自己破産されたら債権者は泣き寝入りするしかないのか?

お金を貸している家族や友人、会社の同僚などが自己破産の申し立てを行った場合、お金を貸している側の人はどのように感じるでしょうか?

自己破産の申し立てを行い裁判所から免責が出されると、それまでに発生した負債はすべて返済義務が免除されることになります。

そうすると当然、その自己破産する家族や友人、会社の同僚などに貸したお金は返してもらえなくなりますから、「ふざけるな!」と怒鳴りつけたくなるだけでなく、場合によっては2,3発ぶん殴ってやろうかというぐらいの怒りがこみあげてくるのが実情でしょう。

しかしもちろん、相手をぶん殴ってしまってはこちらが暴行罪や傷害罪で逮捕されてしまいますので普通の人はグッと耐え忍ぶわけですが、どうしても釈然としないものが残ってしまうのが人間というものです。

では、このようにお金を貸している相手が自己破産してしまった場合、お金を貸している債権者の側としては「泣き寝入り」するしかないのでしょうか?

その相手が自己破産する前に貸したお金はどうやっても回収することはできないものなのでしょうか?

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資産があれば配当を受けられるので「泣き寝入り」というのは適当ではない

債務者が自己破産すると債権者は「泣き寝入り」するしかないとよく言われますが、この言葉は正しくはありません。

なぜなら、自己破産の手続きにおいては債務者に一定の資産があれば破産管財人による配当の手続きが行われますので、その配当がなされる範囲では貸付金の回収は可能だからです。

自己破産の手続きでは現金については99万円まで、その他の資産については基本的に20万円までが自由財産として保有することが認められていますので、その自由財産の範囲に収まる資産しか債務者が保有していない場合には破産管財人による配当は基本的に行われませんが、その基準を上回る資産が残されている場合には、その資産は破産管財人によって回収されて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則です。

そうであれば、債務者の資産状況によっては免責の対象とされて回収が不能となる債権の一部の回収が可能な場合もあるということができるわけですから、必ずしも「泣き寝入り」しなければならない、ということにはならないといえます。

資産がなくても免責に対して不服申し立てをすることはできるので「泣き寝入り」というのは適当ではない

また、債務者の資産の有無にかかわらず、債務者が裁判所から免責(借金の返済義務が免除されること)の決定を受けた場合には、債権者はその免責に対する不服申し立て(即時抗告)を行うことが認められていますので、その点を考えても「泣き寝入り」というのは適当とは言えません。

【破産法第252条5項】
免責許可の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができる。

もちろん、免責の許可決定に対して債権者が即時抗告を申し立てたとしても、免責が覆されたり配当のやり直しがなされることは極めてまれなので(隠匿されていた隠し財産などが見つかった場合は別ですが…)、即時抗告ができるからといって債権者に何か経済的な利益が発生するわけではないのが現実です。

しかし、そうはいっても債務者の免責に対して一定の意見は述べることができるわけですし、この即時抗告以外にも事前に開催される債権者集会で意見を述べることもできるわけですから、全く何も意見することができないような意味合いの「泣き寝入り」という言葉は適当とは言えないでしょう。

破産者の債務自体が消滅するわけではなく「自然債務」としては残り続けるので「泣き寝入り」というわけではない

最後に一つ付け加えると、自己破産で免責された債務であっても、その債務が「消滅」してしまうわけではなく、理論的には「自然債務」として永遠に(正確には債務者が消滅時効を援用するまで)残り続けることを考えた場合にも、自己破産の債権者は「泣き寝入り」をするだけではないということがわかります。

なぜなら、自己破産によって債務者が免責を受けた場合であっても、それは単に債権者から債務者に対して「お金を返せ」と請求することが認められないだけであって、債務者の方から「任意に」自己破産で免責を受けた借金を弁済することは法的に何ら差し支えないからです。

自己破産すると借金が「チャラになる」と一般に言われていますが理論的にはそれは間違いで、破産法253条1項に規定されているように、免責によって免除されるのは、破産債権として申し出た借金を「返済しなければならない」という「責任」にすぎません。

【破産法253条1項】
免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。(但書省略)。

つまり、債務者が免責を受けたとしても借金自体が消滅するわけではなく、債権者が裁判や差し押さえなどの法的な手段を使って債務者に「お金を返せ!」と請求することができなくなるというだけにすぎないわけです。

このような「債権者から法的な手続きを使って請求されることのなくなった債務」のことが「自然債務」と呼ばれるのですが、この「自然債務」は単に「債権者側から法的な手段を用いて請求することができない」だけであって「債務」としては理論上存続しています。

そうすると、自己破産の免責が出された後に免責を受けた債務者が自らの意思でその「自然債務」を返済することは法律上何も問題ないことになりますから、例えばその債務者が数年先か数十年先に大金持ちになった場合において「あの債権者には自己破産のときに大きな損失を与えてしまったから、その償いをさせてもらおう」と考えたような場合には、自己破産の免責で弁済が受けられなくなっていた貸付金を「任意に」支払ってくれることも期待できるかもしれません。

もちろん、そのようなことが現実に起きる確率は「ほぼ0%」でしょうが、自己破産で免責された債務が「自然債務」として理論上存続し続けることは事実なのですから、その可能性が「0%」ではない以上、「泣き寝入り」という言葉は適当ではないといえます。

※ちなみに、どうしてもお金を返してもらいたい場合はこういった方法もあります→自己破産した友人からお金を返してもらうたった一つの方法

最後に

以上のように、やや「屁理屈」的な説明になってしまいましたが、法律の条文や免責の理論的な解釈に基づけば、自己破産における債権者が「泣き寝入り」するしかないというのは少し違うというのが私の認識です。

もちろん、返済できない債務を抱えて自己破産することになった債務者に責められるべき点はあるといえますが、債権者がいくら「泣き寝入りは嫌だ」嘆いていても何も生み出せるものはありませんので、ある程度割り切って破産手続きに付き合うしかないのではないかと思います。