自己破産をする場合に一番気がかりなのが、自分が自己破産をすることが会社にバレてしまわないかという点です。
自己破産したことが勤務先の会社に知られてしまうと会社での評価が失墜し昇進に響くかもしれませんし、上司がいる場合には上司の、部下がいる場合には部下の信用も地に落ちてしまうかもしれません。
また、最悪の場合は法律上の有効性は別にしても会社から解雇されることもあり得ない話ではないでしょうから、自己破産の事実が「会社バレ」してしまうことだけは避けたいと思うのが多くの人の本音でしょう。
では、自己破産を行う場合、会社に知られてしまうことはあるのでしょうか?
あるとすれば、具体的にどのようなケースで「会社バレ」してしまうことがあるのでしょうか?
自己破産していることが「会社バレ」してしまうことは(原則として)ない
結論からいうと、自己破産の申し立てをした場合に、そのことが勤務先の会社に知られてしまうことは通常考えられません。
なぜなら、自己破産の申し立てをした場合、後述するような特別なケースの除いて、裁判所が直接勤務先の会社に連絡を入れたり問い合わせをしたりすることはないからです。
そもそも、自己破産の手続きはあくまでも申立人「個人」の資産と負債を清算する手続きに過ぎませんから、勤務先の会社といった第三者は基本的に手続きに関与することがありませんし、裁判官や弁護士、司法書士など手続きに携わる人も守秘義務があることから情報が洩れることも考えにくいでしょう。
また、自己破産したことは官報で公告されることになりますが、官報を毎号チェックしている会社はまずありませんから、官報の記載から自己破産していることがバレるというのも常識的に考えられません。
以上のような理由から、後述する例外的なケースでない限り、自己破産していることが「会社バレ」してしまうことはないのではないかと考えられます。
例外的に「会社バレ」してしまう代表的な5つのケース
前述したように、自己破産したことが勤務先の会社に知られてしまうことは基本的にありませんが、次のようなケースでは、例外的に自己破産していることが「会社バレ」してしまうこともあると考えられますので注意が必要です。
(1)会社からの借り入れがある場合
会社からお金を借りている場合には、勤務先の会社に対して負債を抱えていることになりますので、自己破産の手続きにおいては勤務先の会社を「債権者」として裁判所に申告することが必要になります。
そうすると、裁判所から「おたくがお金を貸している〇〇という人が自己破産の手続きに入りましたよ」という通知(自己破産の開始決定)が債権者である勤務先の会社に送付されることになりますので、当然、勤務先の会社に自分が自己破産していることが知られてしまうことになります。
なお、このような場合に会社からの借入だけを自己破産の手続きから除外することができないかという点が問題となりますが、自己破産の手続きから一部の債権者だけを除外することは「虚偽の債権者名簿の提出」もしくは「偏波弁済」として免責不許可事由に該当し、免責(※借金の返済が免除されること)が受けられなくなってしまう危険性があるため基本的にできないものと考えられます。
(2)給料の前借がある場合
会社から給料の前借がある場合にも、前述の(1)と同様に自己破産の手続きで勤務先の会社が「債権者」として扱われることになるため、自己破産の事実が知られてしまうことは避けられません。
なぜなら、「給料の前借」は「将来受け取る給料の前払い」的な性格を有していますが、その実態は「会社からお金を借りるという金銭消費貸借契約」が行われているのと何ら変わりないため、自己破産の手続きにおいては勤務先の会社を「債権者」として裁判所に申告しなければならないからです。
自己破産の手続きにおいて勤務先の会社を「債権者」として裁判所に届け出た場合には当然、前述したように会社に対して通知書が裁判所から送られてくることになりますから、自己破産していることが「会社バレ」してしまうことは避けられないということになります。
(3)未払いになっている給料や残業代がある場合
勤務先の会社で給料や残業代、休日出勤手当などが未払いになっているような場合も、勤務先の会社に自己破産している事実が知られてしまう可能性があります。
なぜなら、勤務先の会社が支払うべきはずの給料や残業代などを支払っていない場合には、会社に対して「未払い分の給料を支払え」とか「未払いの残業代を支払え」などと請求することができますので、その未払い分の給料や残業代等は会社に対する「債権(請求権)」として「資産(財産)」的な扱いを受けることになるからです。
自己破産の手続きでは申立人に「資産(財産)」がある場合は自由財産として認められる部分を除いてすべて裁判所に取り上げられて債権者に配当されるのが原則的な取り扱いとなりますから、仮に裁判所から選任された破産管財人がその「未払い賃金」や「未払い残業代」を「資産」として認定した場合には、破産管財人が本人に代わって勤務先の会社に対して「未払い分の給料を支払え」「未払いの残業代を支払え」と請求し回収することになります。
そうなると当然、勤務先の会社に対して自分が自己破産していることが知られてしまうことは避けられないでしょう。
(4)会社から損害賠償請求されている場合
ケースとしてはあまり多くないかもしれませんが、会社から何らかの原因で損害賠償請求されているような場合も、勤務先の会社に自己破産していることが知られてしまう可能性があります。
勤務先の会社から損害賠償されるケースとしては、「重大な過失」によって会社に損害を与えた場合などが代表的なケースとして挙げられます。
たとえば、トラックの運転手が勤務中に危険ドラッグを吸引して酩酊状態で運転したことにより事故を起こして会社に損害を発生させてしまったとか、会社や上司の指示や回りの同僚の注意も一切聞かず、制止する他の社員を振り切って機械を動かした結果その機械を壊してしまい会社に損失を与えてしまったなどのような場合です(※注釈1)。
このような場合はその労働者に「重大な過失」があると考えられますから会社から損害賠償請求されることも考えられますが、仮にその「重大な過失」を理由に損害賠償請求されている場合には、その請求を受けている「損害賠償債務」が自己破産における「債務」の一つになりますので、自己破産の手続きにおいて勤務先の会社を「債権者」として裁判所に申告しなければならなくなります(※注釈2)。
そうすると当然、前述したように勤務先の会社に対して自己破産の開始決定書が裁判所から送られてくることになりますから、自己破産していることが「会社バレ」してしまうことは避けられないということになります。
【注釈1】
労働者が「軽度の過失」で会社に損害を与えた場合には、労働者に損害賠償義務は発生しません。
たとえばコンビニのバイトがお釣りを多く渡してしまったとか、ウェイトレスが不注意でお皿を落として割ってしまったとか、トラックの運転手がよそ見をして車をぶつけてしまったなどの過失は、その労働者に責められるべき過失があるものの、そのような勤務中の事故はその仕事をするうえで通常起こり得る事故(その仕事に内在するような事故)といえ「軽度な過失」と判断されることになります。
このような仕事自体に内在する事故によって発生する損害は、その仕事によって利益を受けている会社が負担しなければならないというのが法律上の考え方ですので、「軽度の過失」であれば労働者に損害賠償義務は発生しません。
【注釈2】
「重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」は破産法で非免責債権とされていますので(破産法第253条第1項3号)、仮にこのような会社に対する「重大な過失」に基づく損害賠償債務が「人の生命または身体を害する」性質のものである場合には、自己破産の手続きで会社を「債権者」として挙げたとしても、その「重大な過失」に基づく損害賠償債務が免責されることはありません。
しかし、このような非免責債権であっても自己破産の申立書には「債権」として記載するのが実務上の取り扱いとなっていますので、そのような場合に「会社バレ」してしまうことはあり得ると思います。
(5)社員旅行や互助会などの積立金の残高が20万円を超えている場合
会社によっては、社員旅行の費用を積み立てたり、社内の互助会で冠婚葬祭などの費用を積み立てる制度を設けているところがありますが、そのような社内積立金の残高が20万円を超えている場合にも自己破産していることが会社にバレてしまう場合があります。
なぜなら、自己破産の手続きでは申立人である債務者が20万円を超えている資産を有している場合、裁判所から選任される破産管財人がその資産を回収し債権者への配当に充てるのが原則だからです。
会社に互助会や社員旅行の積立金が積み立てられている場合にはその積み立てられた金額が20万円を超えている限り、裁判所によって選任された破産管財人が本人に代わって会社に「積立金を払い戻してください」と払い戻しの請求をすることになるでしょう。
そうすると、破産管財人は「自己破産の手続きにおける破産管財人」としての立場で会社に請求を行わなければなりませんから、その破産管財人の請求によって自己破産の手続きをしていることが会社にバレてしまうことになります。
(※この点はこちらのページで詳しく解説しています→互助会の積立金は自己破産で裁判所に取り上げられる?)
(6)会社が退職金に関する書類を出してくれない場合
自己破産の申し立てをする場合において、勤務先の会社に退職金を支給する規定が存在する場合には、その退職金に関する書類の添付が必要となります。
この場合、具体的には会社が発行する「退職金の見込み額証明書」を添付するのが一般的ですが、会社が証明書を発行しない場合には「退職金規定が記載されている就業規則の該当部分のコピー」などを添付することでその証明書に代えることも可能です。
しかし、会社によっては「退職金の見込み額証明書」どころか就業規則のコピーすら渡さない場合もあったりしますから、会社にその書面の交付を要請する際に「何に使うの?」と詮索され自己破産することがバレてしまうケースもゼロではないようです。
最後に
以上のように、自己破産の手続きを行うに際して勤務先の会社に「会社バレ」してしまうことは通常はありませんが、特定のケースでは会社に知られてしまうこともあるのが実情です。
自己破産することをどうしても会社に知られたくない場合には、早めに弁護士や司法書士に相談し、専門家の助言を得て上記のようなケースで会社にバレてしまわないように適切な対処が求められるといえるでしょう。