闇金からお金を借り入れをしてしまった場合には、たとえ闇金の云う通りに弁済金を用意出来たとしても、様々な理由を付けられて延々に利息を搾り取られることになるのが通常です。
ですから、いったん闇金と取引してしまった場合には、弁護士もしくは司法書士に依頼して闇金に手を引くよう話を付けてもらう必要があります。
しかし、闇金はしょせん犯罪者集団にすぎませんから、弁護士や司法書士が介入したとしてもすぐに手を引くのは全体の6割程度であり、残りの4割の闇金は弁護士や司法書士がどんなに警告しても本人に対する請求や嫌がらせを止めないのが一般的です。
このように本人への請求や嫌がらせを止めない闇金に対しては、闇金が利用する預金口座の凍結(強制解約)を行ったり、警察に被害届を提出して闇金が逮捕されるよう捜査を促して対抗するのが一般的ですが、それでも解決しないような場合には、最終手段として闇金が利用する携帯電話の強制解約の手続きを取ることも可能です。
そこでここでは、闇金が利用している携帯電話を強制解約させるためにはどのようにすればよいか、その手続きの具体的な方法について解説していくことにいたしましょう。
闇金の利用する携帯電話の強制解約には警察署長からの「携帯電話契約者確認要求」が必要
前述したように、請求や嫌がらせの電話を止めない闇金に対しては、その闇金が利用している携帯電話を強制的に解約し、闇金に携帯電話を利用させないようにするのが最も効果的です。
しかし、携帯電話の契約は携帯電話会社(NTTドコモ、au、ソフトバンクなど)とその携帯電話を契約した契約者の間で結ばれているため、その携帯電話の強制解約ができるのも携帯電話会社に限られることになりますから、闇金の被害者や弁護士・司法書士が闇金の利用する携帯電話を強制的に解約することはできません。
もっとも、携帯電話不正利用防止法という法律では、警察署長から犯罪行為に利用されている可能性のある携帯電話について携帯電話会社に対して「携帯電話契約者確認要求」がなされた場合には、それを受けた各携帯電話会社はその対象となる携帯電話の契約者の本人確認をすることが認められており、その携帯電話の契約者の本人確認ができない場合には携帯電話会社が強制解約することが出来ると規定されています。
そのため、たとえ闇金の被害者や弁護士・司法書士であっても、強制解約したい闇金業者が利用する携帯電話番号について、警察署長に対して「携帯電話会社に対して携帯電話契約者の確認要求をしてください!」と申入れることによって、警察署長による「携帯電話契約者確認要求」を促し、間接的に携帯電話会社に強制解約をさせることも可能になるのです。
警察署長が携帯電話契約者確認要求できる場合とは?
前述したように、警察署長は犯罪行為に利用されている可能性のある携帯電話については、携帯電話会社に対して「携帯電話契約者確認要求」を行うことが法律で認められています(携帯電話不正利用防止法第8条1項本文)。
この警察署長が携帯電話会社に対して「携帯電話契約者確認要求」をすることができるのは、対象となる携帯電話が一定の犯罪として利用されている場合に限られていますが、その犯罪行為には「出資法」や「貸金業法」に違反する犯罪行為が含まれています(携帯電話不正利用防止法第8条1項2号、携帯電話不正利用防止法第八条第一項第二号の罪を定める政令)。
この点、闇金の貸付行為が「出資法」や「貸金業法」に違反するかが問題となりますが、闇金はお金を貸す際に年利20%を超える利息を請求しているのは間違いありませんから出資法第5条2項ないし3項に違反していることは明白です(出資法第5条2項ないし3項)。
また、闇金は貸金業法で定められた都道府県知事や地方財務局からの登録を受けておらず、またその登録を受けずに貸金の広告や勧誘をしていることは明白ですから、貸金業法の第47条第2号や第47条の3第2号に違反していることは明らかといえるでしょう(貸金業法第47条2号、貸金業法第47条の3第2号、貸金業法第11条1項、貸金業法第3条1項)。
したがって、全国の各警察署の警察署長は、闇金が利用している携帯電話の番号を把握した場合には、NTTdocomo、au、softbankといった各携帯会社に対して、この携帯電話不正利用防止法に基づいて携帯電話契約者の確認要求ができるものといえます。
携帯電話会社の「契約者確認」とは?
前述したように、警察署長が闇金が利用している携帯電話番号を把握した場合には、その携帯電話番号を携帯電話会社に対して通知することにより「携帯電話契約者確認要求」をすることが可能です。
この場合、警察署長から「携帯電話契約者確認要求」を受けた携帯電話会社(NTTドコモ、au、ソフトバンクなど)は、その対象となる携帯電話の契約者に対して本人確認をする行うことができますが(携帯電話不正利用防止法第9条1項)、具体的には、闇金が使用する携帯電話番号が契約された際の本人確認記録に記録されている当該自然人の住居にあてて書面を送付し、相当な期間を定めたうえでその契約者が携帯電話会社にその契約に架かる携帯電話を持参して提示することを求めるのが一般的です(携帯電話不正利用防止法施行規則第16条1号)。
闇金が使用する携帯電話は、携帯電話の不正売買で購入するか、闇金の顧客から利息の代わりに携帯電話を譲り受けて使用しているかであることがほとんどですので、携帯電話会社から「携帯電話を持参して提示してください」と携帯電話の提示を求められても闇金は契約者本人ではありませんから、その携帯電話の契約者本人として携帯電話を提示することはできません。
そのため、この携帯電話会社の「携帯電話の契約者確認」の手続きが取られれば、闇金が使用している携帯電話は本人確認が取れない携帯電話として強制解約させられてしまうことになるのです。
警察署長に「携帯電話契約者確認要求」をするように求めるための申入れ手順
上記のように、闇金が使用している携帯電話であっても、警察署長から携帯電話会社に対して「***-****-****の番号で契約されている携帯電話の契約者を確認してください!」という”携帯電話契約者確認要求”を行ってもらえれば、携帯電話会社から闇金が使用している携帯電話の契約者に対して「〇月〇日までに携帯電話を持参して提示してください」という本人確認の通知がなされることになりますが、闇金はその使用している携帯電話の契約者ではないためその携帯電話を持参して提示することができませんから、その携帯番号は本人確認ができないものとして携帯電話会社に強制解約してもらうことが可能となります。
そのため、闇金の被害者や弁護士、司法書士などが闇金の携帯電話を強制解約させてしまいたい場合には、まず、最寄りの警察署に「その携帯電話が闇金に使用されていること」を申告したうえで、警察署長から携帯電話会社に対して「携帯電話契約者確認要求」を行ってもらう必要があります。
なぜなら、前述したように警察署長が携帯電話会社に「携帯電話契約者確認要求」をする場合には、その対象となる携帯電話(番号)が貸金業法や出資法に違反する犯罪行為に使用されている事実があることが前提となっていますので、その貸金業法や出資法に違反する犯罪事実が実際に存在していることを警察署長に認識してもらう必要があるからです。
この場合の手順としては、まず警察署に対して「闇金が貸金業法や出資法に違反する貸付を行っていること」を申告し、併せて警察署長に対して「その闇金が使用している携帯電話番号について携帯電話会社に携帯電話契約者確認要求をするよう求める申し入れ」を行う必要があります。
こうすることで、闇金が貸金業法や出資法に違反する貸付をしていることを警察署長に明らかにすることができますし、警察署長において携帯電話会社に「携帯電話契約者確認要求」できるという状況を作り出すことができることになります。
なお、具体的には、まず「闇金が貸金業法や出資法に違反する貸付を行っていること」を申告するために携帯電話を解約したい闇金について記載した「犯罪事実一覧表」を作成し、それとは別に警察署長を名宛人とする「携帯電話契約者の確認要求を求める申入書」を作成して、これに「犯罪事実一覧表」を添付書類として添付して、警察署に提出することになります。
(1)「犯罪事実一覧表」の作成
警察署に「闇金が貸金業法や出資法に違反する貸付を行っていること」を申告する場合には、闇金との取引経過を記載した「犯罪事実一覧表」を作成して提出するのが一般的です。
犯罪事実一覧表とは、闇金の名称や連絡先、闇金から借り入れた金額や借入日、闇金に返済した金額や返済日などを全て記載した書類のことをいいます。
特段の様式はありませんのでエクセルなどで適宜作成しても構いません。
このような闇金からの取引を一覧表に記載して提出すれば、闇金の貸付が貸金業法や出資法に違反する違法なものであることが明らかとなりますので、警察署(警察署長)の方でも闇金の違法行為を具体的かつ客観的に把握することが可能となります。
※なお、犯罪事実一覧表についてはこちらのページに記載例を掲載しています。
(2)「携帯電話契約者の確認要求を求める申入書」の作成
警察署長に対して「携帯電話契約者確認要求」をするよう求める申し入れの方法についても特に法定されているわけではありませんので電話やメールなど適宜の方法で申し入れて構いませんが、通常は(常識的に考えて)申入書を作成して警察署に提出することになります。
この場合の申入書も適宜な様式で構いませんが、警察署長において「対象となる携帯電話の番号」「闇金業者の名称」「闇金業者が貸金業法や出資法に違反する具体的事実」が認識できるような文章を記載したうえで「携帯電話契約者の確認要求を行うよう求めます」などの一文を記載するようにします。
なお、この場合に警察署(長)に提出する申入書ついてはこちらのページで記載例を公開しています。
(3)「犯罪事実一覧表」と「携帯電話契約者の確認要求を求める申入書」を最寄の警察署に提出する
(1)で作成した「犯罪事実一覧表」と(2)で作成した「携帯電話契約者の確認要求を求める申入書」を作成したら、この2つの文書を最寄りの警察署に持参するか、郵送またはFAXで提出します。
警察署において、提出された「犯罪事実一覧表」と「携帯電話契約者の確認要求を求める申入書」を吟味し、その対象となる携帯電話(番号)がヤミ金融という貸金業法や出資法に違反する犯罪行為に利用されていることが認識されるようであれば、特段の支障がない限り警察署長から携帯電話会社に対して「携帯電話契約者確認要求」がなされることになると思われます。