任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合には、依頼を受けた弁護士や司法書士が債権者と交渉し、残りの債務額を原則36回(3年)以内の分割払いの和解(示談)を取り付けることになります。
債権者との間で任意整理の和解が合意されると和解書(示談書)において合意した毎月の弁済額を債権者に振り込んで返済をしていくことが必要となります。
もっとも、とはいっても弁護士や司法書士が債権者と交渉するためには事前に債権者から取引履歴を取り寄せて債権調査を済まさなければなりませんので、実際に和解で合意した弁済が始まるのは、弁護士や司法書士に任意整理を依頼してから3か月から半年が経過した後になるのが一般的です。
ところで、このように弁護士や司法書士に任意整理を依頼した場合には、実際に任意整理で合意した弁済を開始するまで3か月から半年程度のタイムラグがあるわけですが、任意整理を依頼する債務者本人においては、この猶予期間は任意整理後の弁済を継続的に行うために非常に重要な期間となります。
なぜなら、任意整理で合意する返済は3年(36回)程度の長期の分割払いになるのが一般的ですから、この長期の弁済に耐えられるよう、その猶予期間に出来る限り弁済の障害となる事情を解消させておく必要があるからです。
任意整理の和解が合意されるまでにやっておきたい3つのこと
前述したように、任意整理の和解は3年(36回)程度の長期の分割払いになるのが通常ですから、その弁済が始まるまでの期間、具体的には弁護士や司法書士に任意整理を依頼してその手続きが終了し和解書(示談書)を受け取るまでの3か月から半年程度の期間に、分割弁済の障害となるような事情はできるだけ取り除いておく必要があります。
その障害は債務者によって異なりますが、一般的には少なくとも次の3つの点についてはその障害を取り除いておく必要があると考えられます。
(1)友人や親族などからの借り入れがある場合は任意整理の必要性について理解を求めておく
弁護士や司法書士に任意整理を依頼した貸金業者やクレジット会社などからの借金の他に、友人や親族などからの借り入れがある様な場合には、その貸金業者やクレジット会社との間で任意整理の合意が結ばれるまでに、お金を借りている友人や親族などにも任意整理の事情を説明し、返済が長期化することの理解を求めておくことが必要です。
弁護士や司法書士に任意整理を依頼する場合には、友人や親族からの借り入れについても他の貸金業者などと同様に依頼して処理することも可能ですが、友人や親族等からの借り入れは貸金業者やクレジット会社のように利息や遅延損害金が付かない約束で借りているのが通常ですので、通常は弁護士や司法書士も介入しません。
友人や親族が執拗に一括返済を求めていたり訴訟を提起しているような場合でない限り、弁護士や司法書士が介入して任意整理の交渉をするよりも、本人が事情を説明して分割返済への理解を求める方が余計な争いを生じさせず円満な解決を望めることが多いからです。
ですから、仮に貸金業者やクレジット会社の他に友人や親族からの借り入れがある場合には、弁護士や司法書士が貸金業者やクレジット会社と任意整理の和解をしてその弁済が始まるまでの間に、「自分が任意整理の手続きをしていること」や「貸金業者やクレジット会社の借金は3年程度の分割払いになる予定になっているので友人や親族からの借り入れについてもその程度の分割弁済で納得してもらいたいこと」などを十分に説明し納得してもらうことが必要でしょう。
もちろん、任意整理をしていることは個人の信用問題に関係するとてもプライベートな事ですから、たとえ友人や親族であってもそれを話してしまうことは憚られるかもしれません。
しかし、お金を借りている友人や親族に十分に話をしないまま、他の貸金業者やクレジット会社の債務だけを任意整理で分割弁済してしまった場合には、その分割弁済の途中で友人や親族から一括請求を求められ、その結果家計が破たんして任意整理で合意した貸金業者やクレジット会社の弁済もできなくなってしまう危険性があります。
そうなると、自己破産するしかなくなってしまいますから、友人や親族に話すのが差し支えないのであれば、自分が任意整理をしていることを話したうえで、友人や親族からの借り入れについても長期の分割で納得してもらうように話を付けておいた方が良いのではないかと思います。
(2)家計を見直して無駄をなくしておく
また、任意整理を弁護士や司法書士に依頼した場合には、その任意整理の合意が債権者との間になされるまでに、家計の無駄な出費を洗い出して余裕をもって返済ができるように家計状況の改善を十分行っておく必要があります。
前述したように、任意整理で和解した分割弁済が実際に始まるのは弁護士や司法書士に任意整理を依頼してから3か月から半年後になるのが一般的であり、その期間は債権者からの請求もすべてストップされますから、その期間は家計を見直す絶好のチャンスとなります。
そもそも多重債務の原因は毎月の収入で賄える限度以上の出費をしていたことにあるのが通常ですから、特別な事情で借金が膨らんだ場合でない限り、毎月の家計を見直して無駄な出費を抑えれば、それなりの弁済原資が確保できるはずです。
また、そもそも任意整理で処理することに決まった時点で弁護士や司法書士の方でも現状の収入で十分返済原資が確保できると判断したのでしょうから、家計状況を改善すれば現在の収入でも十分に余裕をもって返済ができるはずです。
ですから、弁護士や司法書士に任意整理を依頼して場合には、毎月の出費をよく精査し、不要な出費はリストラするなどして家計をスリム化し、3か月から半年後から始まる分割弁済に余裕をもって対処できるよう、家計の改善をしておく必要があるといえるでしょう。
(3)光熱費などに滞納がある場合は解消しておく
光熱費や通信費など、毎月の支払が必要なものに滞納がある場合はその滞納をできる限り解消しておくことも必要となります。
なぜなら、光熱費や通信費などの滞納分をそのままにして貸金業者やクレジット会社からの借金だけを任意整理したとしても、その任意整理の分割弁済の期間中に光熱費や通信費などの滞納分も請求が来てしまうのですから、任意整理の分割弁済に支障をきたし、最悪の場合には返済が破たんして自己破産するしかなくなってしまう場合も有り得るからです。
多重債務で苦しむ人の中には、借金の返済に追われて月々の光熱費や電話代などの通信費、年金や健康保険(自営業者やアルバイトの人など)の支払いを滞納し、それらの滞納分の支払いも抱えている人も多いでしょう。
このような状態の人が貸金業者やクレジット会社の借金だけを任意整理で処理しても、それら光熱費などの滞納分の支払いに追われてしまい、結局は任意整理で合意した分割弁済もままならなくなって破綻してしまうという事例も多いようです。
ですから、光熱費や通信費、年金や健康保険、税金などの滞納がある人は、弁護士や司法書士に任意整理を依頼して実際に任意整理の分割弁済が始まるまでの3か月から半年間の間に、それらの滞納分もできるだけ解消しておくことが必要になります。
仮に、任意整理の分割弁済が始まるまでの間にその滞納分を解消できない場合には、任意整理の分割弁済の毎月の弁済額を引き下げたり、債権者と交渉して弁済期間を延長したりしなければならないこともありますので、十分注意することが必要です。
弁護士や司法書士に相談する前からなるべく努力すること
以上のようなことは、弁護士や司法書士に任意整理を依頼した場合にはおそらくその指導がなされると思いますので、実際に弁護士や司法書士の事務所に相談に行く前に神経質になって上記の努力をする必要性はそれほどないかもしれません。
しかし、家計状況の改善や滞納分の解消は今すぐにでも着手できるはすですので、借金の返済が苦しくなってきた場合には、できるだけ早い段階で家計の改善や光熱費などの滞納分の解消などについて努力する必要があるのではないかと思います。