自己破産すると給料も取り上げられてしまうのか?

自己破産する場合に気になるのが、弁護士や司法書士に自己破産の手続きを依頼した後に受け取る給料も取り上げられてしまうのか、という点です。

自己破産の手続きを行う場合、その所有する財産は全て取り上げられて債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなっていますから、給料も「お金」という財産である以上、裁判所に取り上げられて債権者に分配されるのではないか、という疑問が生じてしまうからです。

では、実際の自己破産の手続きにおいて、会社から受け取る給料はどのように扱われるのでしょうか?

受け取る給料は全て裁判所に取り上げられてしまうものなのでしょうか?

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給料の4分の3に相当する部分は取り上げられないのが原則

自己破産の手続きで給料がどのような扱いを受けるのかという点については、破産法の第34条3項に規定されています(破産法第34条)。

【破産法第34条】

第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(省略)は、破産財団とする。
第2項(省略)
第3項 第1項の規定にかかわらず、次に掲げる財産は、破産財団に属しない。
第1号(省略)
第2号 差し押さえることができない財産(中略)。ただし、同法第132条第1項(中略)の規定により差押えが許されたもの及び破産手続開始後に差し押さえることができるようになったものは、この限りでない。
(以下、省略)

「破産財団」とは、自己破産の手続きにおいて債権者への配当に充てられる申立人の財産(※裁判所に取り上げられることになる資産)のことをいいますが、この規定で示されているとおり「差し押さえることができない財産」はその「破産財団」には含まれないことになっています。

そのため、勤務先の会社から受け取る給料が「差し押さえることができない財産」に該当するのであれば「破産財団」に含まれないことになり自己破産の手続きで給料が取り上げられることもないといえますから、給料がこの「差し押さえることができない財産」に含まれるか含まれないかという点が自己破産の手続きで取り上げられるのポイントとなります。

この点、どのような財産が「差し押さえることができない財産」に該当するかという点については、民事執行法第152条にその規定がありますので確認してみましょう。

民事執行法第152条1項では、「給料」についてはその受け取る金額の「4分の3」に相当する金額は「差し押さえてはならない」と規定されていますので、「給料の4分の3」は前述した破産法第34条3項2号の「差し押さえることができない財産」には含まれないということになります(民事執行法第152条)。

【民事執行法第152条1項】

次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。

一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

したがって、給料の4分の3に相当する部分は債権者への配当の対象となる「破産財団」には含まれないことになりますので、給料の4分の3は自己破産をしても絶対に取り上げられることはないといえます。

※たとえば、月給が40万円の人が自己破産する場合は、その4分の3は30万円となりますので、給料のうち30万円は取り上げられることはありませんが、残りの10万円は裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになるのが原則的な取り扱いとなります。

(※ただし、後述するようにこの4分の3に相当する金額が33万円を超える場合には、その超える部分は全て取り上げられることになります)

給料の4分の1の部分は取り上げられるか?

前述したように、会社から受け取る給料のうち「4分の3」に相当する部分はそもそも「差押えすることができない財産」として「破産財団」には含まれないことになっていますから、給料のうち「4分の3」に相当する部分は、自己破産の手続きにおいても裁判所に取り上げられてしまうことはないといえます。

では、残りの「4分の1」に相当する部分は裁判所に取り上げられてしまうのかというと、そうでもありません。

確かに法令上は「4分の3」が差し押さえ禁止財産となっていますので残りの「4分の1」は理論上、自己破産の手続きで破産財団として破産管財人が回収し債権者に配当するための原資とすることは可能です。

しかし、ほとんどの裁判所において「給料」については破産財団には組み込まず、自己破産の申立人に保有させることを認めるのが実務上の取り扱いとなっていますから、残りの「4分の1」についても裁判所に取り上げられることはないのが実情なのです。

以上のように、勤務先の会社から受け取る給料は差押えが禁止される「4分の3」に相当する部分のみならず残りの「4分の1」の部分についても、裁判所は債権者の配当に回すべき資産として取り扱わないのが通常ですので、自己破産の手続きにおいて取り上げられることはないといえます。

給料の「4分の3」の金額が33万円を超える場合はその超える部分が取り上げられることもある

以上のように、「給料」については差押えが禁止される「4分の3」に相当する部分のみならず残りの「4分の1」の部分についても、自己破産の手続きにおいて取り上げられることはないのが通常ですが、例外的に、給料の「4分の3」に相当する金額が月給で33万円を超える場合には、その超える部分が自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられる可能性があります。

なぜなら、前述した民事執行法第152条1項では給料の「4分の3に相当する部分」の差押えを禁止していますが、カッコ書きで「(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)」と例外を定めており、その「政令で定める額」は「月給」の場合で「33万円」と定められているからです(民事執行法施行令第2条1項)。

【民事執行法施行令第2条】

第1項 法第152条第1項各号に掲げる債権(中略)に係る同条第1項(中略)の政令で定める額は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める額とする。
一 支払期が毎月と定められている場合 33万円
二 支払期が毎半月と定められている場合 16万5千円
三 支払期が毎旬と定められている場合 11万円
四 支払期が月の整数倍の期間ごとに定められている場合 33万円に当該倍数を乗じて得た金額に相当する額
五 支払期が毎日と定められている場合 1万1千円
六 支払期がその他の期間をもって定められている場合 1万1千円に当該期間に係る日数を乗じて得た金額に相当する額

第2項 賞与及びその性質を有する給与に係る債権に係る法第152条第1項の政令で定める額は、33万円とする。

したがって、毎月の給料の4分の3にあたる金額が33万円を超える場合には、その超える部分が「破産財団」に該当することになり、債権者の配当に充てるべき資産と判断されることになるものと解されます。

※例えば、給料が毎月80万円の人が自己破産する場合は、その4分の3は60万円となりますので原則的な取り扱いで考えると80万円のうち20万円だけが裁判所に取り上げられると考えられますが、4分の3した金額が33万円を超えていますので、33万円を超える全額、つまり47万円が裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになります。

取り上げられるのはあくまでの「開始決定が出されるまで」に発生する給料に限られる

なお、誤解してならないのは、上記の要領で取り上げられる給料があったとしても、それはあくまでも裁判所から自己破産の「開始決定」が出されるまでに発生する給料に限られます(破産法第34条)。

【破産法第34条第3項】

第1項 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(省略)は、破産財団とする。

このように、破産法第34条では、「破産手続開始の時において有する」財産だけが「破産財団」になると規定していますので、「破産手続開始の後」に取得する財産は「破産財団」には含まれないことになるのです。

したがって、自己破産の申立書を裁判所に提出し、裁判所から「開始決定が出されるまで」に受け取った給料については上記の基準で裁判所に取り上げられることになりますが、「開始決定が出された後」に受け取る給料については、一切裁判所に取り上げられることはなく、その受け取った給料の全額を自由に使用してよいということになります。

給料が銀行の預金口座に振り込まれた後は「給料」ではなく「預金」として扱われる

以上のように、自己破産する人の給料については、自己破産の手続きにおいても裁判所に取り上げられないのが原則ですが、受け取る月給の4分の3に相当する金額が33万円を超える場合には、その超える部分が裁判所に取り上げられて債権者に配当されるケースもあるということになります。

もっとも、これはあくまでも給料を受け取る「前」の話ですので、給料を受領した「後」はまた別の基準で判断されることになります。

なぜなら、たとえば給料は通常、銀行振り込みで受け取ることが多いと思いますが、給料が銀行口座に振り込まれた時点でその「給料」は「預金」になるため、法律上の性質が「給料債権」から「預金債権」に変化することになるからです。

上記の「4分の3」や「33万円」といった基準はあくまでも「給料債権」の場合の話ですから、銀行の預金口座に振り込まれた時点で「預金債権」に変化した後は「預金債権」の基準で考えなければならないのです。

この点、預金債権については20万円を超える場合は裁判所が取り上げて債権者に配当することになっていますから、「給料」として受け取る月給の4分の3に相当する金額が33万円を超えない場合であっても、その給料が振り込まれた預金口座に20万円以上の残高が残っている場合には、その預金口座の預金額は全て裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるということになります。

(※なぜ20万円が基準になるかという点についてはこちらのページで詳しく説明しています。→なぜ「20万円」が基準になるのか?

最後に

以上のように、自己破産する人の給料については、自己破産の手続きにおいても裁判所に取り上げられないのが原則ですが、月給の4分の3に相当する金額が33万円を超える場合には、その超える部分が裁判所に取り上げられて債権者に配当されるケースもあるといえます。

また、仮に33万円を超えていなくても、銀行の預金口座に振り込まれ、その口座の残高が20万円を超えている場合には裁判所に取り上げられることもあるということになるでしょう。

もっとも、このような場合であっても、「自由財産の拡張申立」という手続きを取れば裁判所に取り上げられないで済む場合も多いのが実情ですので、給料を取り上げられたくない場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、給料を取り上げられることのないよう適切な対処が求められるといえるでしょう。