自己破産をすると結婚できないって本当?

もはや都市伝説の域に達している部類の話に過ぎませんが、いまだに「自己破産をすると結婚できない」と思い込んでいる人も多くいるようです。

なぜこのような心配をしている人がいまだに多くいるのかという点は謎ですが、おそらく自己破産をした場合に、いわゆる「ブラックリスト」に載ったりすることから派生される問題を危惧して「結婚できない」と勝手に思い込んでいるのではないかと思われます。

しかし、確かに自己破産を行うと一定の不利益は生じることになりますが、それをもって結婚できなくなるということは普通に考えて起こりえないというのが弁護士や司法書士など法律専門家の認識です。

そこで今回は、「自己破産をしても結婚できないということはない」ということを具体例を示しつつ解説していくことにいたしましょう。

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自己破産したことは交際相手や婚約者にバレるか?

(1)官報からバレることはあるか?

自己破産をすると官報という国が発行する新聞のようなものに「自己破産したこと」「住所」「氏名」が掲載されることになります。

官報は全国の官報販売所(裁判所の中にあります)で誰でも購入できますし、インターネットでも過去30日間に発行されたものなら無料で公開されています。

インターネット官報

また、図書館に行けば過去に発行された官報は全て閲覧することができますから、調べようと思えば調べられないこともありません。

しかし、官報を毎号チェックしている人はほぼ皆無ですし、過去の自己破産者にあなたが含まれていないか調べようとしても膨大な発行部数の官報を全てチェックしていくことは現実的に考えて無理でしょう。

ですから、官報に掲載された情報からあなたが自己破産をしていることが知られてしまうことはまずありえないといえます。

(2)信用情報機関への登録からバレることはあるか?

自己破産に限らず、弁護士や司法書士に依頼して債務整理を行うと信用情報機関に事故情報として登録されることになります。

信用情報機関に事故情報として登録されてしまうと、その登録期間中にあらたら融資やカードの申請を行った場合に審査で落とされるのが通常ですから、その登録期間中は新たに借り入れを行ったり、クレジットカードを作成したり、ローンを組んだりすることができなくなるでしょう。

この点、自己破産した場合の登録機関は貸金業者やクレジット会社からの借り入れについては5年、銀行などからの借り入れについては10年となっていますから、自己破産をした場合にはその期間中は借入ができなくなると思っておいた方がよいということになります。

▶ 自己破産した場合のデメリットとは?

もっとも、この信用情報機関に登録されている情報は個人に関する情報になりますので、その信用情報機関に加盟する金融機関と登録されている本人以外の人は閲覧することはできません。

ですから、信用情報機関に事故情報として登録されてしまったことが、交際している相手や婚約者、もしくはその家族などに知られてしまうことはまずありません。

もちろん、交際している相手や婚約者、その家族などの中に信用情報機関に勤務している人がいたり、金融機関に勤務している人がいる場合には自分の登録情報が閲覧されてしまう可能性は否定できませんが、業務に関係なく信用情報にアクセスすることは制限されているはずですから現実的に考えて信用情報が交際相手や婚約者等に知られてしまう可能性はほぼゼロと考えて差し支えないと思います。

以上のように、信用情報機関に登録される事故情報から自分が自己破産したことが交際相手や婚約者又はその家族に知られてしまうことはあり得ないといえますから、その意味でも自己破産すること自体が結婚に影響することはないといえるでしょう。

なお、信用情報機関には自己破産だけでなく支払いを延滞した場合にも事故情報として登録されることになりますので、弁護士や司法書士に相談に行く時点で既に借金の返済が滞っているような場合には、すでにその時点で信用情報機関に事故情報として登録されてしまっていることになりますから、自己破産しようとしまいと信用情報機関の登録は特に関係ないことになります。

(3)ローンが組めなくなることでばれることはあるか?

(2)の信用情報機関への登録に関連するものとして、信用情報機関に事故情報として登録されている期間は新たな借り入れができなくなることから、結婚した場合に借り入れやローンの審査が通らないことを契機として自己破産をしたことがバレてしまうのではないか、という心配をする人は多いようです。

確かに、結婚した後すぐに借入やローンをしようと考えている人の場合には、結婚後に借り入れやクレジットカード、ローンの審査が通らない場合に夫(妻)から「なんで審査に通らないの?」と詮索されて「自己破産したんじゃないの?」と疑いを掛けられる可能性は否定できません。

しかし、そのような借り入れやローンに制限が出るとはいっても消費者金融やクレジット会社からの借り入れについては自己破産をしてから5年程度の期間ですし、銀行の信用情報機関への登録が10年とは言っても結婚後10年以内に住宅ローンを組まなければ問題はないわけですから、5年から10年の期間新たな借り入れができないからと言って結婚に影響するとまではいえないはずです。

また、最近はあえてクレジットカードを作らないことにしていたり、お金に余裕があっても持家より賃貸を選択する人も多いのですから、結婚後に新たな借り入れやクレジットカードを作らない場合でも不審に思われることはないはずです。

仮に相手から詮索された場合には「俺はクレジットカードを作らない主義だ」とか「住宅ローンは仕事が一段落する10年後ぐらいを目安に考えることにしている」などと適当に言い訳しておけば、相手も納得してくれるのではないかと思います。

(※ちなみに私は自己破産しているわけではありませんが、30代後半までクレジットカードは一回も作ったことはありませんでしたし、固定資産税や修繕積立金などを考えると持ち家より賃貸の方がコスパに優れていると考えていますから住宅ローンを組むことも一生考えていません。ですがこれを他の人に話しても「お前自己破産しただろう」と言われることは皆無です)

ですから、自己破産することで5年から10年の期間新たな借り入れやクレジットカードの作成、ローンの審査が通らないことになったとしても、それをもって交際相手や婚約者、妻や夫に自己破産したことがバレてしまうといったことはないといってよいでしょう。

もっとも、自己破産を考える人は弁護士や司法書士に相談に行く時点で既に返済が滞っていることがほとんどでしょうから、仮に自己破産をしなかったとしてもすでに「返済延滞」の事故情報が信用情報機関に登録されているはずですので、自己破産することで信用情報機関に登録され新たな借り入れやクレジットカードの作成ができないことを心配すること自体そもそも無意味であるといえます(※このような人は自己破産しなくても既に信用情報機関に登録がなされてしまっているのでそもそも新たな借り入れはできないからです)。

(4)職業の欠格事由でバレることはあるか?

自己破産をするとその自己破産の手続きが終了するまでの期間、一定の職種に就くことができなくなります。

一般的に多いのが保険の外交員(保険募集人、生命保険の営業職員など)や警備員で、これらのように他人の財産等を管理するような職業の場合には、法律で自己破産の手続き中の人が勤務することが禁止されています。

そのため、このように自己破産することが欠格事由に該当するような職種で働いている人については、自己破産の手続きが終了するまでの期間、勤務先の職場で移動させられたりすることもあるかもしれませんから、交際相手や婚約者から「なんで移動になったの?」などと詮索されてバレてしまう可能性も否定できません。

また、たとえばもしも働いている職場が交際相手や婚約者の親族が経営している保険の代理店であったような場合には自己破産をすることで仕事自体に影響が生じることになるわけですから、交際相手や婚約者に自己破産することがバレてしまう可能性も否定できないでしょう。

しかし、このように自己破産が欠格事由に該当するような職業は、保険の販売員や警備員、税理士や司法書士などといった職種に限定され、通常の会社に勤務するケースではまったく仕事に影響は出ないのですから、このようなケースで自己破産したことが交際相手や婚約者にバレることはほぼないと考えて差し支えないものと思われます。

なお、、自己破産をすると一生このような仕事に就けないわけではなく、欠格事由に該当するのは裁判所から出される「免責許可決定」が出されてからそれが「確定」する約1か月後までの期間にすぎません。

自己破産の手続きが最短であれば半年程度で終了することを考えるとそれほど長期間になるわけではありませんので、仮にこのような職種についていることで影響することがある人であってもそれほど神経質になる必要はないのではないかと思います。

戸籍や住民票の記載から自己破産したことがバレるか?

自己破産をすると戸籍や住民票にその旨掲載されると思い込んでいる人がいまだにいるようですが、戸籍や住民票には自己破産の有無を記載する欄は存在していません。

ですから、たとえ自己破産をしたとしても戸籍や住民票に掲載されるわけではありませんので、住民票や戸籍の記載から過去に自己破産したことがバレることは100%ないということになります。

本籍地市区町村が発行する「身分証明書」の記載から自己破産したことがバレるか?

本籍地のある市区町村役場では、その市区町村に本籍地を有する個人の「身分証明書」を発行することができます。

この本籍地の市区町村役場が発行する「身分証明書」とは、一般にいう「免許証」や「パスポート」「住民基本台帳カード(マイナンバーカード)」などといった”身分証”のことではなく、その市区町村役場が裁判所から「成年被後見人の登記」や「破産宣告」の「通知等を受けていないこと」を証明する証明書のことを言います。

たとえば、大阪市の東淀川区に本籍がある東京都渋谷区に在住するAさんが過去に自己破産をしたことがないと仮定した場合において大阪市の東淀川区役所に「身分証明書」の交付申請を行った場合には、東淀川区役所から「Aさんは破産宣告を受けていません」といったような一文が記載されただけの「身分証明書」が交付されることになります。

仮にこの場合、Aさんが自己破産を申し立てをして自己破産の手続きが終了していない(自己破産の免責許可決定が確定していない)状況にあり、かつ、裁判所から東淀川区役所に対してAさんが破産したことの通知が出されている場合には、東淀川区役所から「Aさんは破産宣告をしています」と記載された「身分証明書」が交付されることになります。

したがって、自己破産をした場合には、このように本籍地の市区町村役場が発行する「身分証明書」に自己破産をしたことが記載されることがあることを考えると、その「身分証明書」の記載から自分が自己破産したことが交際相手や婚約者又はその家族等にバレてしまう可能性も否定できないことになります。

しかし、この「身分証明書」に自己破産したことが記載されるとは言っても、記載されるのは自己破産の申し立てをして裁判所から破産手続きの開始決定が出され免責許可決定が確定するまでの期間に限られますし、自己破産の免責許可決定は早ければ手続きを開始してから半年程度で出されることを考えると「身分証明書」に自己破産していることが掲載される期間はごく短期間に過ぎないといえます。

(※また、そもそも裁判所から市区町村役場に自己破産の情報が通知されないこともあるので案件によっては自己破産をしても身分証明書に自己破産したこと自体掲載されないこともある様です)。

また、この本籍地の市区町村役場が発行する「身分証明書」の発行を請求できるのは本人だけであってたとえ同一戸籍に所属する他の家族であっても請求することはできませんから(※親権者が未成年の子の分を請求する場合を除く)、仮に自己破産していたとしても、この「身分証明書」の記載から自己破産していることがバレる心配はまずないといえるでしょう。

なお、交際相手や婚約者の親族から「うちの娘(息子)と結婚したいなら本籍地の市区町村役場が発行する「身分証明書」を見せてみろ!」と要求されるようなケースでは身分証明書の記載から自己破産していることがバレてしまう可能性はあるといえます。

しかし、このようなケースであっても、前述したように本籍地の市区町村役場が発行する「身分証明書」に「自己破産をしていること」が掲載されるのは、「自己破産の開始決定が出てから自己破産の免責許可決定が確定するまでの間」の期間に過ぎず、その期間は早ければ半年程度しかありませんから、自己破産の申し立てをする前にあらかじめ本籍地の市区町村役場から取得しておくか、免責許可決定が確定した後に取得すれば「〇〇は破産宣告を受けていません」という記載がなされることになりますので不都合は生じないはずです。

ですから、本籍地の市区町村役場が発行する「身分証明書」に自己破産したことが記載されるからと言ってそれが結婚に影響することはないといえるでしょう。

興信所を使って調べられたらバレるか?

自己破産を敬遠する人の中には、興信所に調べられたら自己破産したことがバレてしまうのではないかと心配している人も多いようです。

しかし、自己破産を下という情報は、興信所であっても簡単に調べられるものではありません。

たとえば、前述したように自己破産をすると信用情報機関に事故情報として登録されてしまいますから信用情報機関の情報にアクセスできればバレてしまうことになりますが、信用情報機関の情報は加盟する金融機関以外アクセスできませんから、興信所がこれを閲覧することは不可能です(興信所は信用情報機関に加盟できません)。

仮に、興信所のスパイが信用情報機関や金融機関に潜入していれば自己破産の事故情報にアクセスすることも可能ですが、そのような話は聞いたことがありませんし、常識的に考えればそのような違法行為に手を染める興信所は存在しないでしょう。

また、前述したように自己破産したことは官報によって公告されており、過去に発行された官報は図書館に行けば無料でだれでも閲覧することができますが、興信所に頼んで過去の官報を全てチェックしようとすれば人件費だけでも莫大な費用が発生するでしょうから、よほど資産家の令息・令嬢とでも交際していない限り、そのようなリスクは発生しないものと考えられます。

ですから、興信所を使われたら自己破産したことがバレてしまうというのもドラマや漫画の世界の話であって、一般的に考えれば興信所で自己破産することがバレてしまうということは考えられないと思います。

結論

以上のように、自己破産をした場合であっても、それが交際相手や婚約者又はその家族に知られてしまうというリスクはほぼゼロに近いですし、結婚後に自己破産したことが影響することもほぼないといえます。

ですから、自己破産することが結婚に影響することはないといえますので、「自己破産したら結婚できない」というのは都市伝説の域を出ない単なる嘘といってもいいのではないかと思います。