任意整理は、弁護士や司法書士に依頼して債権者との間で債務の減額や利息のカット、分割弁済の協議を行ってもらう債務整理手続きの一種です。
自己破産や個人再生、特定調停など他の債務整理手続きと異なり、法律で定められた手続きではないことから、債権者との間で「任意」で自由な解決方法が選択できる点が大きな特徴といえます。
自己破産や個人再生、特定調停は法律で裁判所に申立することが義務付けられますが、任意整理は単に債権者との間で行われる示談交渉の場に過ぎませんので、一部の債権者だけを対象として、または一部の債権者を手続きから除外して処理することも可能です。
また、任意整理では債権者が交渉に応じさえすれば良いため、債権者の有する債権の種類にかかわりなく借金の処理ができる点も大きな特徴といえるでしょう。
ところで、このように任意整理が債権者との合意によって形成する「任意」の交渉の場という特徴を強調すれば、債権者が合意しさえすればどのような負債であっても任意整理で処理できるのかという疑問が生じてくるのは避けられません。
では、例えば国民年金や国民健康保険(国保)、あるいは税金の滞納分などについても任意整理で分割弁済の協議を行うことができるのでしょうか?
債権者との「任意」の交渉が任意整理であるならば、国民年金や国保、税金であっても任意整理できて良いようにも思えるため問題となります。
年金・国保・税金等の任意整理も理論的には可能だが…
結論からいうと、年金や国保、税金の滞納分であっても、その交渉の相手先となる国や地方自治体などが協議に応じるのであれば任意整理で分割払いの交渉をすることも可能です。
なぜなら、前述したように任意整理は法律で手続きが規定された法定の手続きではありませんから、交渉相手となる国や地方公共団体が任意整理の交渉に応じるのであればことさらにそれを否定する必要性はないからです。
もっとも、これはあくまでも「理論的にはできる」というだけの話であって、次の項で説明するように、現実的には年金や国民健康保険、税金の滞納分について任意整理の交渉を行うメリットはまったくないといえます。
任意整理しなくても役所の方で分割払いに応じてもらえる
前述したように、年金や国民健康保険、税金などの滞納分についても任意整理で処理することは不可能ではありません。
しかし、年金や国民健康保険、税金などを滞納している場合、役所から請求書や督促状が届くことになりますが、役所に相談に行って事情を説明すれば特段の事情(例えば払える資産があるのにそれを隠して支払わない場合など)がない限り、分割弁済や納付の免除などに応じてもらえるのが原則です。
また、仮に任意整理で処理が可能であるとしても、弁護士や司法書士に依頼して役所と交渉してもらうには弁護士や司法書士に支払う費用(報酬)が必要になってきますから、その弁護士や司法書士に支払う費用(報酬)を考えれば、任意整理せずに自分で役所に出向いて相談する方がよっぽどマシです。
ですから、年金や国民健康保険、税金などの滞納分は任意整理など考えず、自分で役所に相談に行って分割での納付などをしてもらった方が良いのです。
なお、年金や国民健康保険、税金などの滞納分がある場合に役所に相談した場合には以下のような対応が受けられるのが一般的です。
(1)国民年金の滞納分
国民年金の滞納分については、市役所や区役所の年金係で相談を受け付けていますので、滞納分がある場合にはまず役所の担当部署に相談に行ってください。
滞納分については原則2年前までの分については「後納」で収めることができますが、平成27年10月から平成30年9月30日までは、過去5年前までの滞納分についても納付することができます。
なお、すでに滞納が発生している納付分の「減額」には応じてもらえませんが、一定の所得に達していない場合には、その後の納付額の一定額が減額される「減額」の制度や、年金の納付が免除される「免除」の制度などもありますので、所得が少なくて納付が困難な場合はこれらの減免制度を利用することも検討すべきでしょう。
(2)国民健康保険の滞納分
国民健康保険の滞納分についても市役所の健康保険課等の部署で相談を受け付けてもらえます。
国保の滞納分がある場合には、役所の方で滞納分を分割払いにした納付計画を策定してもらえますので、自分の収入や家計の支出状況などを考慮して毎月支払いができる金額を申告し、滞納した国保の納付額を数か月から十数カ月程度に分割して収めるようにすればよいと思います。
なお、国民健康保険は加入した場合には必ず納めなければなりませんので滞納分の減額等には応じてもらえません。
滞納分については長期の分割にしても必ず納めなければなりませんので、早めに役所に相談する方が無難でしょう。
(3)税金の滞納分
税金の滞納分については、その税金が固定資産税の場合には市役所や区役所等の固定資産税課で、所得税などの場合には役所等のそれぞれの担当部署で相談に応じてもらえます。
通常は滞納分を数か月から十数カ月の分割納付にしてもらうことができますので、滞納している場合には早めに相談に行くべきでしょう。
なお、税金についても減額等の措置はなされていませんので滞納している分がある場合には必ず納める必要がありますので、滞納が生じた時点で早めに相談に行くべきでしょう。
最後に
以上のように、年金や国民健康保険、税金などの滞納分については役所の方で柔軟に分割納付に応じているのが実情です。
ですから、年金や国民健康保険、税金などに滞納が生じた場合には、払えないからとほったらかしにしたりせずに、早めに役所等に相談に行くことが重要と心得てください。