自己破産する人は「無責任」なのか?

過去に自己破産したことのある人に対して、もしくはこれから自己破産しようとしている人に対して「なんて無責任な奴なんだ!」と厳しく非難する人がいます。

これはおそらく、「借りたものは返さなければならない」という道徳観念が自分の根底にあって、その自分の道徳を真っ向から否定して「借りたお金を返さなくてもよい」ことを許容する自己破産の手続きに、心情的な嫌悪感を抱いてしまうからなのではないかと思います。

しかし、借金の返済が困難になって自己破産することは本当に「無責任」な行為で、自己破産する人は本当に「無責任な人」なのでしょうか?

私はそうは思いません。

なぜなら、自己破産は返済できないことによって債権者に生じる損失を最小限に抑えるために必要不可欠な手続きであって、むしろ自分が抱えてしまった負債を誠実に処理する極めて責任のある行為であるといえるからです。

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自己破産の手続きは債権者の損失を最小限に抑える「債権者のための行為」でもある

自己破産という手続きに対して「無責任」と言う人の多くは、借金を抱えた債務者が返済しなければならないはずの借金を返さない、いわば「逃げ得」の状態を認めるのが納得できないのだと思います。

しかし、実際自己破産の手続きは『自己破産は「逃げ得」が間違っている理由』のページでも詳しく解説しているとおり、「逃げ得」を認めるための手続きではありません。

自己破産の手続きは、債務者が抱えている負債とその所有している資産を「精算」する手続きでもあるのですから、それは債権者の利益にもつながるものであって、決して債務者の利益だけを目的としたものではないからです。

そもそも、自己破産の手続きにおいては、債務者が所有する資産は、自由財産として保有が認められる最小限の財産を除いてすべて裁判所に取り上げられて換価され、債権者への配当に充てられるのが原則です。

こうすることで債務者が保有している資産の散逸を防ぎ、債権者の間で公平に債務者の資産から配当を受けることができるのですから、自己破産の手続きがあることによって利益を受けることができる点は、債権者も同じなのです。

自己破産の手続きは、決して債務者のためだけにあるのではなく、債権者の利益のためにもあるといえるのですから、債務者が借金の返済義務を逃れる点だけをとって「無責任だ」と非難することは到底妥当な意見とは言えないのです。

債権者間の公平を図るためには破産手続きは不可欠

また、自己破産の手続きは債権者間の利害関係の調整という側面があることも忘れてはいけません。

先ほども述べたように、自己破産の手続きでは債務者が保有している資産は自由財産として特別に保有が認められる財産を除いてすべて裁判所に取り上げられて売却され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則です。

では、もし仮に自己破産の手続きが無かったとしたらどうなるでしょう?

自己破産の手続きがないとしたら、借金の返済を受けられない債権者が我先にと債務者を相手取って訴訟を提起し、早い者勝ちで債務者の資産を差し押さえてしまうことになり、訴訟や差し押さえを行う資力や労力に余裕のある債権者だけが利益を受けてしまうことになってしまわないでしょうか?。

そうなると、一部の債権者だけが損失を回避できる一方で、弱い立場の債権者だけが損失を被ることになってしまい、不都合な結果となってしまうでしょう。

しかし、破産という手続きがあれば、そういったいわば「早い者勝ち」で債務者の資産を取り合うような事態にはならず、すべての債権者が平等に債務者の資産から配当受けることができるわけですから、自己破産の手続きは債権者間の平等な利害関係の調整のためには必要不可欠な手段であるともいえるのです。

なお、この点は破産法の1条にも明確に規定されていますので、批判の余地はないのではないかと思います。

【破産法1条】

この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。

最後に

自己破産の手続きは、一見すると債務者が借金の返済義務から逃れるためのいわば「ずる賢い」手続きのように見えてしまいがちですが、その手続きの本質を考えると、債権者の利益にも資する債権者のための手続きともいえるのが実情なのですから、決して「無責任」な行為であるとは言えません。

むしろ、自己破産の手続きを行うことによって債権者が受ける損失を最小限にとどめるとともに、債務者の所有する資産から配当を行うことによって債権者の受けた損失を可能な限りで回復させることが可能となるのですから、債務者が自ら責任をもって自らが抱えてしまった負債を処理する「責任ある行為」ともいえるのです。

このように、自己破産の手続きは決して「無責任」な行為ではないのが現実なのですから、「無責任だ」などという批判を恐れて自己破産を躊躇するのではなく、返済が困難になった時点で速やかに弁護士や司法書士に相談し、粛々と手続きを進めていくことが何より重要といえます。