自己破産で提出する家計収支表(家計簿)はテキトーでもよいか?

自己破産の申立を行う場合には、裁判所に家計収支表を提出することが義務付けられています。

裁判所によって若干の取り扱いが異なるかもしれませんが、おおむね申立前1か月間の家計収支表の提出を求める裁判所が多いようです。

しかし、自己破産の申し立てをする人はそもそも家計の管理ができていないことが多重債務に陥るきっかけになっていることが多いと思いますので、「申立前1か月間の家計収支表を提出しろ!」と言われてもできないのが現実でしょう。

では、自己破産の申し立てをする場合にはテキトーな家計収支表を作成して提出することは認められるのでしょうか?

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家計収支表は正確な内容のものを提出しなければならない

結論からいうと、この裁判所に提出する家計収支表は当然、自己破産の申立書の一部として提出することが求められていますので、その内容は真実に則したものである必要があります。

テキトーな内容を記載して裁判所に提出することなど論外です。

仮にテキトーな内容の家計収支表を提出した場合には、裁判所の調査に対して「虚偽の説明をした」ということで免責不許可事由に該当し免責(※借金の返済が免除されること)が受けられなくなってしまう可能性がありますし(破産法第252条第1項8号)、最悪の場合は家計収支表に事実と異なる記載をしたことが「資産隠し」と取られて詐欺破産罪に該当するものとして処罰される危険性さえ生じてしまいかねません(破産法第265条1項)。

【破産法第252条】

第1項 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
第1号~7号(省略)
第8号 破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
(以下、省略)

【破産法第265条1項】

破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
第1号 債務者の財産(中略)を隠匿し、又は損壊する行為
第2号 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
第3号 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
第4号 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為

ですから、自己破産の申立書にテキトーな内容の家計表を作成して提出することは絶対に避けなければならないといえます。

申立てまでの数か月間の間に「家計簿」をつけて正確な家計収支表を作成できるようにすること

このように、自己破産の申立書には正確な内容が記載された家計収支表を添付する必要がありますが、前述したように自己破産する人の多くは家計の管理ができていないのが通常ですので、いざ正確な家計表を作成しようと思っても、それができないのが現実です。

ではそのような場合にどうすれば良いかというと、それはもう毎日「家計簿」を付けるようにして正確な家計収支表を作成することができるよう、自分で努力するほかありません。

弁護士や司法書士に自己破産の依頼をした場合は、依頼を受けた弁護士や司法書士が依頼人の債務や資産を調査し申立書を作成するまで早くても3~4か月の期間が必要となりますから、その期間に毎日「家計簿」を付けるようにしておけば、申立書を提出する1か月前には正確な家計収支表が作成できるようになるはずです。

この点については依頼する弁護士や司法書士からも指示がなされるのが通常だと思いますが、弁護士や司法書士に依頼した後は必ず毎日「家計簿」を付けるようにして、正確な「家計簿」が作成できるようになっておかなければならないのです。

【家計簿と家計収支表(家計表)の違い】

自己破産の申立書に添付する「家計収支表」とは、1か月間の「収入」と「支出」を全て項目ごとに記載したもので、会計上の貸借対照表の家庭版のような表のことを言います。

「家計表」では、票の左側に「その月に何円の収入があったか」を給与や年金などの収入に分けてその金額を記載します。

また票の右側には「その月に何の項目に何円の支出をしたか」を項目ごとに分けで記載することになります。たとえば、「食費|○円」「光熱費|〇円」「交際費|〇円」「通信費|〇円」などと、具体的に支出する項目を分けてその項目ごとに1か月間にいくら支出したかということを記載することになります。

一方、「家計簿」とは、「その日」に「何の項目」に「何円使ったか」を全て記載していくものをいいます。会計上でいえば「現金出納帳」などのような表のことを言います。

「家計簿」は毎日かかさず記載して行く必要がありますので、項目は前述した「家計表」のように大きくまとめられたものではなく、たとえば「食費」であれば「○月○日|肉|○円」「○月○日|野菜|〇円」など、「交際費」であれば「○月○日|居酒屋代|〇円」などと細目ごとに記載する必要があります。

このように「家計簿」と「家計表」はその記載方法が異なりますが、「家計表」を作成するためにはその該当月に「何」に「いくら」支出したかということを把握できなければなりませんので、「家計簿」を毎日つけたうえで、その「1か月分の家計簿」を「家計表」にまとめるという作業が必要となります。

領収書などは取っておくこと

以上のように、裁判所に提出する家計収支表(家計表)には正確な内容を記載しなければなりませんので、買い物をした際や公共料金を支払った場合などに発行される領収書やレシートは全て保管しておくのが基本となります。

申立前1か月間の公共料金の領収書や、10万円以上の買い物など高額な出費がある場合の領収書は自己破産の申立書に添付することがほとんどの裁判所で義務付けられていますので、それらの領収書は保管するのが義務になりますが、そうではないスーパーやコンビニの領収書なども捨てずにとっておき、家計簿や家計収支表(家計表)を作成する際の資料とするようにした用が良いと思います。

本当にわからない支出はおよその金額を記載するしかない

以上で説明したように、領収書を保管して毎日家計簿をつけてもどうしてもわからない支出がある場合には、家計収支表(家計表)には概算の数値を記載するほかありません。

前述したように、裁判所に提出する家計収支表(家計表)は正確な内容を記載することが求められますが、領収書を紛失してしまったなどケースもありますので、場合によっては正確な数値がわからない場合も有るかもしれません。

そういう場合は正確な数値を記載することができませんのでやむを得ずおおよその金額を記載するほかないでしょう。

ただし、だからと言っておおよその数値ばかり書かれた家計収支表(家計表)を提出しするのは問題です。

そのようにあいまいな数値しか記載されていない家計収支表(家計表)が提出された場合には、裁判官としても「資産隠し」の可能性を否定できなくなってしまいますので、領収書などの証拠資料を添付した家計表の提出を求めたり、破産管財人に詳細な調査をさせることも考えられます。

そうなると手続きが煩雑になりかえって手続きが遅れてしまうことにもなりかねませんので、おおよその金額を記載するのは最小限にとどめるべきかと思います。

最後に

以上のように、裁判所に提出する家計収支表(家計表)はできるだけ正確な金額を記載することが求められていますので、テキトーな数値を記載することは控えなければならないといえます。

もっとも、このページを閲覧しているということは、弁護士や司法書士に相談する前か、相談していたとしてもそれほど期間が経過してない状況にあるものと推定できますので、今日この時から毎日「家計簿」を付けるようにし、領収書も全て保管したうえで弁護士や司法書士に報告するようにすれば問題ないのではないかと思います。

 

なお、「家計簿」を付けることは無駄な支出を客観的に認識することにも役立ちますので、借金の返済に追われて生活が厳しいという人は、まず「家計簿」を付けて家計を把握することから始めてみてもよいのではないでしょうか?