ビットコインやモナコイン、リップルなど様々な種類の仮想通貨が発行され、その利用も積極的に進められている現代社会では、仮想通貨を実際に購入した経験がある人も意外と多くいるのではないかと思います。
これらの仮想通貨は、その値動きの激しさから「投資」や「投機」の対象として報道されることが多いため、世間一般では批判的な意見が多いように見受けられます。
しかし、仮想通貨の本来の目的は「決済の簡素化」などによって「経済の効率化」や「安全化・安定化」を図るところにあるはずですから、本来的に考えれば世間から批判的にとらえられる云われはなく、むしろ積極的に購入されてしかるべき決済ツールと考えてもよいのではないかと思います。
前置きはさておき…
ところで、このように一部に批判的な意見はあるものの、社会全体でみれば仮想通貨の利用は今後も急速に拡大を続けてゆくものと解されますが、自己破産の申し立てを考えなければならないほど借金の返済が困難になった状態で仮想通貨を購入してしまうようなことは極力避けた方がよさそうです。
なぜなら、自己破産の申し立てを行う直前に、もっと言えば返済が困難になった状況で弁護士や司法書士に相談しようと決意した時期以降に、ビットコインなどの仮想通貨を購入してしまった場合には、「債権者への配当に充てられる資産を棄損した」という理由で逮捕されてしまう危険性があるからです。
自己破産の申し立て直前の仮想通貨の購入は「詐欺破産罪」にあたる可能性
自己破産の手続きでは、自己破産の申立人が所有する財産を「損壊」したり、その財産の「現状を改変してその価格を減損」させたり、あるいはその財産を「債権者の不利益に処分」したりすることが、懲役もしくは罰金刑という刑罰を設けることによって禁止されています(破産法265条1項)。
【破産法265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
これは、自己破産の手続きでは債務者である申立人の所有する資産は自由財産として保有が認められるものを除き、そのすべてが裁判所(破産管財人)に取り上げられて売却され、その換価代金が債権者への配当に充てられるという取り扱いがとられているため、債権者への配当に充てられる資産が棄損されることを防ぐ必要があるからです。
自己破産の手続きが始まる前に、債務者(自己破産の申立人)の方でその所有する資産を「損壊」したり、その財産の「現状を改変してその価格を減損」させたり、あるいはその財産を「債権者の不利益に処分」したりすることを認めてしまうと、自己破産の手続きで裁判所から選任された破産管財人が取り上げて換価する際に、もともとあった財産の価値より低い金額しか回収できないことになってしまい、債権者に配当する金額が少なくなってしまいます。
そのため、このような「資産価値の減少」に当たる行為をした債務者(自己破産の申立人)に刑罰を与える旨を法律で定めて、そういった「資産価値の減少」行為がなされることを抑止しているわけです。
ところで、先ほども述べたように、ビットコインなどの仮想通貨は、その本質は「決済の簡素化」や「経済活動の効率化」「決済の安定安全化」を図るところにあるとはいえ、現在の取引相場の不安定さを考えると、どうしても「投資」や「投機」の対象として捉えられてしまう点は否めない現状があることは周知の事実です。
実際、ビットコインなどのチャートを見れば急激な上昇と下落を繰り返しているわけですから、とうてい安定した資産とは言えないはずです。
そうすると、仮に「投資」や「投機」の目的ではなく純粋に「決済の手段」として購入したことが明らかであったとしても、購入した仮想通貨の相場が著しく値下がりしたり暴落したような場合には、購入した仮想通貨の価値は著しく減損してしまうわけですから、客観的に見れば「保有する資産」を減損したと判断されてしまうことになるでしょう。
それに、そもそも現状の相場で値動きの激しい仮想通貨を購入すること自体が「価値の安定した日本通貨」から「価値の不安定な仮想通貨」に変更する行為とも解釈することができますから、ビットコインなどの仮想通貨を購入すること自体が「現状を改変してその価格を減損」する行為や「財産を債権者の不利益に処分」する行為にあたると解釈されてしまわないとも限りません。
このように考えると、自己破産が避けられないような状況にある債務者が、そのような状況にあることを十分認識しながらビットコインなどの仮想通貨を購入することは、この破産法265条1項に規定された「詐欺破産罪」として処罰される可能性のある極めて危険な行為であることがわかるでしょう。
自己破産の申し立てを行う直前はもちろん、返済が困難になった状況で弁護士や司法書士に相談しようと決意した時期以降にビットコインなどの仮想通貨を購入してしまう行為自体が直ちに「詐欺破産罪」を構成するわけではありませんが、価格が著しく暴落した場合には「詐欺破産罪」に問われる可能性があり、仮想通貨の性質上、その蓋然性は極めて高いといわざるを得ないので、借金の返済に困難を感じた時点以降は、一切仮想通貨に手を出すべきではないのです。
最後に
以上はあくまでも仮想通貨の購入が「詐欺破産罪」という犯罪に至る危険性を解説したものであって、借金の返済に困難を感じる「前」であれば借金をして仮想通貨を購入しても問題ないということを言っているのではありません。
先にも述べたように、仮想通貨は本来の目的が「決済の簡素化」等にあるとはいっても、現状では「投機」の側面が強い投資対象なわけですから、借金をしてまで、あるいは借金を抱えた状態で購入してよいものではないのです。
借金の返済が困難になっているのであれば、「ビットコインで一儲けして借金を返そう」などと無謀な夢を見るのではなく、速やかに弁護士や司法書士に相談し、自己破産や任意整理などの債務整理を行って現実的に借金を処理する方法を真っ先に検討すべきであるといえます。