自己破産すると賃貸契約の保証人になれなくなる?

借金の返済が困難になった場合には、裁判所に自己破産の申立をすることによって、それまでに負担した全ての借金の返済を免除してもらうことが可能です。

このように、多重債務に悩む人にとっては自己破産の手続きが最終的かつ最大の解決方法となりますが、自己破産の手続きは債権者との契約を一方的に反故にして借金をいわば「踏み倒す」手続きであることに代わりありませんから、自己破産を申し立てることによって一定の不利益を受けることも覚悟しなければなりません。

たとえば、信用情報機関に事故情報として登録されてしまうという不利益です。

自己破産を行った場合には信用情報機関に事故情報として5年から10年間登録されることになりますから、その事故情報が登録されている期間は、新たな借り入れが出来なくなったり、他人の借金の保証人なることができなくなったり、融資を受ける際に制限を受けることは避けられなくなってしまいます。

▶ 自己破産した場合のデメリットとは?

ところで、この信用情報機関に事故情報として登録されることに関連して、自己破産した場合には賃貸マンションや賃貸アパートの契約の保証人になれなくなるのではないか、といった懸念を抱いてしまう人も少なくないようです。

前述したように、自己破産の申立を行った場合には、信用情報機関に事故情報として登録されることにより、他人の借金の保証人なることができなくなりますから、賃貸契約の保証人や連帯保証人になることもできなくなるのではないかと思われるからです。

では、実際問題として、自己破産した場合に賃貸契約の保証人になることができなくなったりすることはあるのでしょうか?

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自己破産しても賃貸契約の保証人になれるのが原則

結論からいうと、自己破産の申立を行ったことのみをもって賃貸契約の保証人になれなくなることはありません。

なぜなら、自己破産の申立を行った場合には「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に事故情報として登録されることになりますが、そこに登録された信用情報を照会できるのは、その信用情報機関に加盟している金融機関だけであって、賃貸マンションや賃貸アパートの家主や不動産仲介業者はこれらの信用情報機関に照会を掛けることはできませんから、たとえ賃貸物件の家主や不動産業者が過去の金融事故を調査しようと思っても、過去の自己破産の記録をすることは事実上不可能だからです。

JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に登録されるのは、”お金を借りる”とか”お金を立て替えてもらう”といった「金銭消費貸借契約」や「立替払い契約」という金融に関する延滞や破産情報などに限られますから、「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に加盟できるのも、貸金業者やクレジット会社、銀行業などの金融機関に限られることになります。

この点、賃貸マンションや賃貸アパートの家主(大家さん)や不動産仲介業者は金融機関ではありませんから、当然、「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に加盟することはできませんので、「JICC」「CIC」「全国銀行協会」に対して特定の個人の信用情報について照会を掛けること自体できません。

したがって、たとえ過去に自己破産をしたことによって「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に事故情報として登録されていたとしても、その事故情報が賃貸契約しようとしている物件の家主や不動産仲介業者に知られることはありませんから、賃貸契約の保証人になることも全く問題ないということになります。

なぜ「借金」の保証人(連帯保証人)になることができないのに「賃貸契約」の保証人(連帯保証人)なることができるのか?

この点、自己破産をして信用情報機関に事故情報として登録されてしまうと金融機関からお金を借りる際の「保証人(連帯保証人)」になることができないのに、なぜ賃貸物件を借りる際の「保証人(連帯保証人)」になることができるのか、その違いがわからない人もいるかもしれませんその点を若干補足しておきましょう。

確かに、過去に自己破産や任意整理などの債務整理を行った場合には「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に事故情報として登録されることから、その事故情報の登録期間中は他人の借金の保証人(連帯保証人)になることは制限されることになります。

▶ 自己破産した場合のデメリットとは?

▶ 任意整理した場合のデメリットとは?

しかし、そもそも「JICC」「CIC」「全国銀行協会」の存在意義は、「お金を借りる」といった「金銭消費貸借契約」に関して発生した延滞や破産などの情報を登録することにより、返済能力のない人に安易な融資をすることを抑止して多重債務者の発生を防止するところにあります。

この点、「賃貸物件を借りる」という契約は「賃貸借契約」であって、「お金を借りる」という「金銭消費貸借契約」とはその性質自体全く異なりますから、多重債務者の発生抑止を目的とした「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に登録されている情報は、「賃貸借契約」の審査の場面では特段の意味をなさないのです。

「お金を借りる」という「金銭消費貸借契約」で何らかの”事故”を発生させたとしても、必ずしも全く契約の性質が異なる「賃貸物件を借りる」という「賃貸借契約」で”事故”を起こすとは推測できませんから、「金銭消費貸借契約」で発生した事故情報は、「賃貸借契約」の審査に影響を与えないのです。

ですから、過去に自己破産した場合には、「お金を借りる」という「金銭消費貸借契約」の場面では保証人になることは制限されますが、「賃貸物件を借りる」という「賃貸借契約」の場面では保証人(連帯保証人)になることは一切制限されないということになるのです。

家賃保証会社の保証を受ける必要がある場合は過去の自己破産が影響することもある

前述したように、仮に自己破産をしたことによって「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関に事故情報として登録されていたとしても、その事故情報が賃貸契約しようとしている物件の家主や不動産仲介業者に知られることはありませんから、賃貸契約の保証人になる際に過去の自己破産の事実が問題にされることはないといえます。

しかし、これには例外があります。

賃貸物件の契約の際に、家主側から家賃保証会社の保証を受けるよう求められた場合に、その家主が指定する家賃保証会社がクレジット会社系の家賃保証会社であった場合です。

前述したように、過去の自己破産が事故情報として登録される「JICC」「CIC」「全国銀行協会」といった信用情報機関には貸金業者やクレジット会社、銀行などの金融機関しか加盟することができませんから、金融機関ではない家主や不動産仲介業者は信用情報の照会をすること自体不可能です。

しかし、家賃保証会社の一部にはクレジット会社が運営主体になっている業者もあり、クレジット会社が家賃保証会社となって賃貸物件の契約に関与する場合には、その家賃保証会社は”クレジット会社”として「JICC」や「CIC」に信用情報の照会を掛けることが可能となります。

この点、家主の指定する家賃保証会社が仮にクレジット系の会社であった場合には、そのクレジット会社系の家賃保証会社が、賃貸物件の契約の際に「JICC」もしくは「CIC」に信用情報の照会を掛けることになりますので、過去に自己破産をして事故情報として登録されてしまっている場合には、その事故情報が家賃保証会社に知られてしまうことになるでしょう。

そうすると、家賃保証会社の審査で落とされることになる結果、賃貸借契約において家賃保証会社の保証を受けることができなくなり、家主から賃貸契約を拒否されるということになる可能性があります。

このように、賃貸マンションや賃貸アパートの契約において保証人(連帯保証人)になる場合において、過去の自己破産の事実が問題になることは原則としてありませんが、家主側から保証人とは別に家賃保証会社の保証を付けることが義務付けられていて、かつ、その家主が指定する家賃保証会社がクレジット会社系の家賃保証会社である場合には、その家賃保証会社が「JICC」または「CIC」といった信用情報機関に事故情報の照会を掛けることになり、過去の自己破産の事実が明らかとなって家賃保証会社の審査で落とされて賃貸契約で家主が求める家賃保証会社の保証が受けられなくなることになる結果、賃貸契約が拒否されるということもありえますので注意が必要でしょう。