いわゆる「スナックのママ」が自己破産する場合、会社員や専業主婦などが自己破産する場合と異なり、特別な配慮が必要です。
なぜなら、「スナックのママ」である以上、「自営業者であること」や「接客業」であることの他にも「水商売」であることに由来する特異な事情により、それ以外の職業とは違った意味で気を付けるべき点があるからです。
では、「スナックのママ」が自己破産する場合には、具体的にどのようなことに配慮する必要があるのでしょうか。
ボトルキープしている常連客が「債権者」になる可能性
スナックのママが自己破産する場合にまず気を付けなければならないのが、「ボトルキープ」をしている常連客が自己破産における「債権者」にあたる可能性があるという点です。
スナックやバー、居酒屋などでは顧客の購入したウイスキーや焼酎などのボトルを預かり置くいわゆる「ボトルキープ」が一般的に行われていますが、これは法律的には民法上の「寄託契約」が無償で行われていることになりますので、受寄者であるスナックのママは寄託者である常連客に対してそのキープされたボトルを返還ないしそのお店で無償で提供する契約上の義務(債務)を負っているということになります。
そうすると、そのキープされたボトル相当額またはそのボトルに残存するウイスキーや焼酎の分量相当額の金額をそのボトルをキープしている常連客に対して負担していることになりますので、自己破産の手続きにおいてはその債務(負債)を債権者として届け出なければならないか、という点に問題が生じることになります。
もちろん、そのスナックのママが自己破産の手続き後もそのスナックの営業を継続するというのであれば、その寄託されたボトルの返還義務は顕在化しませんから問題にはならないかもしれません。
しかし、仮にそのスナックのママが自己破産を機にスナックを閉店するという場合には、その顧客からキープされたボトルの返還義務が顕在化してくることになりますから、そのボトルの返還義務という債務を自己破産の手続きでどのように扱うかという点が問題になるのです。
ボトルキープしている常連客に自己破産の事実がバレる可能性
前述したように、スナックのママが自己破産する場合には常連客がボトルキープしていることによって預かっている焼酎やウイスキーのボトルの返還義務(債務)が問題になることになりますが、これとは別に、そのキープされたボトルが一定の金銭的な価値を持つことから、自己破産の手続き上でそのボトルの資産価値が問題を生じさせる可能性がある点にも注意が必要です。
なぜなら、自己破産の手続きでは申立人の資産は自由財産として保有が認められるものを除いてすべての資産(財産)が裁判所(破産管財人)に取り上げられて換価され、その換価代金が債権者への配当に充てられるのが原則ですが、そのためには破産管財人が申立人の保有する全ての資産(財産)をいったん管理下に置いて、申立人固有の資産(財産)であるか、それとも他人の所有する資産(財産)なのかという点を調査する必要があるからです。
この点、スナックのママが自己破産の申立をした場合には、その所有する資産価値のある物は全て破産管財人の管理下に置かれることになりますから、当然、常連客がキープされているボトルも例外ではなく、破産管財人の管理することとなりますので、破産管財人の承諾(裁判所の許可)がない限り顧客に提供することができなくなってしまいます。
もちろん、そのキープされたボトルは自己破産の申立人であるスナックのママの所有物ではなく、ボトルをキープした顧客の所有物ですから自己破産の手続きによって裁判所に取り上げられることは基本的にありません。
しかし、破産管財人のOKが出ない限り顧客に提供することはできなくなってしまうのですから、場合によっては顧客から「なんで俺のボトルを出してくれないんだよ?」と詮索されて自己破産の手続きをしていることがバレてしまう可能性も否定できないでしょう。
このように、スナックのママが自己破産する場合には、常連客がキープしているボトルが資産と判断されることから自由な処分ができなくなることによって顧客に自己破産の事実が知られてしまう可能性がある点については認識しておく必要もあるのではないかと思います。
「ツケ」を残している常連客に裁判所から取り立てがなされる可能性
スナックのママが自己破産する場合には、「ツケ」を残している常連客に対して破産管財人が直接その「ツケ」を支払うよう請求することがある点も留意しなければなりません。
なぜなら、常連客が飲食代金を「ツケ」にしている場合には、その「ツケ」に相当する金額が自己破産を申し立てるスナックのママの「資産」と判断されることになり、破産管財人がスナックのママに代わって強制的に回収することになるからです。
前述したように、自己破産の手続きでは申立人の保有する資産は自由財産として保有が認められるものを除いてすべて裁判所(破産管財人)が取り上げて債権者への配当に充てることになりますから、未回収の債権(この場合は常連客の「ツケ」)があれば全て破産管財人が代わりに回収して債権者への配当原資にしてしまうのが通常です。
ですから、飲食代金を「ツケ」にしている常連客がいる場合には、自己破産の手続き上で破産管財人が「ツケを直ちに支払いなさい」と常連客に対して請求をすることは原則として避けられませんので当然、その常連客には自己破産することがバレてしまうことになります。
最後に
以上のように、スナックのママが自己破産する場合には、その職種独特の配慮すべき点があるので十分に注意が必要といえます。
ですから、スナックのママが自己破産を考えている場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、出来るだけ顧客へ影響が広がらないよう適切な対処を検討することも必要になるのではないかと思います。