自己破産すれば養育費の支払い義務も免責される?

自己破産の申し立てを行って裁判所から免責が出された場合、自己破産の手続きが開始されるまでに発生した全ての負債(借金)に関する返済義務が免除されることになりますから、自己破産の申し立て前にどれだけ多額の負債を抱えていたとしても、裁判官に免責を認めてもらえさえすれば、それ以降は全くの借金ゼロから生活を再建することが可能になります。

しかし、ここで疑問が生じるのが、その免責(借金の返済義務が免除されること)が出される場合に、「養育費」の支払い義務も免除されるのか、という点です。

借金の返済に苦しむ人の中には、離婚した配偶者が育てる子供に養育費を支払っている人も少なからずいると思いますが、そのような人が負担する養育費まで免責の対象になると考えると、免責を受ける債務者としては養育費の支払い義務から逃れられるメリットがある反面、養育費を受け取っている離婚した配偶者やその子供の側からしてみると、受け取ることができるはずであった養育費が受けられなくなることによって生活が破綻する危険性さえ生じ、不都合な結果となってしまうでしょう。

では、実際の自己破産の手続きでは、離婚した配偶者が育てている子供に支払うべき養育費の支払い義務も免責の対象となるのでしょうか?

広告

養育費は免責の対象とはならない

先ほども述べたように、自己破産の手続きでは「養育費」の支払い義務も免責の対象となるのかという点が問題になりますが、結論から言うと「養育費」は免責の対象とはなりません。

自己破産の手続きで裁判所から免責が出されても「養育費」については、離婚する際に取り決めた金額を支払って行かなければならない義務が従前どおり残されることになります。

なぜ「養育費」がこのような取り扱いを受けるかというと、養育費を受け取る子供を経済的に保護する必要性があるからです。

養育費が免責の対象になるとされてしまうと、それによって養育費を受けられるはずであった「子」の生活が不安定になり不都合な結果となってしまうため、「養育費」については免責の対象とされていないのです。

このような免責の対象とはならない債権を「非免責債権」といいますが、「養育費」については自己破産の手続きを規定している破産法にも明確に「非免責債権」として定められていますので(破産法253条1項4号)、議論の余地はない結論と考えられています。

【破産法253条1項】

免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない
一~三(省略)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第766条(中略)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第877条から第880条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの

自己破産の開始決定「前」に発生した養育費だけでなく開始決定「後」に生じる債務も支払う義務がある

以上のように、「養育費」については破産法で「非免責債権」になることが明確に定められていますので、たとえ「養育費」の支払い義務を負担している債務者が自己破産の免責を受けたとしても、その「養育費」はその後もその対象となる子供が成人するまで支払い続けることが義務付けられることになります。

なお、これは自己破産の開始決定が出される「前」に滞納して未払い状態になっている「養育費」だけでなく、自己破産の開始決定が出された「後」に発生する養育費も免責の対象とならないという意味になります。

ですから、「養育費」の支払いを延滞している人が自己破産する場合には、自己破産の手続きが終わった「後」に発生する毎月の養育費を支払わなければならないのはもちろんのこと、自己破産の手続きを行う「前」に滞納させた養育費の滞納分も合わせて支払わなければならないことになるのは言うまでもありません。

養育費の支払いが困難な場合はどうすればよいか?

以上のように、自己破産の手続きでは「養育費」の支払い債務は非免責債権とされており、自己破産の免責が出されたとしても「養育費」の支払い義務は免除されませんので、離婚する際に合意した内容どおりのスケジュールに従って「養育費」の支払いを継続していかなければならないということになります。

もっとも、自己破産してしまう人の中には自己破産の免責を受けて他の債務の支払い義務を免除されても「養育費」の支払いが困難になってしまうほど経済的に困窮してしまう人も少なからずいますから、そのような人はどうすればよいか?という問題は依然として残ります。

このような場合にどうやって解決すればよいかというと、それはもう離婚した元夫なり元妻に連絡を取って「養育費」の支払いについて再協議をしてもらうしかありません。

離婚に伴って「養育費をいくら支払うか」という取り決めも契約の一つにすぎませんから、契約の相手方である元夫なり元妻が承諾する限り「養育費」の支払い内容はいくらでも変更できますので、どうしても「養育費」の支払いが困難である場合には、再協議をしてもらうしかないのが現実でしょう。

ただし、離婚する際に相手方に弁護士が付いていた場合はまずその弁護士が所属する弁護士事務所に連絡を取り、その代理人弁護士から本人に連絡を取り次いでもらって協議を行う必要がありますので注意してください。

元夫なり元妻と直接会って話をして差し支えない状況にあるのであれば、元夫なり元妻なりと二人で養育費の再協議を行っても構いませんが、当事者間だけで取り決めてしまうと後々トラブルが生じることもありますので弁護士等の第三者を介在させた方が無難かもしれません。

なお、当事者間で話し合う際に弁護士を付けるのが経済的に困難な場合は、弁護士会や司法書士会が主催しているADR(訴訟外紛争解決手続)を利用するのもよいでしょう。

ADRを利用すれば、安価な費用負担で弁護士や司法書士に同席してもらいながら養育費の協議が行えますので、興味がある場合は弁護士会や司法書士会に電話して利用方法などを聞いてみるのも良いと思います。

弁護士会のADR→日本弁護士連合会│Japan Federation of Bar Associations:紛争解決センター

司法書士会のADR→日本司法書士会連合会 | 話し合いによる法律トラブルの解決(ADR)

養育費の滞納分がある場合はその滞納分をどうやって支払うか説明を求められることもある

なお、自己破産の手続きでは裁判所から免責を認める前提として、その後の生活再建が可能かというところも十分に調査されることになりますので、養育費の滞納分があるケースでは、自己破産の手続き後にその滞納分をどうやって解消していくつもりなのか、その弁済スケジュール等も十分に検討しておく必要があります。

裁判官や破産管財人によっては滞納した養育費の支払いスケジュールがキチンと整っていないと免責にOKを出してくれない場合もありますので、養育費の滞納分がある場合には、自己破産の手続きを依頼する弁護士や司法書士の助言を受けながら十分に家計収支を見直し、滞納分が早期に解消できるようなスケジュールを組んで裁判所に説明することが必要になるでしょう。

最後に

以上で説明したように、自己破産の手続きでは「養育費」の支払い義務は「非免責債権」とされており、自己破産の免責が出されても支払い義務を逃れることはできませんので注意が必要です。

もっとも、養育費が免責の対象になろうとなかろうと、自己破産しなければならない案件では自己破産しか解決の道はないはずなので、早めに弁護士や司法書士に相談し、養育費の支払いも含めてどのように生活の再建を図っていくのが適当なのか、十分な検討を重ねることが必要であるといえます。