家族で生活している人が自己破産する場合に気になるのが、自分が自己破産した場合に家族の名義となっている自動車がどのように扱われるのか、という点です。
自己破産の手続きでは所有している資産(財産)が裁判所に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが通常ですので、「自分名義」の自動車は裁判所に取り上げられてしまうことが予想されます。
その際、同居している「家族名義」の自動車であったり、例えば「実家で生活する親などの名義」になっている自動車についても同じように取り上げられたりしないか、という点が問題となるのです。
では、実際の自己破産の手続きでは、家族名義の自動車も取り上げられたりするものなのでしょうか?
家族名義の自動車が取り上げられることは原則としてない
結論からいうと、自己破産の申立てを行う場合に、その申立人ではない家族名義の自動車が裁判所に取り上げられることは原則としてありえません。
なぜなら、自己破産(個人破産)の手続きは、支払い不能(または債務超過)にある債務者「個人」の資産と負債を清算する手続きであってその債務者の「家族」の資産と負債を清算する手続きではないからです。
【破産法第1条】
この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。
自己破産の手続きは申し立てをする債務者「個人」の負債と資産を清算する手続きで「家族」の負債と資産は「全く別のもの」として扱われますから、自己破産の申し立てを行うわけではない家族名義の自動車が裁判所に取り上げられることはありません。
たとえ同居の親族・家族であろうと、別居する実の父母であろうと関係なく、自己破産の申立人とは別個の資産として扱われるため家族名義の自動車に影響が生じることは基本的にないといえるのです。
例外的に家族名義の自動車が取り上げられる場合
このように、自己破産の手続きはあくまでもその申し立てを行う債務者「個人」の資産と負債を清算する手続きであって「家族」の資産は全く別のものとして取り扱われることになりますから、自己破産の申し立てを行う申立人以外の家族名義の自動車が裁判所に取り上げられたりすることは原則としてありえないといえます。
もっとも、これはあくまでも原則的な取り扱いにすぎません。
たとえば、次の3つケースのように一定の事情の下では、家族名義の自動車が裁判所(※(3)のケースでは裁判所ではなく債権者であるローン会社)に取り上げられてしまうこともあるので注意が必要でしょう。
(1)便宜上、家族名義にしているだけの場合
自己破産する債務者が購入した自動車があるものの、何らかの事情があって便宜上、その自動車の車検証の名義を家族の名義にしているようなケースでは、その「家族名義」になっている自動車が、自己破産の手続きの上で裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることがあります。
なぜなら、このようなケースでは、その自動車の名義が「家族」のものになっていたとしても、購入したのがその自己破産の債務者であれば、その自己破産する債務者固有の資産として扱われるからです。
たとえば、自己破産するAさんが過去に購入したXという自動車の車検証の名義に妻のBさんが記載されていた場合には、外見的にはBさん所有の自動車となりますが、購入したのがAさんである以上、実態上はAさんの所有するAさんの資産(財産)と判断されますので、Aさんが申立人となる自己破産の手続きでは、そのBさん名義の自動車も裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることは避けられないことになります。
(2)資産隠しのために家族名義に書き換えている場合
また、資産隠しを目的として自己破産の申し立て前に車検証の名義が家族名義に書き換えられているような自動車についても、自己破産の手続きで裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられるケースがあります。
たとえば、先ほど挙げた例で、自己破産するAさんが過去に購入したXという自動車を所有しているものの、そのまま自己破産の申し立てをしてしまうと裁判所に取り上げられてしまうので、自己破産の申し立て前に陸運局に持ち込んで妻のBさん名義に車検証の所有者名義を書き換えてしまうような場合です。
このような資産隠しを認めてしまうとそもそも自己破産の手続きにおける債権者への配当手続き自体成り立たなくなってしまいますし、自己破産の手続きを定めている破産法では「財産の隠匿」や「財産の譲渡」、「債権者に不利益な処分」などの行為が免責不許可事由(破産法252条1項)や詐欺破産罪(破産法265条1項)として禁止されていますから、そういった不当な名義変更があれば裁判所としても「名義変更はなかったもの」として扱うほかありません。
ですから、このような「資産隠し」と認められるような名義変更がなされた「家族名義」の自動車がある場合には、自己破産の手続きにおいて裁判所に取り上げられてしまうことは避けられない物と考えられるのです。
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
二(以下省略)
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三(以下省略)
(3)ローンが残っていて「使用者」の欄の名義を家族名義にしていただけのような場合
以上の(1)や(2)と事情が若干異なりますが、ローンで購入した自動車のローン残高が残っている状態で、かつ、その自動車の車検証の”使用者”の名義を家族名義にしているようなケースでも、その家族名義の自動車が取り上げられることがあります。
なぜなら、ローンで購入した商品についてはそのローンが完済されるまでの間はその商品の所有権がローン会社や販売店に”留保”されているのが通常で、ローンが完済される前に自己破産が申し立てられた場合は、その留保された所有権に基づいてローン会社や販売会社がその商品を引きあげて売却し、その売却代金をローンの残額に充当してしまうことになるからです。
ですから、先ほど挙げた例で、自己破産するAさんが過去にローンで購入したXという自動車の車検証の”使用者名義”を妻のBさんの名義としている場合であっても、たいていの場合はそのXの自動車の所有権はその自動車を販売した販売店やローン会社に留保されていますから、そのローンを支払っている途中で自己破産の申し立てを行う場合には、その申し立てに先立ってその自動車を販売した販売会社やローン会社が留保された所有権に基づいて引き揚げて売却し、ローン代金の残額に充当することは避けられないといえます。
このように、家族名義にしている自動車があったとしてもそのローンを完済する前に自己破産の手続きに入る場合は、前述した(1)や(2)のように裁判所に取り上げられるkとはないにしても債権者やローン会社に家族名義の自動車が引き揚げられてしまうことはあるので注意が必要でしょう。
最後に
以上のように、自己破産の手続きを行う場合には基本的には家族名義の自動車が取り上げられてしまうことはありませんが、特定の事情があるケースでは家族名義にしている自動車が裁判所に取り上げられたり、またはローン会社などの所有権留保に基づいて引き揚げられてしまう場合もあるということができます。
もっとも、家族名義の自動車が取り上げられるからといくら悩んだとしても、返済がままならないほど生活に窮しているのであれば自己破産の申し立てを避けることはできないわけですから、そのような不安に頭を悩ます前に早めに弁護士や司法書士に相談して適切な対処をしてもらうことが大切になるのではないかと思います。