任意整理は弁護士や司法書士に依頼して債権者との間で債務の減額や利息のカット、残存債務の分割弁済の協議を行う債務整理手続きの一種です。
自己破産や個人再生、特定調停など他の債務整理手続きと異なり裁判所に申し立てが必要ないことから、簡易迅速で柔軟な処理が見込めることから債務整理手続きの中でも一番多く利用されている借金の整理方法といえます。
ところで、任意整理で借金を処理する場合には弁護士や司法書士に依頼して代理人となって債権者と交渉してもらうのが通常ですが、その弁護士や司法書士に任意整理を依頼する際に必要な書類や提出が義務付けられる書類などはどのようなものがあるのでしょうか?
任意整理で義務付けられる提出書類はない
結論からいうと、任意整理の手続きで提出が義務付けられる書類や、必ず必要となる書類はありません。
なぜなら、任意整理の手続きは債権者との間で残債務額の弁済について私的に協議する示談交渉の場に過ぎず、裁判所が関与する他の債務整理手続きとは根本的にシステムが異なるからです。
自己破産や個人再生、特定調停といった裁判所に申し立てが必要となる手続きは法律によって明確に手続き方法が定められていますので、その法律で定められた書類を収集して裁判所に提出することが義務付けられています。
しかし、任意整理は法律で定められた手続きではなく、単なる債務者と債権者との間の示談交渉に過ぎませんから、必ず提出が義務付けられる書類というものが存在しないのです。
もっとも、このように任意整理の「手続き」を行ううえで提出が義務付けられる書類は存在しませんが、弁護士や司法書士事務所に任意整理を依頼する際や、債権者と分割弁済の協議を行う際などに、弁護士や司法書士事務所から、または債権者から提出を求められる(任意での提出を求められる)書類は存在します。
弁護士・司法書士事務所または債権者から提出を求められる書類等
(1)弁護士・司法書士事務所で提出を求められる書類等
a)免許証などの本人確認書類
弁護士や司法書士が依頼者から事件処理の依頼を受ける場合には、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」という法律で書面等による依頼人の本人確認が義務付けられています。
この点、任意整理を弁護士や司法書士に依頼する場合にもこの本人確認の対象となりますので、任意整理を弁護士や司法書士に依頼する場合には本人確認に必要な書類を提示しなければなりません。
具体的には、顔写真の付いた公的な身分証である「免許証」や「パスポート」、「住民基本台帳カード」等が挙げられます。
顔写真の付いていない公的証明書(例えば「健康保険証」やなど)は2通以上の提示が必要となりますので注意が必要です。
ちなみに、これらの本人確認書類は弁護士や司法書士事務所でコピーを取って一定期間(5年~10年)保管されることになります。
なお、この本人確認書類は弁護士や司法書士に任意整理を依頼する場合には必ず必要となりますので、弁護士や司法書士の事務所に相談に行く際は必ず持参することが必要です。
後述する「b」「c」「d」の書類については無いなら無いで任意整理の処理自体には差し支えありませんが(※ただし弁護士や司法書士としては提出してもらいたいです)、この「a」の本人確認書類については、その提示がない限り弁護士や司法書士は任意整理を受任すること自体ができませんので注意してください。
b)任意整理の対象となる債権者のクレジットカードなど
任意整理の対象として依頼する債権者が発行しているカードなどがある場合には、弁護士や司法書士事務所から債権者に受任通知を発送した後に債権者からカードの返却を求められるのが通常です。
そのため、弁護士や司法書士事務所に任意整理を依頼する場合には、任意整理の対象となる金融機関が発行しているクレジットカードの提出を求められるのが一般的です。
クレジットカードを弁護士や司法書士が預かる際は、事務所によっても異なりますが、一般的にはその場でハサミを使って切れ目を入れ以後使用できないようにするのが通常です。
c)家計簿や家計表など
任意整理を依頼する弁護士や司法書士の事務所によっても異なりますが、債権者との間で分割弁済の協議を行う際の返済原子の確認のため、家計簿や家計表の提出を求められることもあります。
任意整理の手続きでは利息の再計算を行いますが、過払い金が出ていない限り残債務を債権者に弁済していかなければなりませんので、その毎月の弁済としていくら支払うことができるかを計算することが必要です。
そのためには、毎月の収入がいくらあり、毎月の生活費等の支出がいくら必要なのか、その収支を正確に把握しておく必要がありますから、弁護士や司法書士事務所によっては依頼人から任意整理の依頼を受けた後、毎月「家計簿」を作成することを義務付けてそれを提出させるところもあります。
なお、「家計表」とは毎日の家計収支が記載された「家計簿」を月ごとにまとめたものになります。
このように、家計簿や家計表の提出を求める事務所に任意整理を依頼した場合には、弁護士や司法書士の指示に従って家計簿を作成し、家計表にまとめて毎月(または債権者との協議の前にまとめて)弁護士または司法書士事務所に提出する必要があります。
d)預金通帳やATMの振込伝票の控え
闇金からの借り入れがある場合には、闇金から金銭の送金を受けた銀行口座の預金通帳や、闇金に銀行振り込みで返済を行った際のATM伝票(振込伝票)の提出を求められる場合があります。
闇金から送金を受けた際に使用した通帳は闇金とどのようなお金のやり取りを行ったかを確認するために必要で、ATMの振込伝票は闇金に「いつ」「いくら」「どこの口座に」送金したのかを確認するためと、闇金が利用している銀行の預金口座を凍結させる際に銀行や警察に証拠資料として提出する際に必要となります。
(2)債権者から提出を求められることのある書類
a)給与明細書や所得証明書
任意整理の手続きにおいて債権者から特定の書類の提出を求められることはほとんどありません。
ただし、延滞期間が長期間に渡っていたり、返済の猶予を何度も申し入れていたり、過去に他の事務所で任意整理の分割弁済を組んだにもかかわらず途中で弁済が滞っているなど、過去の態様があまり良くない場合には、債権者から給与明細書や所得証明書の提出を求められることがあります。
このように債権者から給与明細書や所得証明書の提出を求められるケースはあまりありませんが、過去にいい加減な弁済計画を組んで弁済が行き詰まっている場合には債権者の方としても「本当にその収入があるの?」と疑心暗鬼になってしまいますので、債権者側の担当者によってはしつこく給与明細書や所得証明書の提出を求め、その提示がない限り任意整理の分割弁済計画に合意してくれないことがあります。
ですから、過去に何度も滞納していたり、債権者に嘘の申告をして逃げ回っていたり、別の事務所で任意整理の和解を組んでもらったにもかかわらず弁済の途中で支払いが困難になっているようなケースでは、もしかすると債権者から給与明細書や所得証明書の提出を求められるケースもあると考えておいた方が良いでしょう。
b)その他の書類
債権者から提出を求められる書類は「(2)-a」で説明した給与明細書や所得証明書ぐらいだと思います。
特殊なケースとしては、例えば債務者の相続人が過払い請求する場合などに戸籍謄本などの提出が必要なケースがありますが、それ以外にはあまり思い浮かばないので債権者から提出を求められた場合に弁護士や司法書士と相談して提出するかしないか決めればよいでしょう。
最後に
このように、任意整理の手続き自体に必ず提出が義務付けられる書類はありませんが、弁護士や司法書士に任意整理を依頼する場合には本人確認書類等の提出(提示)が必要ですので、相談する際は最低でも身分証ぐらいは準備しておきましょう。
なお、任意整理に限らず自己破産や特定調停など他の手続きであっても、債権者との間で取り交わした契約書や請求書などの書類は全く必要ありませんので、「契約書がないから弁護士に相談に行けない」などと無駄な心配をしないように注意してください。