公務員が自己破産すると辞職や免職、休職を命じられるのか?

公務員の人が自己破産する場合に気になるのが、自己破産したら退職しなければならなくなるのではないか、という点です。

自己破産は支払わなければならない負債を全て免除してもらう手続きであって、極端にいうと「借金を合法的に踏み倒す」ことになるわけですから、そのような「不届き者」が「公務」という「公(おおやけ)」の仕事に就くべきではないと考える人も少なからず存在します。

そのため、自己破産するような公務員は仕事を辞めるべきだという価値観を持つ人が公務員になってしまうと、いざ自己破産が避けられなくなった場合に、仕事を失うのではないかという不安に苛まれてしまうのです。

では、実際問題として、公務員が自己破産すると退職を促されたり懲戒免職させられてしまうことがあるのでしょうか?

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公務員が自己破産すると退職しなければならないか?

前述したように、公務員が自己破産すると退職しなければならないかという点に疑問が生じることも否定できませんが、法律上、公務員が自己破産した場合に退職を強制されることはありません。

なぜなら、公務員について規定した法律(国家公務員法・地方公務員法)では公務員の欠格事由を規定していますが、その条項で「自己破産したこと」は欠格事由として規定されていないからです(国家公務員法第38条、地方公務員法第16条)。

【国家公務員法第38条】

次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則の定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。
1号 成年被後見人又は被保佐人
2号 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又は執行を受けることがなくなるまでの者
3号 懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者
4号 人事院の人事官又は事務総長の職にあって、第109条から第102条までに規定する罪を犯し刑に処せられた者
5号 日本国憲法 施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

【地方公務員法第16条】

次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
1号 成年被後見人又は被保佐人
2号 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
3号 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者
4号 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあって、第60条から第63条までに規定する罪を犯し刑に処せられた者
5号 日本国憲法 施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

このように、法律で「自己破産したこと」や「破産者となったこと」が欠格事由として規定されていない以上、自己破産したことを理由として勤務している官公署から退職を促されたり強要されたりすることはありませんから、自己破産したからといって公務員の仕事を辞めなければならないわけではないということになります。

公務員が自己破産すると懲戒免職の対象となるか?

前述したように、自己破産したことは公務員法の欠格事由とされていませんから、自己破産したことをもって退職を強要されたりすることはないものと考えられます。

では、欠格事由に該当しないにしても、自己破産したことをもって懲戒処分の対象となり、懲戒免職させられたりすることはないのでしょうか?

前述したように、自己破産は極端にいうと「借金を踏み倒す」ことになるわけですから、それが懲戒事由の対象にならないかが問題となります。

しかし、この点についても心配はないようです。

なぜなら、公務員の懲戒事由を規定した法律(国家公務員法・地方公務員法)では公務員の懲戒事由を規定していますが、その条項で「自己破産したこと」は懲戒事由として列挙されていないからです(国家公務員法第78条、地方公務員法第28条1項)。

【国家公務員法第78条】

職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
1号 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
2号 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
3号 その他その官職に必要な適格性を欠く場合
4号 官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

【地方公務員法第28条1項】

職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
1号 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
2号 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
3号 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
4号 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

したがって、法律に規定がない以上、自己破産したことのみをもって懲戒処分がなされることはありませんから、自己破産した事のみを理由として懲戒免職させられることはないと考えられます。

ただし、破産者であることが欠格事由に該当する資格が必要となる公務に就いている場合は結論が異なる

以上のように、公務員の人が自己破産したとしても、それを理由に退職を促されたり懲戒免職されたりするなどして職を失うことは原則として考えられません。

もっとも、これはあくまでも一般的な公務員の職種の場合であって、特殊な資格を有する職種に就いている場合には話が異なります。

なぜなら、一定の資格では「破産者になったこと」が欠格事由とされている場合がありますので、そのような資格を必要とする公務に就いている場合には、「公務員」としての欠格事由には該当しなくても「その資格」について欠格事由に該当することになってしまい、公務そのものができなくなってしまうことになるからです。

たとえば、弁護士や公認会計士、司法書士などの資格では「破産者であって復権を得ない者」がそれぞれの法律で欠格事由として規定されていますから(弁護士法第7条5号、公認会計士法第4条4号、司法書士法第5条3号)、そのような資格が公務に必要となる職種に従事する公務員が自己破産した場合には、事実上その公務に従事することができなくなってしまうでしょう。

そうすると、前述した「国家公務員法第78条の3号」や「地方公務員法第28条1項の3号」に規定されているように「必要な適格性を欠く」と判断されて免職や休職を命じられる可能性はあるといえますので、一定の資格が必須となる公務に就いている場合には、自己破産したことをもって公務員の仕事を辞めなければならないケースもあるということになります。

早めに弁護士や司法書士に相談することが必要

以上のように、公務員の人が自己破産したとしても、そのことだけを理由に退職を促されたり懲戒免職されたりするなどして職を失うことは原則として考えられませんが、一定の専門的な資格を必要とする職種では、自己破産したことによってその資格に制限が生じてしまう結果、公務ができなくなることによって免職や休職を命じられる可能性もあるということが言えます。

もっとも、仮にそのような資格を必要とする公務に従事していたとしても、「破産者であって復権を得ない者」という欠格事由に該当するのは、自己破産の手続きは裁判所から「開始決定」が出されてから「免責許可決定」が出されてそれが「確定」するまでの期間に過ぎず、「同時廃止」で処理される場合は3カ月から半年程度、「管財事件」として処理される場合であっても半年から1年程度のわずかな期間に過ぎません。

免責許可決定が確定した後は、「復権」して「破産者」ではなくなり、資格の欠格事由は消えてしまうのですから、その資格が使用できないことによって公務に支障が出る期間も数か月程度でそれほど長期間になるわけではないでしょう。

ですから、「破産したこと」が欠格事由に該当ような資格を必要とする公務に就いている場合であっても必ずしも免職や休職、辞職を命じられるというわけでもないでしょうから、早めに弁護士や司法書士に相談し、免職や休職を命じられる可能性はあるのか、あるとすればどのような対処をとればよいのかといった点について十分に検討する必要があるのではないかと思います。