自己破産の申立を行った場合、所有する資産(財産)は全て裁判所に取り上げて売却され、その売却代金が債権者に配当(分配)されるのが原則です。
自己破産は借金の返済を免除する手続きですが、無条件に債務が免除されるわけではなく、その所有する資産を全て弁済に充てても返済できない場合に限り債務の免除が認められるという個人の資産の清算手続き的な性質を有していますから、全ての財産(資産)の処分を裁判所に委ねなければならないのです。
例えば、自己破産する人が土地や建物などの不動産、自動車などを所有している場合には、それらは全て売却すれば何がしかの値段が付きますので、自己破産の手続き上「資産」として扱われることになり、裁判所から選任された破産管財人によって売却されて、その売却代金が債権者に配当(分配)されることになるのが一般的な取り扱いとなります。
ところで、このように自己破産の手続きにおいて申立人の資産(財産)が裁判所によって売却させられることに関連して問題となるのがバイク(単車・オートバイ)の取り扱いです。
バイクは、ハーレーやドゥカティ、BMWなど外国製の大型バイクがある一方で、国内メーカーの50CCや中国製の激安バイクもあり、その値段も様々ですから、「資産」としての価値が認められるにしても、これらのバイクが自己破産の手続きにおいて具体的にどのように扱われるのかという点に疑問が生じてしまいます。
では、自己破産の手続きでバイクはどのように扱われるのでしょうか?
50CCや中国製の激安バイクも「資産」として扱われ、裁判所によって換価されたりするものなのでしょうか?
「初年度登録から5年を経過しないバイク」および「外国製のバイク」は基本的に裁判所に取り上げられて売却されるのが原則
前述したように、自己破産の手続きにおいてバイク(単車)がどのように扱われるかという点が問題となりますが、基本的には自動車と同様の取り扱いとなります。
この点、自動車の場合は、「初年度登録から5年を経過していない自動車」と「外国製の自動車」については全て「車検証」と「資産価格を証明する書面(中古車販売店の見積書など)」を申立書に添付して裁判所に提出することが求められていますので、「初年度登録から5年を経過していない自動車」と「外国製の自動車」がある場合には、原則としてその自動車は破産管財人がオークションや中古車市場などで売却し、売却代金が債権者に配当(分配)されることになっています。
したがって、バイクの場合にも同様に、「初年度登録から5年を経過していないバイク」と「外国製のバイク」については破産管財人に取り上げられて売却されるものと考えて置いた方が良いでしょう。
(※そのため、「初年度登録から5年を経過していないバイク」と「外国製のバイク」がある場合には、自己破産の申立書にそのバイクの車検証とバイク屋で発行してもらう見積書を添付することが必要となります)
もっとも、中国製などの激安バイクについては後述するように売却価格が20万円を超えないばあいは「資産価値がない」と判断されるため破産管財人に取り上げられることはないと考えられます。
初年度登録から5年を経過していても「売却価格が20万円を超えるバイク」は裁判所に取り上げられる
前述したように、「初年度登録から5年を経過していないバイク」は裁判所(破産管財人)に取り上げられるのが原則ですが、「初年度登録から5年を経過している」場合であっても、そのバイクの「売却価格(時価)が20万円を超えている場合」には、「資産価値」があると判断されて破産管財人に売却されてしまうのが通常です。
なぜなら、多くの裁判所では「20万円」を超えるか超えないかで「資産価値があるかないか」を判断していますので、売却して20万円の売却益が見込めるものについては全て「債権者の配当に充てるべき資産」と判断して破産管財人に売却させる取り扱いにしているからです。
(※なぜ20万円が基準になるかという点についてはこちらのページで詳しく説明しています。→なぜ「20万円」が基準になるのか?)
たとえば、いわゆる旧車と呼ばれる単車(ホンダのCBとかカワサキのZ1/Z2とか)については当然初年度登録から5年を経過していることになりますが、中古車市場で売却すればその希少価値から相当な値段が付くことが予想されますので、当然自己破産の手続きでは「債権者の配当に充てるべき資産」と判断され、破産管財人に取り上げられて売却されることになるでしょう。
初年度登録から5年を経過していなくても「売却価格が20万円を超えないもの」は裁判所に取り上げられない
逆に、バイク屋の見積価格が20万円を超えないバイク(売却しても20万円以上で売れないバイク)については、仮に「初年度登録から5年を経過していない」場合であっても、裁判所(破産管財人)に取り上げられることはないものと考えられます。
この点、前述したように「初年度登録から5年を経過していない自動車」は全て車検証と資産価値を証する書面の添付が必要となりますので「初年度登録から5年を経過していないバイク」についても同様に車検証と資産価値を証する書面の添付が必要となりますが、その「資産価値を証する書面」に20万円以上の見積額(評価額)が記載されていない場合には、裁判所の方で「資産価値がない」と判断されるのが通常です。
ですから、仮に「初年度登録から5年を経過していないバイク」を所有していたとしても、バイクやの買い取り価格の見積額が20万円を超えないような場合(例えば、中国製の激安バイクであったり、事故車であったり、保存状態の極端に悪いものなど)には、自己破産の手続きを行っても取り上げられることはないと考えられます。
ローンが残っているものは自己破産の前にクレジット会社か販売店が引き揚げることになる
以上のように、自己破産の手続きにおけるバイク(単車)の取り扱いは「初年度登録から5年を経過しているか」「外国製か国産車か」といった点が裁判所(破産管財人)に取り上げられるか取り上げられないかの基本的な基準となりますが、事実上は「その資産価値が20万円を超えているか超えていないか」といった点が判断の分かれ目となります。
もっとも、これはあくまでもその所有するバイクのローンが残っていない場合の話になりますので、仮にそのバイクのローンが残っている場合(ローンの途中で自己破産する場合)には話が異なります。
なぜなら、購入したバイクのローンの支払い途中で自己破産する場合には、クレジット会社や販売会社が自己破産の手続き前にそのバイクを引き揚げて中古車市場で売却し、その売却代金をローンの残額に充当してしまうからです。
バイクにかぎらず、商品をローンで購入した場合にはその商品が購入者に引き渡されることになりますが、そのローンが完済されるまではその商品の「所有権」がクレジット会社や販売会社に「留保」される契約になっているのが一般的です。
(※このように「所有権留保」を契約に盛り込んでおかないと、いざ購入者の返済が滞った場合に、商品代金を立て替えたクレジット会社や販売店が貸付金の返済が受けられない上に商品も取り戻せなくなってしまうからです。)
そのため、仮にローンの途中で返済が滞った場合には、その留保された「所有権」に基づいて、クレジット会社や販売店が「ローンを支払えないならバイクを返してください」と主張して強制的にバイクを引き揚げて中古車市場で売却し、その売却代金をローンの残額に充当してしまうのです。
(※なお、このように売却代金をローンの残額に充当してもなおローンが残る場合には、そのローンの残額が自己破産の手続きにおける債権額として裁判所に申告されることになります)
このように、バイクのローンが残っている場合には、自己破産の手続きとは関係なく、そのバイクの代金を立て替えたクレジット会社や販売会社がバイクを引き揚げて売却することになりますので、そのバイクの市場価格が20万円を超えていようが越えていまいが、取り上げられてしまうことになります。
最後に
以上のように、バイクも自己破産の手続き上は「資産」と判断されるのが原則ですので、裁判所(破産管財人)が「資産価値がある」と判断されるものは裁判所に取り上げられることになりますし、ローンが残っている場合については自己破産の手続き以前に債権者に引き揚げられてしまうことは避けられないといえます。
もっとも、この点は自己破産の手続きを依頼する弁護士や司法書士に相談する際に詳細な説明がなされると思いますので、あまり深く理解する必要もないと思いますが、自己破産を予定しているのであれば、バイクも取り上げられることになるという点ぐらいは理解しておいた方が良いのかなと思います。