親が自己破産する場合に意外と気になるのが、子供の貯金なども裁判所に取り上げられてしまうのかという点です。
自己破産の手続きは借金(負債)の返済を免除(免責)する手続きですが、その免責が認められるためにはその所有する資産(財産)を全て換価し債権者の債権額に応じて配当するのが原則的な取り扱いとなりますので、自己破産の申立人に一定の資産(財産)がある場合には裁判所に取り上げられることになるのが通常です。
そのため、子供が貯金を持っている場合には、その子供の貯金も取り上げられてしまうのではないかという不安が生じてしまうのです。
では、自己破産の手続きでは実際に子供の貯金が取り上げられてしまうことがあるのでしょうか?
親の自己破産で子供の貯金が取り上げられてしまうことは原則として無い
結論からいうと、親が自己破産する場合に子供の貯金が裁判所(破産管財人)に取り上げられてしまうことは、原則としてありません。
なぜなら、自己破産の手続きはあくまでもその申立人個人の負債(債務)と資産(財産)を清算しそれでも返済出来ない負債について免責(借金の返済が免除されること)を行う手続きですから、その申立人個人とは全く別人格の人物の資産はその自己破産の手続きからは切り離して考えられるからです。
これは自己破産の申立人の子供が所有している資産(財産)についても同様であり、子供の財産の処分については親権者である親にその法定代理人としての処分権限がありますが、その子供の資産(財産)はその子供自身の資産(財産)であって親の資産(財産)ではありません(「子供の財産は親の財産」ではなく「親の財産は親の財産、子供の財産は子供の財産」になるということ)。
したがって、子供がおこずかいやお年玉を貯めて築いた「子供の貯金」については、親の自己破産の手続きには含まれないことになりますので、親が自己破産する場合に子供の貯金が裁判所に取り上げられることもないというのが原則的な考え方になります。
資産隠しなどと判断されるような場合は取り上げられることもある
前述したように、親と子供の資産(財産)は法律上まったく別人格の人間がそれぞれに有する資産(財産)と考えられますので、親が自己破産する場合に、子供の資産である子供の貯金が裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることは原則としてありません。
ただし、自己破産する親が資産隠しのために故意に自分の財産を「子供の貯金」という”体”にしているようなケースでは、例外的に「子供の貯金」が「親の資産」と判断されて裁判所に取り上げられることこともあると考えられます。
例えば、自己破産する親が100万円の現金を保有している場合に、裁判所に取り上げられることを防ぐため自己破産の申立前に子供名義の預金口座に入金して「子供の貯金」として自己破産の申立を行った場合には、破産管財人から「それは子供の貯金じゃなくて申立人自身の資産でしょ」と指摘されて取り上げられ債権者への配当に回されるものと思われます。
最後に
以上のように、親が自己破産する場合において「子供の貯金」は自己破産の手続きとは切り離されて考えられますので、基本的には親の自己破産で子供の貯金が裁判所に取り上げられることはないと考えられますが、資産隠しのため「子供の貯金」という”体”にしているような場合には、形式的には「子供の貯金」となっているものの実質的には「親の資産」であると判断されて、裁判所に取り上げられて債権者への配当に充てられることになるものと考えられます。
なお、仮に裁判官や破産管財人に「資産隠し」と判断されるような場合には、「財産を隠匿した」ということで免責不許可事由に該当し免責(借金の返済が免除されること)が受けられなくなったり(破産法第252条第1項1号)、詐欺破産罪で処罰される可能性もありますので(破産法第265条1項)、早めに弁護士や司法書士に相談し、「資産隠し」と疑われるような子供の貯金がないかという点を確認することも比較的重要になるのではないかと思います。
【破産法第252条】
第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号 債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
(以下、省略)【破産法第265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
第1号 債務者の財産(中略)を隠匿し、又は損壊する行為
第2号(以下省略)