自己破産は借金の返済義務を免除(免責)してもらうのと同時に債務者の資産と負債を清算する手続きでもあります。
そのため、債務者に一定の資産がある場合には、自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられることになるのは避けられないことになるでしょう。
ところで、この財産が取り上げられることに関連して気になるのが、自己破産した場合に家族名義の財産も取り上げられてしまうのか、といった点です。
自己破産する債務者が一人暮らしなら構わないかもしれませんが、同居している家族がいたり、独立して暮らしている子供や実家の両親などがいる場合には、その家族の財産までも取り上げられてしまわないか気になる人は多いのではないかと思います。
では、実際の自己破産の手続きでは、自己破産の申し立てを行う債務者の家族の財産についても裁判所に取り上げられたりするものなのでしょうか?
家族の資産は取り上げられないのが原則
結論から言うと、自己破産した場合に家族の資産が裁判所に取り上げられてしまうようなことは基本的にありえません。
なぜなら、自己破産はあくまでも申し立てを行う債務者「個人」の負債と資産を清算する手続きであって、その申し立てを行う債務者とは全く別の個人の資産は、たとえそれが債務者の家族の資産であっても全く別の資産として取り扱われるからです。
ですから、例えば「夫」が自己破産する場合に「妻」や「子」の名義となっている資産(たとえば妻名義の生命保険の解約返戻金や子名義の預貯金など)が取り上げられたり、「夫の両親」の名義になっている実家の家や自動車などが競売に掛けられたりすることは、通常はありえないということが言えるでしょう。
例外的に取り上げられる場合
前述したように、自己破産の手続きは申し立てを行った債務者個人の資産と負債を清算する手続きとなるためその債務者の家族の資産が裁判所に取り上げられてしまうようなことはないのが原則ですが、次のような特別な事情がある場合には、ケースによっては債務者の家族の資産が裁判所に取り上げられてしまうこともありますので注意が必要です。
(1)便宜上、家族の名義にしているだけの場合
本来は自己破産を申し立てる債務者自身の資産であるものの、便宜上、家族の名義を使用して資産を形成しているようなものは、自己破産の手続きで裁判所に取り上げられてしまうことがあります。
たとえば、自己破産を予定している「夫」の資金で購入した車があるものの普段利用するのがもっぱら「妻」であるため車検証の名義を「妻」にしている自動車であったり、「夫」が保険料を支払っている「子」を契約者とする生命保険の解約返戻金などが代表的な例として挙げられます。
このような資産は、前者の自動車の場合は「妻」の、後者の解約返戻金の場合は「子」の資産と外見上認識できますが、その資産形成のためにお金を支出したのが自己破産をする「夫」であることを考えると、「夫が借りたお金」や「本来は夫の債権者への返済に充てるべきであったお金」が形を代えて資産として残されているということがいえます。
そのため、このような「形式的には家族の名義資産であっても実質的には自己破産の申立人の資産」であるような資産については、自己破産の手続きでは「自己破産の申立人固有の資産」と判断されますので、裁判所に取り上げられて債権者への配当原資に充てられるということになるのです。
(2)資産隠しのために家族名義にしている場合
資産隠しを目的として自分の資産を家族名義にしているようなケースでも、その家族名義の資産が裁判所に取り上げられてしまうことになるので注意が必要です。
たとえば、自己破産をしなければ返済が困難であることを認識した時期以降に、裁判所に取り上げられてしまうのを防ぐため、自分名義の自動車を家族の名義に書き換えたり、預貯金を家族の口座に振り替えたりする行為が代表的です。
このように資産隠しのために名義変更を行ったとしても、破産管財人が調査すればすぐに資産隠しの事実は確認できますから、形式的には家族の名義になっていたとしても実質的には自己破産を申し立てる本人の資産と判断され、裁判所に取り上げられてしまうことは避けられないといえます。
なお、このような資産隠しは、免責不許可事由となって免責(借金の返済義務が免除されること)を受けられなくなったり、詐欺破産罪として刑事罰の対象として処罰されることもありますので、絶対にやらないように注意してください。
(3)ローンが残っている場合
上記の(1)や(2)の場合とは少し異なりますが、家族名義の財産のうち、自己破産を申し立てる債務者がローンで購入した商品等がある場合で、そのローンの返済中に自己破産する場合には、その「ローン会社」から家族名義の財産を取り上げられてしまうことがあります。
たとえば、「夫」が「夫」のローンで「高級バッグ」を購入し、「妻」にプレゼントして渡した後のそのローンの返済中に「夫」が自己破産するような場合です。
このような場合、その高級バッグは「夫」から「妻」贈与されているため一見すると「妻」固有の資産のように見受けられますが、ローンで購入した商品についてはそのローンが完済されるまでローン会社の方に所有権が「留保」される契約になっているのが通常ですので、ローンが完済される前に返済を停止した場合は、その高級バッグの真の所有者である「ローン会社」がそのバッグを引き揚げて中古商品市場で売却し、その売却代金が「夫」のローンの残額に充当されることになります。
先ほどの(1)や(2)で紹介したものは「裁判所」に取り上げられてしまうことになりますが、このように「ローンが残っている物」がある場合については、裁判所ではなくローン会社の方に取り上げられることもありますので注意が必要でしょう。
最後に
このように、自己破産の手続きはその申し立てを行う「個人」の資産と負債を清算する手続きですので、家族名義の資産は基本的に自己破産の手続きで影響を受けることはありませんが、特定のケースではその家族名義の資産が裁判所に取り上げられたり、ローン会社に引き上げられたりする場合がありますので十分な注意が必要です。
(※もし仮に裁判所やローン会社に取り上げられてしまうと、家族に内緒にしていても資産を取り上げられることで自己破産がバレてしまうようなケースもありますのでその点も注意が必要です)
なお、ここでご紹介したケースは一例にすぎませんし、内容を分かりやすくするために論点を省略している部分もありますから、自己破産する際に家族名義の資産に影響が生じるか不安を感じている場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、適切なアドバイスを受けて家族への影響が最小限になるように十分な配慮をすることが必要といえます。