自己破産の申し立てをする場合、その保有する資産は自由財産として保有することが認められる範囲の資産を除いてすべて裁判所に取り上げられて換価され、その売却代金が債権者への配当に充てられるのが原則的な取り扱いとなります。
なぜなら、自己破産は借金(負債)の返済を免除する手続きである一方、破産者の資産と負債を清算する手続きでもありますから、債権者への弁済に充てられる資産がある場合には、裁判所が換価して債権者に配当する必要があるからです。
ところで、ここで疑問が生じるのが、国や自治体から支給される補助金などのお金も「資産」として裁判所に取り上げられてしまうのか、という点です。
たとえば、「子供手当」は子供のいる各家庭に支給されますが、自己破産する前に子供手当が支給された場合には、その支給された子供手当は「資産」として裁判所に取り上げられてしまうのでしょうか?
結論は「現金」で支給を受けたか「口座振込」で支給を受けたかで異なる
自己破産する前に支給を受けた「子供手当」が自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられるか否かは、その子供手当を「現金」で支給を受けたか、それとも「銀行口座への振込」で支給を受けたかによって異なります。
なぜなら、自己破産の手続きでは「現金」と「預金」は別個の性質を持つ資産として扱われるからです。
法律になじみのない人は「現金」と「預金」はどちらも同じと思うかもしれませんが、法律上は「現金」と「預金」はまったく別の性質を有するものとして扱われます。
すなわち、「現金」とは1円玉、5円玉、10円玉、50円玉、100円玉、1,000円札、2,000円札、5,000円札、10,000円札といった「貨幣そのもの」のことを指しますが、「預金」はその預金口座の名義人が銀行等に「預けているお金」であってその口座の名義人が使用するためにはいったん銀行から預金の払い戻しを受ける必要がありますので「預金債権」という「銀行に対する債権」の性質を有していることになります。
この点、自己破産の手続きにおいても「現金」と「預金」はまったく別の「資産」として扱われることになっていますから、「子供手当」を「現金」として支給を受けたか、「口座振り込み」として受けたかによってその取扱いが異なることになるのです。
子供手当を「現金」で受け取った場合
子供手当を「現金」で受け取った場合には、自己破産の開始決定が出される時点で保有する現金がいくらになるかによって扱いが異なることになります。
すなわち、自己破産の手続きでは「現金」は99万円までは自由財産として保有することを認められていますので、受け取った子供手当を含めた現金の合計金額が、自己破産の開始決定を受ける時点で99万円を超えている場合には、その超えた部分が裁判所に取り上げられることになります。
一方、子供手当を含めた現金が99万円を超えていない場合には、その支給を受けた子供手当が含まれる現金の全額が自己破産後も保有を認められるため、裁判所には1円も取り上げられないということになります。
子供手当を「銀行振込」で受け取った場合
子供手当を「銀行振り込み」で受け取った場合には、その子供手当が銀行の預金口座に振り込まれた時点で、その法律的な性質が「国に対する子供手当の請求権」から「銀行に対する預金債権」に変更されますから、その預金が自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられるかは、その「預金残高がいくらあるか」によって判断されることになります。
すなわち、自己破産の手続きでは「預金(預金債権)」については20万円までは自由財産としての保有が認められますが、20万円を超える残高がある場合には基本的に「債権者への配当に充てるべき資産」と判断され破産管財人が取り上げて債権者に配当する取り扱いにしている裁判所がほとんどですので、「子供手当」が振り込まれた時点で預金残高が20万円を超えているのであれば、裁判所(破産管財人)に取り上げられてしまうことになると考えておいた方が良いでしょう。
(※なぜ20万円が基準となるかについては→自己破産ではどんな場合に管財事件になるの?)
※自己破産の手続きでは「預金」については一つの銀行口座の残高ではなく、複数の預金口座を開設している場合にはその全ての口座の残高の合計金額で判断されることになります。
したがって、一つの預金口座の残高が20万円を越えていなくても、他の預金口座の残高と合計して20万円を超えている場合には、破産管財人に取り上げられるのが通常の取り扱いとなっていますので注意してください。
「銀行振り込み」で受け取る方が「損」をするのか?
以上のように、自己破産する前に「子供手当」を受け取っている場合には、その子供手当を「現金」で受け取っている場合には保有する現金の合計額が99万円を超えていれば、その子供手当を「銀行振り込み」で受け取っている場合には預金残高の合計額が20万円を超えていれば、裁判所(破産管財人)に取り上げられてしまうことになるのが原則的な取り扱いとなります。
このように考えると、「銀行振り込み」で受け取るよりも「現金」で受け取る方が自由財産として保有が認められる金額の上限が高くなるため、子供手当は現金で受け取る方が良いではないかと思うかもしれません。
しかし、常識的に考えて現在の一般社会では「現金」を常時保有している家庭はむしろ少数でほどんどの家庭では銀行の口座に預金して必要な都度引き出すのが通常ですので、実務上は「預金」が20万円を超えていても「現金」やその他の資産との合計が99万円を超えていない場合には、「預金」を取り上げず自己破産の申立人に保有を認めるケースが多くあるのが実情です(※ただしケースによって異なります)。
ですから、子供手当として支給されるお金を裁判所に取り上げられないようにするためにわざわざ「現金」で受け取る必要はないのではないかと思います。