意整理をすることはできないと考えなければならないのです。
生活保護受給者の借金は自己破産で処理するしかない
生活保護受給者は、そもそも自分で自分の生活を賄うだけの収入を得られる状況にないためその状態で借金を返済することは事実上無理ですし、前述したように生活保護費を借金の返済に回すことは認められません。
そうすると、生活保護受給者は手続き後に一定額の返済が必要となる任意整理や特定調停、個人再生などの手続きは取ることができないということになります。
したがって、たとえ借金の額が僅かしかなかったとしても、生活保護受給者が借金の処理をする場合には自己破産で処理するしかないということになります。
自己破産は実質的に「タダ(無料)」でもできる
このように、生活保護受給者が任意整理や個人再生、特定調停で借金を処理することはできませんから、事実上、生活保護を受けている人が借金を負担している場合は自己破産を申し立てるしかありません。
もっとも、自己破産を申し立てるには法律の専門知識が必要となりますので弁護士か司法書士に依頼する必要がありますが、弁護士や司法書士を雇うにしても当然費用が発生しますので、「生活保護を受けている人が弁護士や司法書士の報酬を払えるわけがないではないか」と思う人も多いかもしれません。
しかし、法テラスという国の設置した機関と法律扶助契約を結んでいる弁護士や司法書士の事務所に依頼した場合は、その弁護士や司法書士は法テラスから報酬や費用の立替を受けることが可能です。
そして、この法テラスから立て替えられた弁護士や司法書士の報酬や費用は、通常であれば利用者が後で分割して償還していかなければなりませんが、生活保護を受給している場合にはその全額の償還が免除されることになっています。
したがって、生活保護受給者が自己破産をする場合には、実質的に「無料(タダ)」で申し立てができることになりますので、「生活保護受給者が自己破産をすることは費用の面で無理だ」という理屈は通らないことになります。
生活保護受給者が自己破産を回避するためには…?
以上で説明したように、生活保護受給者が借金を整理する場合は、自己破産の申し立てをするほかありません。
仮にどうしても自己破産をしたくないというのであれば、アルバイトでもなんでも構わないのでまず最初に仕事を見つけて毎月安定した収入を得られるようにし、生活保護の需給を取りやめても安定して余裕を持った生活ができるようになったうえで任意整理の手続きを始めるほかないでしょう。