任意整理を弁護士や司法書士に依頼するメリットとデメリット

任意整理は債権者との間で利息のカットや債務額の減額、分割弁済の計画を取り結ぶ示談交渉を行うことをいい、債務整理の中でも特に多く利用されている手続です。

自己破産や個人再生、特定調停といった他の債務整理手続きと異なり、裁判所に申し立てをしなくてよいことから、費用的に安価で迅速、かつ、柔軟な解決が実現できるところに大きな特徴があります。

ところで、この任意整理の手続きは法律の専門家である弁護士か司法書士に依頼して代理人になってもらい本人の代わりに債権者と交渉してもらうのが一般的ですが、あえて弁護士や司法書士に依頼せず、債務者本人が自分で債権者に連絡し任意整理の交渉を行うケースもあるようです。

もちろん、任意整理は弁護士や司法書士に依頼することが法律で義務付けられているわけではありませんので、このように弁護士や司法書士に依頼せず自分自身で債権者に連絡をし、利息のカットや債務額の減額、分割弁済の交渉を行うことも可能です。

しかし、弁護士や司法書士に依頼せずに任意整理をしてしまうことによって発生するデメリットを考えれば、安易な考えで自分自身で債権者と交渉することはとても危険なことがわかります。

では、任意整理を弁護士や司法書士に依頼せず、債務者自ら債権者と交渉した場合には、具体的にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか?

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任意整理を弁護士・司法書士に依頼しないことで得られるメリット

任意整理を弁護士や司法書士に依頼しない場合のメリットは、なんといっても弁護士や司法書士に支払う報酬(手数料)の支払いが必要ない点です。

弁護士や司法書士の任意整理報酬は個々の事務所によって異なりますが、一般的には債権者1社あたり2~3万円から5万円程度の報酬設定になっているところが多いようです。

これが高いか安いかは何とも言えませんが、債権者が5社あったとすれば10万円から20万円程度の費用が発生することになるのですから、一般の債務者からしてみるとそれなりの経済的な負担になるわけです。

しかし、弁護士や司法書士に依頼せず自分自身で債権者と任意整理の交渉を行う場合は、この弁護士・司法書士報酬がまったく必要なくなるわけですから、その経済的な利益は相当なものになります。

その浮いた分を返済に回せると考えれば10万円から20万円の債務を減少させることになりますから、債務者の側にしてみれば自分自身で交渉する経済的メリットはとても大きいといえるでしょう。

任意整理を弁護士・司法書士に依頼しないことで生じるデメリット

任意整理を弁護士や司法書士に依頼しないことで得られるメリットは前述したように弁護士や司法書士に対する報酬を支払わなくてよくなる点ぐらいしかありませんが、弁護士や司法書士に依頼しないことで生じてしまうデメリットについては以下のようにいくつかの点が考えられます。

(1)正確な債務額が算出できない可能性

任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合には、依頼を受けた弁護士や司法書士が債権者から取引履歴を取り寄せて、利息の再計算を行うのが通常です。

これは、貸金業者やクレジット会社では過去に利息制限法で定められた利率を超える利率で利息の計算をしていた時期があることから、過去にさかのぼって利息の再計算をすることで債務額の圧縮が図れることがあるためです。

この点、利息の再計算ソフトはネット上でも無料で公開されていたりしますから(※たとえばこちらのサイトなど→名古屋消費者信用問題研究会)仮に任意整理を弁護士や司法書士に依頼しなかったとしても利息の再計算をすること自体は可能です。

そのため、利息の再計算は一見すると誰でも簡単にできるように思われてしまいますが、実際は必ずしもそうではありません。

もちろん、取引期間がごく短期間で契約も1本だけのような場合には無料の計算ソフトなどを使って計算することも難しくはないでしょう。

しかし、同一の債権者で複数の契約が並行して結ばれているケースや、途中完済があった後しばらくして借り入れを再開しているケースなどでは、それら複数の契約(取引)を一個の取引として計算するか、それともそれぞれ別個の取引として計算するかなどで算出される債務額に大きな違いが生じてしまうこともありえますから、弁護士や司法書士といった専門家でない限り正確な債務額を算出することでできない可能性も否定できません。

このように、弁護士や司法書士に依頼しない場合であっても利息の再計算をすること自体は不可能ではありませんが、弁護士や司法書士に依頼しないことによって正確な債務額を算出することができない結果、本来返済しなければならない債務額よりも高額な債務の返済を迫られるリスクが生じることになります。

(2)債務額の確定の際に経過利息を付けられてしまう可能性

また、弁護士や司法書士に任意整理を依頼しない場合には、債務額を確定する際にそれまで発生した「経過利息」を付加させられてしまう危険性もあることに注意が必要です。

「経過利息」とは、任意整理の手続きで利息の再計算を行い分割弁済の交渉が合意に至るまでに発生する残存債務額に対する利息のことをいいます。

任意整理の手続き中は債務の弁済を一時的に猶予してもらうことができますが、この期間は貸金の契約(金銭消費貸借契約)においては単に返済を「延滞」しているにすぎませんから、その期間も当然利息は発生していますし、債権者の側も当然その利息を請求する契約上の権利を有しています。

ですから、債権者の側からすればたとえ任意整理の手続きがなされる場合であっても債務者に対して「経過利息」を請求したいというのが本音なのですが、弁護士や司法書士が任意整理の手続きに介入する場合には「経過利息」を付けないで債務額の元本を残債務額として確定するのが慣例化されていますから、ほとんどの債権者は債務者が弁護士や司法書士に任意整理を依頼した場合には「経過利息」を付けるようなことはしません。

▶ 任意整理すると経過利息や将来利息はどうなる?

しかし、債務者が任意整理の手続きを弁護士や司法書士に依頼せずに個人で交渉に入ってきた場合には、債権者の方としても強気に交渉に出てきますから「経過利息」を付けないかぎり任意整理の交渉に応じないなどと主張され交渉がうまくいかなくなる可能性も生じてしまうでしょう。

このように、任意整理の手続きを弁護士や司法書士に依頼しない場合には、債権者から「経過利息」を付けることを強く求められ、任意整理の交渉が不利に運ばれる可能性があることにも留意しておくべきでしょう。

(3)分割弁済で将来利息を付けられてしまう可能性

さらに、任意整理の手続きを弁護士や司法書士に依頼しないで自分で処理しようとする場合には、債権者との間で残債務額を分割弁済で支払う和解を取り結ぶ際に、残りの債務の支払いについても将来利息が付けられてしまう危険性があることにも注意が必要です。

「将来利息」とは、任意整理で債権者との間で合意する残債務額の分割弁済計画において、任意整理後に債権者に支払う弁済金についても利息を付して支払うこと合意する場合に付される利息のことを言います。

前述した「経過利息」と同じように、任意整理の手続きは単に契約上返済しなければ弁済金の支払いを延滞しているだけに過ぎませんから、任意整理後の分割払いの際にも債権者側は利息(将来利息)を請求できるのが原則ですが、そのように原則的な考えだけで任意整理の手続きをしてしまうと多重債務に陥って返済に窮している債務者の経済的な再生を阻害してしまう結果となり不都合ですから、弁護士や司法書士が任意整理に介入する場合には、この「将来利息」を付けないで任意整理の分割弁済が合意されるのが一般的な実務の取り扱いとされています。

▶ 任意整理すると経過利息や将来利息はどうなる?

しかし、債務者が任意整理の手続きに弁護士や司法書士を代理人としない場合には話が異なります。

前述した「経過利息」の場合と同様に、債権者側としては契約上「将来利息」を請求する権利を有していますから、弁護士や司法書士が介入しないのであれば強気に交渉し「将来利息」の支払に固執する可能性もあるでしょう。

仮に債権者から「将来利息」を支払うよう求められた場合、弁護士や司法書士が介入していれば「将来利息に固執するのであれば自己破産するしかありませんね」と開き直って交渉することもできますが、弁護士や司法書士が介入していない場合には債権者から「自己破産するならしてもいいけど弁護士とかに依頼しないと自己破産なんてできないでしょ?弁護士に高い報酬を払って自己破産するぐらいなら将来利息をつけて任意整理で和解した方がいいんじゃないの?」と返されてしまえば答えに窮してしまうでしょう。

このように、任意整理を弁護士や司法書士に依頼しない場合には「将来利息」を付けるよう債権者に強く求められることもありますので注意が必要です。

債権者によっては弁護士や司法書士が介入しない場合には任意整理の交渉に応じないところもある

以上のように、任意整理を弁護士や司法書士に依頼しない場合には一定のデメリットがあることは認識しておくべきでしょう。

もちろん、任意整理は法律で弁護士や司法書士に依頼することが義務付けられているわけではありませんから、弁護士や司法書士に依頼しないで自分で交渉することも否定はしませんが、このようなリスクがあることを知らずに交渉に入ってしまうと思わぬ不利益を受けてかえって損をしてしまうこともありますので十分注意することが必要です。

なお、債権者によっては、そもそも弁護士や司法書士が介入していない場合には任意整理の交渉自体に応じないところもあるようです。

弁護士や司法書士が関与していない任意整理では、債務者本人が中途半端な知識で交渉しようとするため債権者の方としても不都合な面がありますし、仮に債務者が中途半端な理解のまま任意整理の和解をしてしまった場合には後になって債務者が不服を感じ裁判などで争いになるケースがありますから、債権者の方としても弁護士や司法書士が関与した方が安心して任意整理の交渉に臨むことができます。

ですから、そのように考える債権者では弁護士や司法書士に依頼しないで自分で任意整理の交渉をしようとしても弁護士や司法書士に依頼しない限り交渉に応じてくれない場合もありますので注意が必要です。