任意整理を依頼した後に委任契約を解除(解約)できるか?

任意整理は、債権者に対して債務の返済に関する協議を申し入れて、債務の減額や利息のカット、分割弁済の和解を合意してもらう債務整理手続きの一種です。

自己破産や個人再生、特定調停など裁判所に申し立てが必要となる他の債務整理手続きと異なり、債権者との「任意」の話し合いで適宜な合意が形成できることから、簡易迅速でかつ費用的にも安価に借金の処理ができる点がこの任意整理手続きの大きな特徴といえます。

ところで、任意整理の手続きは弁護士または司法書士に依頼して代理人となって手続きを行ってもらうのが一般的ですが、依頼した弁護士や司法書士事務所の方針や個々の弁護士・司法書士、事務員などとの相性などによっては、任意整理の手続き中に「他の事務所に依頼しておけばよかった…」などと後悔してしまうことも場合によってはあるかもしれません。

では、このように任意整理を弁護士や司法書士に依頼した後、任意整理の手続き中に弁護士や司法書士との間で取り交わした委任契約を解除(解約)して他の事務所に相談に行くことは可能でしょうか?

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任意整理の手続き中に弁護士や司法書士との契約を解除(解約)することは可能

結論からいうと、任意整理の手続き中に任意整理を依頼した弁護士や司法書士との契約を解除(解約)することは可能です。

弁護士や司法書士との間で任意整理の処理について取り交わす契約は法律上「委任契約」と呼ばれますが、その「委任契約」も商品の購入などの”売買契約”などと同様、私人間の契約の一つに過ぎませんから、契約当事者双方が合意するのであれば契約の途中で解除(解約)することは何ら差し支えありません。

ですから、任意整理を依頼した弁護士や司法書士が解除(解約)に合意するのであれば、任意整理の途中であっても何ら問題なく任意整理の手続きを依頼する契約を解除(解約)することは可能なのです。

解除(解約)したい場合は弁護士や司法書士に申し入れること

任意整理の手続き中に依頼した弁護士や司法書士との契約を解除(解約)したい場合には、その旨を依頼した弁護士や司法書士に申出てください。

依頼人(債務者)から解除(解約)の申入れがあった場合には弁護士や司法書士は依頼を受けた案件が終了していない限り解除(解約)に合意するのが通常ですので、よほど悪質な悪徳弁護士や司法書士に依頼でもしていない限り、問題なく契約の解除(解約)に応じてもらえるのが通常です。

たまに、依頼した弁護士や司法書士に何も話さないで行方不明になったり、最初に依頼した弁護士や司法書士に何の連絡もせずいきなり他の事務所に相談してしまう人がいますが、そのような行為は最初に依頼した弁護士や司法書士に対して失礼ですし、解除(解約)された弁護士や司法書士の方としても迷惑以外のなにものでもありませんから、弁護士や司法書士との契約を解除(解約)したい場合には、特段の事情がない限り最初にその依頼した弁護士や司法書士に申し入れをすることが必要でしょう。

解除(解約)は債権者との協議が整うまでに行うこと

なお、任意整理の手続きを依頼した弁護士や司法書士との契約を解除(解約)する場合は、弁護士や司法書士が債権者との間で和解を合意する前に申入れしなければなりません。

債権者との間で合意ができてしまうと、その時点でほぼ手続きが終了してしまうことになりますから、その時点以降に契約を解除(解約)したとしても債権者との合意が白紙に戻るわけではないので解除(解約)する意味がありません。

弁護士や司法書士との契約を解除(解約)することはあくまでも「依頼人」と「代理人(弁護士や司法書士)」との間の問題であって「債権者」と「依頼人」の間の問題ではありませんから、「代理人(弁護士や司法書士)」と「債権者」との間で任意整理の合意が結ばれたのであれば「債権者」と「依頼人」の間にもその合意の効力は有効に生じてしまうことになるため「依頼人」と「代理人(弁護士や司法書士)」の間の委任契約を解除(解約)しても何ら意味をなさないことになるからです。

また、債権者との合意が結ばれた後に弁護士や司法書士との契約を解除(解約)したとしても、処理はほぼ終了しているため解除(解約)される弁護士や司法書士としても報酬(任意整理の費用)は依頼人に対してその全額を請求せざるを得ませんから、債権者との合意の後に契約を解除(解約)する意味はないでしょう。

このように、債権者との合意がなされた後に至っては弁護士や司法書士との委任契約を解除(解約)することは無意味ですから、解除(解約)したい場合は必ず債権者との合意がなされる前までに弁護士や司法書士に対してその旨を申出なければならないことになります。

ただし、事件の進捗状況によってはその分の費用は支払わなければならない

以上のように、債権者との合意が整うまでの間であれば、弁護士や司法書士に申し出ることによって任意整理の委任契約を解除(解約)することは何ら問題ありません。

もっとも、任意整理の委任契約を解除(解約)できるからと言って弁護士や司法書士に対する報酬や手続き費用を一切支払わなくても良いということにはなりません。

事件の進捗状況によっては契約を解除(解約)するまでに生じた手続き費用や弁護士・司法書士に対する報酬を支払わなければならないのは当然です。

たとえば、弁護士や司法書士が「着手金」を報酬として受け取る契約になっている場合には、弁護士や司法書士の事務所に相談して弁護士や司法書士が債権者に受任通知を発送する作業に入った時点で事件処理に「着手」されることになりますから、仮に相談した直ぐ後に解除(解約)の申入れを行ったとしてもその「着手金」は支払わなければならないでしょう。

(※ただし、依頼をした直後に解除(解約)の申入れの直後に解除(解約)の連絡があった場合には着手金の請求はしないのが一般的な事務所の取り扱いです)

また、仮に債権者との間で任意整理の和解が合意される前に解除(解約)の申し入れを行ったとしても、弁護士や司法書士が取引履歴を取り寄せて引き直し計算を終了させていたり、債権者側とすでに和解交渉に入っているような場合には、それまでの作業について費用や報酬をある程度貰わなければ弁護士や司法書士としても割に合いませんから、事件の進捗状況によっては弁護士や司法書士が報酬を請求することも合理的な範囲で認められることになるでしょう。

ですから、任意整理の途中で弁護士や司法書士との契約を解除(解約)することは可能であるにしても、その進捗状況によってはそれなりの報酬や費用は発生するということは認識しておく必要があります。

弁護士や司法書士が解除(解約)に応じない場合

以上のように、任意整理の手続き中であっても弁護士や司法書士に申告することにより委任契約を解除(解約)することは差し支えありませんが、悪徳な弁護士や司法書士事務所に依頼してしまった場合には、弁護士や司法書士に契約の解除(解約)を申し入れても解除(解約)に応じてもらえなかったり、手続きがそれほど進捗していなかった場合でも費用や報酬の全額を請求されたり、法外な違約金を請求されるようなケースも稀にあるかもしれません。

そのように、弁護士や司法書士が契約の解除(解約)に素直に応じないような場合には、弁護士や司法書士を「解任」してしまうしかないでしょう。

任意整理を依頼した弁護士や司法書士との契約を解除(解約)する手段としては、「辞任」「合意解約」「解任」の3つの方法がありますが、弁護士や司法書士の側が「合意解約」に応じない場合には依頼人の方で一方的に「解任」するしかありません

※弁護士や司法書士が自らの意思で一方的に契約を解除(解約)する場合を「辞任」といい、その反対に依頼人が自らの意思で一方的に契約を解除(解約)する場合を「解任」と言います。

一方、このページで解説してきたように依頼人と弁護士・司法書士が双方の合意で契約を解除(解約)する場合は「合意解約(合意解除)」になります。

弁護士や司法書士を解任する方法は、弁護士や司法書士に宛てて解任通知を発送するのが一般的です。

もっとも、このような場合には他の事務所に相談に行くことのなるのが通常ですから、任意整理を依頼し直したい他の弁護士や司法書士事務所に相談にいったうえでその新しい弁護士や司法書士に相談し、前の弁護士や司法書士が合意解除に応じないことを申告してから解任通知を送るようにした方が良いかもしれません。