債務整理の手続きのうち「任意整理」で借金を処理した場合には、利息の再計算によっても残ってしまう債務については原則3年以内の分割で弁済していくことが求められます。
一方、債務整理の中でも「自己破産」で処理した場合には借金の全ての返済が免除されることになりますから、たとえ利息の再計算をしても借金が残る場合であっても、その一切の借金の請求から逃れることが可能です。
このように、債務整理の「任意整理」と「自己破産」を比べると「自己破産」の方が圧倒的にメリットが多いといえるのですが、「自己破産」は清算手続きの面も有している以上「任意整理」の場合よりも大きなデメリットを受けるのは避けられません
たとえば、「任意整理」の場合には裁判所に申し立てをするわけではないので、「任意整理」で借金を処理したとしても裁判所から財産を取り上げられたりすることはありませんが、「自己破産」の場合にはその所有する全ての資産が裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その売却代金が債権者に分配(配当)されるのが原則的な取り扱いとなっていますので、失いたくないような何らかの資産がある場合には「自己破産」を選択するのは非常に厳しくなってしまいます。
このように、「任意整理」と「自己破産」では、どちらも同じ債務整理の手続きとはいってもそれぞれのメリット・デメリットが微妙に異なっているため、借金額や家庭の事情などによっては「任意整理」で処理するか「自己破産」で処理するか迷う場面も比較的多くみられることになります。
では、実際問題として「任意整理」と「自己破産」で選択に迷った場合、どちらを選択する方がよりメリットが大きく、よりデメリットが少ないのでしょうか?
迷った場合は「自己破産」を選択するのがベター
結論からいうと、「任意整理」か「自己破産」で迷った場合には、「自己破産」を選択する方が断然有利です。
もちろん、前述したように「任意整理」の場合は任意整理後も分割弁済計画に従った支払いをしなければならない反面、「自己破産」の場合は借金がすべて免除されますから、借金の返済という観点から考えれば「自己破産」の方がメリットが大きいのは当然です。
しかし、ここで伝えたいのは、「任意整理」と「自己破産」で迷った場合に、メリットの大きい「自己破産」を選択せずに、あえてメリットの少ない「任意整理」を選択しなければならない理由は全くないという点です。
なぜ、「任意整理」を選択しなければならない理由がないのか、以下に説明していきます。
任意整理を選択する必然性がない理由
(1)任意整理で分割弁済の和解をしても全体の6~7割の人は途中で払えなくなるのが実情
まず知っておいてもらいたいのが、任意整理の手続きで債権者との間で3年程度の長期の分割弁済の協議が整ったとしても、その3年程度の分割弁済を最後まで返済し終えることができるのは全体の3~4割しかいないという現実です。
昔、とある大手の消費者金融の担当者の人と話したのですが、弁護士や司法書士が介入して任意整理の分割和解を結んだとしても完済まで返済が継続できる人は3~4割程度で、残りの6~7割の人は返済の途中で住所をくらませて逃げ出すか、再度弁護士や司法書士に依頼して自己破産をしてもらうのが通常のようです。
もちろん、これは十分な調査を行って出された統計ではなく、一つの金融機関の担当者個人の見解に過ぎませんから到底正確な割合ではないことは当然ですが、あながち間違っているとも言えないでしょう。
自己破産や個人再生の案件を処理していると過去に他の事務所で任意整理をしている人は比較的多く見受けられますから、いったん任意整理で借金を処理したものの途中で支払いが滞ってしまい最終的に自己破産で処理する人は正直多いように思います。
(2)「任意整理」した後に「自己破産」する場合は、弁護士や司法書士費用も2倍になる
「任意整理」で処理しても、ほとんどの人は最終的に途中で返済できなくなって「自己破産」で処理することになるのですから、そうであれば最初から「自己破産」で処理してしまった方がいいに決まっています。
なぜなら、任意整理をする場合には依頼する弁護士や司法書士に対して「任意整理」の手続きに関する着手金や報酬を払わなければなりませんが、任意整理でいったん借金を処理した後に再度自己破産で借金を処理する場合には、その自己破産を依頼する弁護士や司法書士に対して「自己破産」の手続きに関する着手金や報酬を支払わなければならないからです。
仮に「任意整理」を依頼したのと同じ弁護士や司法書士事務所に再度相談して「自己破産」の申し立てをしてもらう場合であっても、「任意整理」の依頼が既に終了してしまっている以上、弁護士や司法書士は「同一の依頼人」から「同種の相談」であっても「別事件」として依頼を受けなければなりませんから、当然、「自己破産」として別個の費用や報酬が発生することになります。
前述したように「任意整理」で借金を処理したとしても全体の6~7割の人は途中で返済が滞り最終的に「自己破産」で処理することになるのですから、現実的に考えると「任意整理」で借金を処理した人のうち6~7割は弁護士や司法書士に対して支払う費用(報酬)も2倍支払っているということになるでしょう。
そのような無駄な費用(報酬)を支払うのであれば、最初から「自己破産」を選択しておいた方がよほど経済的です。
(3)「任意整理」した後に「自己破産」するぐらいなら、最初から自己破産して毎月貯金する方が良い
また、「任意整理」で処理した後に返済が滞り最終的に「自己破産」で処理する場合には、任意整理で債権者との間で合意した分割弁済計画に従って支払いを開始し自己破産するまでの期間に支払った弁済金がまるまる無駄になってしまう点も問題です。
もちろん「借りたものは返す」のが当然ですから、任意整理後に返済した金が「無駄」になるというのは言い過ぎでしょう。
しかし、結果的に自己破産してしまうぐらいなら最初から自己破産を選択し、「任意整理したつもり」になって「任意整理になっていれば支払いが必要になっていたであろう金額」を毎月貯金しておいた方がよほどマシです。
前述したように、「任意整理」で借金を処理したとしても全体の6~7割の人は途中で返済が滞り最終的に「自己破産」で処理することになるわけですから、最初に「任意整理」で借金を処理した6~7割の人は最初に「任意整理」を選択したために「最初から自己破産をしておけば作れていたであろう貯金」を作り損なうことになるのです。
そうであれば、「任意整理」を選択することでかえって生活再建の道が遠のいてしまう結果となるわけですから、そのような不利益を考えれば最初から「自己破産」を選択する方がよほど賢い選択であるといえます。
(4)「任意整理」した後に「自己破産」するぐらいなら、最初から自己破産して毎月恵まれない子供たちにでも寄付する方がよほどマシ
(3)のように債権者に返済をせずに貯金をするのに道徳的に同意できないという人がいるのであれば、最初から自己破産を選択し「任意整理したつもり」になって「任意整理になっていれば支払いが必要になっていたであろう金額」を毎月貯金し、その貯金したお金を恵まれない子供たちにでも寄付するほうがよほどマシです。
後述するように、債権者はお金を貸し付けた顧客のうち一定数は自己破産してしまうことを予め想定し、貸付金の一部が不良債権化して返済がなされないことを計算したうえで貸付利率などを算出しているわけですから、顧客の一部が自己破産をして借金を踏み倒したところで痛くもかゆくもないのです。
ですから、「任意整理」でも「自己破産」でもどちらの手続きも選択できるような状況であれば、任意整理の手続きを選択して「貸付金の一部が踏み倒されることを想定している債権者」にあえて返済をしなくても、自己破産を選択して貯金したお金を「恵まれない子供たち」に寄付する方がよほど社会の為になります。
(5)「借りたものは返したいから任意整理」は間違い
自己破産で処理するしかないような借金額と家計状況であっても、ほとんどの多重債務者は弁護士や司法書士の自己破産の勧めに対して頑なに自己破産を拒否し任意整理で処理することを希望するのが実情です。
このような人が任意整理を選択する際に口をそろえて言うのが「借りたものは返したいから自己破産ではなく任意整理で処理したい」という言葉です。
しかしこれは間違っています。なぜなら、任意整理をしたからといって「借りたものを返した」ことにはならないからです。
任意整理の手続きは、借金の支払いが契約通り支払えなくなった際にとる手続きですから、契約通りに返済をしないという点については自己破産と何ら変わりません。
また、任意整理の手続きであっても弁護士や司法書士から債権者に対して債務の減額や利息のカットを申し入れて多くの場合「経過利息」や「将来利息」また「遅延損害金」は全て免除されるのが通常なのですから、それらの「本来であれば支払わなければならないお金(借金)」を「踏み倒す」ことに違いはないのです。
ですから、自己破産ではなく任意整理をしたからといって「借りたものは返す」といった道徳観念を履行したことにはなりません。
もちろん任意整理後に支払う借金元本については返済することになるのですから、「借りたものは返す」という道徳の一部を履行したことになるのはそうでしょうが、任意整理であっても自己破産と同様に「借金を踏み倒している」ことには変わりないのです。
(6)普通の人は自己破産で取り上げられる財産はほとんどない
自己破産すると裁判所に財産を取り上げられて処分させられてしまうということを気にする人は多いと思います。
しかし、現実的には自己破産をして財産を取り上げられてしまう人はあまり多くありません。
もちろん、土地や建物の所有権を持っている人は別ですが、そういう場合でもない限り、実際には裁判所から財産を取り上げられる人は多くないのです。
たとえば、「自動車」については自己破産すると裁判所に取り上げられて売却され売却代金が債権者に分配(配当)されるのが原則ですが、裁判所に取り上げられるのは初年度登録から5年未満のいわゆる新車と呼べるものであって、それ以外は外車など高く売却されるものでない限り取り上げられることはありません。
例えば、5年落ちの国産車を持っている場合には、自己破産をしても車を取り上げられることはないのです(※ただしローンが残っている場合はローン会社から引き揚げられてしまいますが…)。
また、生命保険の解約返戻金がある場合には裁判所(破産管財人)がその保険を解約し払い戻される解約返戻金を債権者に分配(配当)するのが原則ですが、解約返戻金が20万円を超えない場合には裁判所(破産管財人)が取り上げることもないのが通常の取り扱いになっており、多重債務に陥っている人は生命保険の解約返戻金があったとしても既に契約者貸し付けなどを利用して引き出しているケースも多くありますから、自己破産の際に解約返戻金が20万円以上あって裁判所に取り上げられてしまうケースというのもそれほど多くないのが実情です。
それに、生活に必要な家電製品や仕事や学業に必要な道具(冷蔵庫や洗濯機、テレビやパソコン、洋服その他etc…)はそもそも裁判所に取り上げられてしまうことはありませんから、普通の一般庶民が自己破産する場合に実際に財産が取り上げられてしまうケースは極めてまれなケースといえます。
(7)債権者にしてみれば一定数の顧客が自己破産することはあらかじめ想定の範囲内
「債権者に迷惑を掛けたくない」という理由で自己破産を嫌がる依頼人は多くいます。
もちろん、「他人に迷惑を掛けたくない」という道徳心は尊いと思いますが、前述したように「任意整理」であっても利息や遅延損害金を「踏み倒す」ことに違いはありませんから、任意整理をしたからといって債権者に迷惑を掛けないわけではありません。
また、「自己破産をすると債権者に損失を与えてしまう」という人がいますが、そもそも金融機関はあらかじめ一定数の顧客が自己破産をして不良債権になることを想定したうえで貸付を行っているのが通常で、だからこそ消費者金融やクレジット会社、あるいはカードローンを扱っている銀行などは年率15~20%という高い利息を取っているわけです。
年率15~20%という高い利息さえ取っておけば、たとえ一定数の顧客が自己破産をして借金を踏み倒しても十分利益を上げられるからこそ多くの金融機関がキャッシングやカードローンを積極的に扱っているのです。
ですから、たとえ債務者が自己破産したとしても債権者としては「想定の範囲内」のことに過ぎませんから、顧客が自己破産をしたからと言って特段損失を被るわけではないのです。
最後に
以上のように、「任意整理」と「自己破産」の手続きで迷っている場合には多くの人が「任意整理」を選択しがちですが、たとえ任意整理で処理できたとしても再び返済が滞り自己破産することになってしまうケースは想像以上に多いようですから、無理をして任意整理で処理するよりも最初から自己破産で処理する方がよほどマシといえます。
もちろん、家計に余裕がある場合には「返済不能」に陥っているとは言えないことから自己破産の手続き自体ができない場合もありますが、そうではなく「自己破産」の申し立ても可能であると弁護士や司法書士が判断している場合には、無理をして「任意整理」で処理するのではなく「自己破産」で処理する方が良いのではないかと思います。