闇金事件を受任した弁護士や司法書士は採算が取れるのか?

テレビやラジオ、雑誌などの広告の影響もあり、借金問題に関する弁護士や司法書士の仕事は「過払い金返還請求」に関する処理がほとんどだと思われているかもしれませんが、実際にはそうではありません。

借金問題の解決手段は”債務整理”と呼ばれていますが、その債務整理には「過払い金返還請求」だけでなく「任意整理」や「自己破産」「個人再生(個人民事再生)」などもありますので、債務整理の案件では弁護士や司法書士は「過払い金返還請求」だけをやっているわけではないのです。

もちろん、その債務整理の仕事の中には「闇金」に関するトラブルの処理も含まれます。

「闇金」は、法律に違反する違法な金利を巻き上げる犯罪者集団にすぎませんので”債務整理”の中に含めてよいのかという疑問も生じますが、一般的には闇金トラブルも借金問題の一部と認識されているようですので、闇金に関するトラブルの処理も債務整理の手続きの一部といっても構わないでしょう。

この闇金に関するトラブルの処理は、犯罪者集団とのやり取りが必要になることから過払い金返還請求や自己破産など他の債務整理案件と比較して面倒な処理が必要な場面が数多くあります。

そのため、過払い金返還請求や自己破産などの手続きが、ある程度マニュアル化して効率よく処理できる半面、闇金の処理は労力と時間が余計にかかるのは否めない仕事と言えます。

では、そのような「面倒な」処理が必要となる「闇金の処理」という業務で、弁護士や司法書士はどのように採算を取っているのでしょうか?

弁護士や司法書士と言っても所詮は個人事業主にすぎませんから、闇金トラブルの依頼を受ける際にも、その依頼者からの報酬によって利益を出さなければなりませんが、そのように面倒な処理が必要となる闇金案件でどのようにして利益を上げているのでしょうか?

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闇金の処理は、相手の闇金によっては手間暇がかかる

闇金に関するトラブルを弁護士や司法書士が受任した場合、その依頼を受けた弁護士や司法書士は、まずその相談者から詳細な聞き取りを行い、「いつ」「いくら借りて」「いくら返したのか」とか「入出金口座など闇金に関する情報」などを詳細に聞き取って行くのが通常です。

私が司法書士をしていたときは、「犯罪事実一覧表」と言う書面に依頼人から聞き取った情報を記載していき、依頼人と闇金との間でどのような金銭のやり取りがあったのか、という点をまず確認する作業から始めていました。

▶ 闇金に関する犯罪事実一覧表の作成方法と記載例

その作業が終わったのち、闇金に電話を入れて今後の請求を止めるよう告知するのですが、全体の6割の闇金はこの電話を入れるだけであっさり手を引いてくれるので、依頼人から10件の闇金の相談を受けたとしても、そのうちの6件前後は至極あっさりと片が付くことになります。

しかし、あとの4割の闇金はそうはいきません。なぜなら『闇金からお金を借りてはいけない本当の理由』や『弁護士に依頼すれば闇金も簡単に解決すると思い込んでいる君へ』のページでも書いていますが、全体の4割程度の闇金は、弁護士や司法書士がいくら「依頼人に電話するな」と告知しても、そのような告知を無視して依頼人本人への督促や嫌がらせの電話を止めないからです。

その全体の4割のうち半分程度は、闇金が実質的に利益を出している場合(例えば、闇金から5万円を借りて1万円を6回返済している場合など※この場合は合計6万円を返していることになるので闇金側は1万円の利益を出していることになります)には、闇金側も「損」をしていないため渋々手を引くことが多いですが、残りの半分(つまり依頼人から10件の闇金を受けた中で2件程度)は、弁護士や司法書士が何をどうやっても一切手を引かないケースが多いのが実情です。

※なぜどうやっても手を引かない闇金がいるのかという点はこちらのページに記載しています→闇金からお金を借りてはいけない本当の理由

弁護士や司法書士が介入すれば闇金側もさすがに「契約通りの利息を払え」とは言ってきませんが、「貸付元本は返せ」と言って引かないケースは多くあるのです。

もちろん、そのような場合には、弁護士や司法書士は闇金の使用している携帯電話や銀行口座を凍結したり、警察に被害届を出して捜査を促すなどして闇金が手を引くよう手を尽くすのですが、そこまでやっても手を引かない闇金は、何をやっても手を引かないのが実情なのです。

このように、闇金を10件受任したとしても、そのうち2割から4割程度の闇金は弁護士や司法書士が介入しても本人への嫌がらせを止めないのが通常ですから、そういう闇金が依頼人の案件に紛れていると、依頼を受けた弁護士や司法書士は事件処理に要する時間が嵩むことになります。

手を引かない闇金については利益が出せない

このように、闇金のトラブルを受けた場合は10件中2~4件の闇金は何をどうやっても手を引かないケースが多いため、そのような闇金の処理の依頼を受けた場合は、依頼を受けた弁護士や司法書士はその闇金の処理に対処しなければならない時間が長期化することになります。

闇金が弁護士や司法書士からの警告を無視して本人に嫌がらせの電話を入れた場合には、依頼を受けている弁護士や司法書士としては、その都度闇金に対して警告電話を入れたり、闇金の使用する口座を凍結させたり、闇金の使用する携帯電話の強制解約手続(携帯電話契約者確認要求)などの手続きを取って、闇金に対して何らかの対抗手段を講じなければなりません。

そうすると、そういう全体のうち2割から4割程度の「面倒な闇金」については、依頼を受けた弁護士や司法書士は利益を出せなくなります。

たとえば、私が司法書士をやっていたときは「闇金の処理は1件2万円」で依頼を受けることにしていましたが、何をやっても手を引かない闇金が相手だと、短くても2~3か月、長ければ半年程度はその闇金の案件を手元に置いて管理しなければならなくなるわけです。

そうすると、その闇金が依頼人本人に電話をするたびに闇金に警告の電話を入れたり、闇金が利用している口座を凍結させるために銀行や警察にFAXを入れたり、ときには闇金が利用している携帯電話を強制解約するために警察署の所長に対して「携帯電話契約者確認要求」をしたりすることが必要になってきます(※詳しくは→闇金が利用している携帯電話を強制的に解約させてしまう方法)。

しかし、そうやって様々な対応を取ったとしたとしても、依頼人からは当初に設定した金額の「2万円」しかもらえないわけです。

もちろん「2万円」だけではとうてい利益は出ません。はっきり言って赤字です。

闇金が嫌がらせの電話を入れるたびに依頼人本人から報告を受けて闇金に電話するだけでも電話する時間や記録を付ける時間を考えれば小一時間は必要です。さらに銀行に口座凍結のFAXを送ったり警察署長に携帯電話契約者確認要求を行ったりする場合は、その書類を作成して銀行や警察署と連絡を取り合うだけでも数十分から1~2時間は必要になりますから、そういった時間を数か月から時には数年の間、逐次取られてしまうとなれば、とうてい「2万円」では利益を出せないのです。

ですから、そういった何をやっても手を引かないような「面倒な闇金」が相手の場合には、依頼を受けた弁護士や司法書士はその案件で利益は見込めないことになります。

闇金で利益が出せるのは、全体の6割の闇金があっさり手を引いてくれるから

では、弁護士や司法書士は受任する闇金事件をすべて「手弁当」…つまり、事務所の採算を度外視して処理しているのかというと、決してそうではありません。

なぜなら、前述したように全体の2割から4割程度の闇金は「何をやっても手を引かない」闇金である可能性がありますが、残りの6割から8割程度の闇金は、弁護士や司法書士が1本電話を入れるだけであっさり手を引いてくれるからです。

闇金の中にも「弁護士や司法書士が介入すればそれ以降は1円も回収できないから交渉を長引かせるだけ無駄」と考える「損得勘定のできる闇金」もいますので、そういった闇金が相手の場合は、弁護士や司法書士が電話をすれば「わかりました。今後は一切電話しないようにします」と言われてあっさりと処理が終わります。

もちろん『闇金からお金を借りてはいけない本当の理由』や『弁護士に依頼すれば闇金も簡単に解決すると思い込んでいる君へ』のページで解説したように、弁護士や司法書士が介入した時点で実質的に闇金側が「損」をしている場合(闇金側が貸し付けた金額より少ない利息しか回収できていなかったり、いわゆる”借りパク”の状態になっているような場合)には、弁護士や司法書士が介入しても一切手を引かず、執拗に本人への嫌がらせを続けますが、そういう状況でない限り、10件のうち6~8件の闇金はあっさりと手を引いてくれるのが闇金処理の現場の実情なのです。

ですから、闇金トラブルの依頼人が10件の闇金から借り入れをしていたとしても、そのうち2~4件の闇金処理については事務所の利益は出ないとしても、残りの6~8件の闇金の処理で十分に利益を出せることができるのです。

たとえば、先ほども述べたように、私が司法書士をしていた時は闇金は1件あたり「2万円」で受任していたので、10件の闇金から借り入れをしている依頼人から闇金の処理を依頼された場合は20万円の報酬を受け取ることができるわけですが、その10件のうち8件前後の闇金は電話を1本入れるだけであっさり手を引いてくれるので、わずか1~2分の電話だけで16万円程度の利益が発生することになります。

もちろん、残りの2件が厄介な闇金で処理が長引いて赤字になることもありますが、仮にそうなったとしても、他の8件の闇金の方で十分な利益を出せているので、その依頼人の処理全体としては十分に利益を出すことができるのです。

最後に

このように、闇金の処理は全体の2割から4割程度は闇金がなかなか手を引かないため弁護士や司法書士からすると「到底採算の取れない」案件となるのですが、残りの6割から8割程度の闇金は「電話1本で処理できる極めて利益率の高い」案件となるので、「闇金処理」の全体としては、十分に採算の合う仕事と言うことができます。

「だから何?」と言われると困るのですが、「闇金の処理なんかやって弁護士や司法書士は採算が取れるの?」と疑問に思う人も多いと思いましたので、一応ご説明しておこうと思った次第です。