債務整理の手続きには、自己破産・個人再生・特定調停・任意整理の4種類がありますが、この中でも特に多くの多重債務者に利用されているのが任意整理の手続きです。
任意整理の手続きは、弁護士や司法書士に依頼して債権者との間で債務の減額や利息のカット、分割弁済の和解を取り付ける借金の処理方法ですが、自己破産など他の債務整理手続きと異なり裁判所への申し立てが必要ないことから、簡易迅速で柔軟な解決方法が望める点が大きな特徴となっています。
ところで、借金の返済が滞って債務整理を考えている多重債務者は、債務整理を検討している時点で借金の支払いを延滞し、弁護士や司法書士に相談する段階では既に多額の遅延損害金も請求されている場合が多いのではないかと思われます。
では、この遅延損害金は任意整理でどのように扱われるのでしょうか?
利息などと同様に、任意整理の交渉の際に遅延損害金のカットも債権者側で認めてもらえるものなのでしょうか?
遅延損害金とは?
任意整理の手続きで遅延損害金がどのように扱われるのかという点を考える前提として、そもそも遅延損害金が何なのかがわからない人もいるかもしれませんので、あらかじめ説明しておかなければなりません。
遅延損害金とは、借金の返済を延滞した場合に、その借金全体に発生する遅延利息(損害賠償金)のことを言います。
この点、遅延損害金の利率は利息制限法の第4条1項に規定があり、その上限は約定利率(年15%~20%)の1.46倍とされていますから(利息制限法第4条1項)、”お金の貸し借り”という金銭消費貸借契約における遅延損害金の上限は、年率29.2%まで認められることになります。
【利息制限法第4条1項】
金銭を目的とする消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が第一条に規定する率の一・四六倍を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
【利息制限法第1条】
金銭を目的とする消費貸借における利息の契約は、その利息が次の各号に掲げる場合に応じ当該各号に定める利率により計算した金額を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
第1号 元本の額が十万円未満の場合 年二割
第2号 元本の額が十万円以上百万円未満の場合 年一割八分
第3号 元本の額が百万円以上の場合 年一割五分
もっとも、貸金業者やクレジット会社など営利を目的としてお金を貸している業者から借りる場合には、遅延損害金の上限は20%までとされていますので(利息制限法第7条1項)、一般的な消費者金融などの貸金業者やクレジット会社から借りている借金の返済を延滞した場合に発生する遅延損害金の上限も、年率20%が上限利率ということになります。
【利息制限法第7条1項】
第四条第一項の規定にかかわらず、営業的金銭消費貸借上の債務の不履行による賠償額の予定は、その賠償額の元本に対する割合が年二割を超えるときは、その超過部分について、無効とする。
このように、消費者金融などの貸金業者やクレジット会社などからお金を借りた場合には、まずその「借金の元本」と、その「借金元本」に対して発生する「利息」を払わなければなりませんが、その「借金元本」と「利息」の支払いが遅延(延滞)した場合には、その「借金元本」と「利息」の他に、その上限を年率20%とする「遅延損害金」も支払わなければならないことになります。
遅延損害金は、延滞した弁済額ではなく借金全体に対して発生する
なお、この「遅延損害金」で気を付けなければならないのは、返済を延滞した場合に支払わなければならない「遅延損害金」は、「その毎月の弁済額」に対して上限が20%の遅延損害金が発生するのではなく、「借金の全額」に対して上限20%の遅延損害金が発生するという点です。
たとえば、借金をリボ払いで返済することにしている場合には、その返済は借入した金額の一部を指定された期日までに支払うことが求められますが、この「〇月(○日)までに〇円を返済してくださいね」という貸金業者側の指示に従って毎月返済を行っている限り借金全額の請求がなされることはありません。
これを契約上は「期限の利益」と言いますが、仮に毎月の返済を延滞(遅延)して一定期間が経過した場合には、契約上この「期限の利益」を失ってしまうことになりますから、その「期限の利益」を失った時点で「借金の残額全額」が一括して請求されることになります。
そのため、借金の返済を遅延(延滞)した場合に発生する「遅延損害金」もこの「借金の残金全額」に対して発生することになりますから、「遅延損害金」は返済が遅れた「毎月の返済額」に対してではなく、「借金の残金全額」を基礎として計算されることになるのです。
このように、「遅延損害金」は返済が遅れた時点で存在する「借金残金の全額」に対して発生することになりますから、おのずとその金額も大きくなってしまうのです。
任意整理では遅延損害金もカットされるのが一般的
前述したように、借金の支払いが遅延した場合には「期限の利益」を喪失してしまうことになり、その結果として「借金の残金全額」に対して「遅延損害金」が発生することになりますから、契約上で考えると債務者は「借金元本」とそれまでに発生した「利息」、および借金の返済を遅延(延滞)し期限の利益を喪失した後に発生する借金全体に対する「遅延損害金」を合わせて一括で支払わなければならないことになります。
この点、任意整理で弁護士や司法書士が介入した場合に「遅延損害金」がどのように扱われるかが問題となりますが、通常は「利息」だけでなくこの「遅延損害金」も任意整理の交渉でカットしてもらうのが実務上の取り扱いとなります。
もちろん、任意整理は債権者側の合意があって初めて成立するものなので、遅延損害金のカットを認めない債権者の場合には難しいですが、実務的にはほとんどの貸金業者やクレジット会社が遅延損害金をカットする任意整理の分割弁済案に合意してくれています。
ですから、ごく少数の債権者を除いて、任意整理の交渉の際には「遅延損害金」もカットの対象にされていますので、任意整理で分割和解が整えばそれまでに発生した遅延損害金の支払からも逃れられると考えて差し支えないものと思います。
ただし、長期の延滞で遅延損害金が膨れ上がってしまっている場合は別
以上のように、任意整理の場合にはそれまでに発生した遅延損害金もカットしたうえで分割弁済の和解が合意されるのが一般的ですので、任意整理の際には遅延損害金の支払はそれほど心配することはないといえます。
ただし、遅延(延滞)した期間が長期間に渡り、遅延損害金の金額が多額にのぼるような場合には、債権者の側としても遅延損害金のカットに素直には応じられない場合も多いので注意が必要です。
3カ月から半年程度の遅延(延滞)したあとに弁護士や司法書士が介入するのはよくあることなので債権者も何も問題にしませんが、延滞期間が1年、2年と長期間になっているケースのように債務者が債権者からの督促を無視して逃げ回っていたケースなどでは、債権者の側としてもその期間に債務者の住所の特定や督促状の送付など多大な労力と費用を費やしていることになりますので遅延損害金のカットに簡単には合意してくれない場合が多いように思います。
ですから、借金の返済を遅延(延滞)してしまったときは、速やかに弁護士や司法書士に相談し、任意整理その他の解決方法のアドバイスを受けて適切な処置をとることが重要といえるでしょう。