最近はだいぶ少なくなりましたが、それでもまだ「クレジットカードの現金化」とか「ショッピング枠の現金化」などといった広告を目にする機会が結構あります。
この「ショッピング枠の現金化」は、利用を希望する顧客にまず顧客自身のクレジットカードで商品を購入させ、その購入させた商品を業者が買い取る形で金銭を交付することによって顧客のクレジットカードのショッピング枠を「事実上」現金化させることをいいますが、借金の返済が困難になったからと言って安易にこの「ショッピング枠の現金化」を利用すると、後で自己破産になった際に重大な問題を生じさせることになるので注意が必要です。
なぜなら、このような「ショッピング枠の現金化」を利用すること自体が免責不許可事由に該当し、自己破産の免責(借金の返済義務が免除されること)を難しくしてしまう可能性があるからです。
「ショッピング枠の現金化」は免責不許可事由に該当する
先ほども述べたように、「ショッピング枠の現金化」という行為はクレジットカードに付帯している「ショッピング枠」を利用していったん商品を購入し、その購入した商品をその「ショッピング枠の現金化」を行う業者に買い取ってもらう形で金銭の交付を受けるのが基本的な形となるのが一般的です。
しかし、このような「ショッピング枠の現金化」の業者を利用して金銭を受け取った場合、その行為自体が自己破産の手続きで免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられなくなる危険性を誘発することになります。
なぜなら、このような「ショッピング枠の現金化」を行う業者はその顧客に購入させた商品を価格で買い取ることはないため、その「ショッピング枠の現金化」の業者を利用する行為自体が破産法の252条1項に規定されている免責不許可事由に該当する事実を構成するからです。
裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。
一(省略)
二 破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
三(省略)
「ショッピングの現金化」を行う業者は、顧客に一定の商品を購入させますが、その商品を買い取る際、その商品の正当な値段で買い取るのではなく、業者側の儲けを差し引いた分の金銭しか顧客に交付することはありません。
また、例えばクレジットカードのショッピング枠を利用して100万円のブランド物の高級バッグなどを購入させ、それを90万円で買い取る形にしてショッピング枠を現金化する業者もありますが、このような場合もクレジット会社から100万円の融資を受けているにもかかわらず、手元には90万円しか受け取れないことになります(このようなケースでは、業者は90万円で買い入れたその商品を90万円以上の金額で中古品市場に横流しして利益を上げています)。
そうすると、そのようにクレジットカードのショッピング枠を利用して購入した商品を「ショッピングの現金化」を行う業者に売却すること自体が先ほど挙げた破産法第252条1項2号の「信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分した」という行為にそのまま当てはまることになりますから、免責不許可事由に該当するものとして免責が受けられなくなってしまうわけです。
(※なお、破産法第252条1項2号では「破産手続の開始を遅延させる目的で」と記載されているので、その目的がなければ「ショッピングの現金化」を利用しても差し支えないのではないか、と思われるかもしれませんが、「ショッピング枠の現金化」を利用して業者から受け取ったお金を返済に回している場合には、本来であれば自己破産しなければならないにもかかわらずそれを回避するために「ショッピング枠の現金化」を利用したと推測されるため「破産手続の開始を遅延させる目的」があるものと判断されることになり、破産法第252条1項2号の要件は満たされることになります)
裁量免責が認められる可能性があるが…
以上のように、「ショッピング枠の現金化」を利用すること自体が免責不許可事由に該当し免責が受けられなくなってしまう危険性を生じさせますので、「ショッピング枠の現金化」を利用することは非常にリスクの大きいことであることがわかります。
もちろん、自己破産の手続きでは免責不許可事由に該当する事実がある場合であっても裁判官の「裁量」によって特別に免責が与えられる「裁量免責」の制度も用意されていますから、「ショッピング枠の現金化」を利用して免責不許可事由にあたるとしても最終的に「裁量免責」が受けられれば借金の返済は免除されることになるでしょう。
しかし、「裁量免責」はあくまでも例外的な手続きであってそれを受けるには裁判所や破産管財人の厳しい調査や指導を受けなければなりませんし、破産管財人が選任される管財事件として処理されることによって管財費用(引継予納金として最低でも20万円)の支払いが必要となるのが通常ですから、そういった経済的不利益を受けることは避けられません。
裁量免責の制度があるといっても、それを受けるためにはそれなりの思い不利益を受けなければならないわけですから、「ショッピング枠の現金化」を利用すること自体がいかに意味のない行為であるかがわかると思います。
最後に
以上のように、「ショッピング枠の現金化」を利用行為は免責不許可事由に該当する行為であって、将来の自己破産の手続きで大きな問題を生じさせる危険な行為といえます。
ですから、借金の返済が困難になってしまった場合には「ショッピング枠の現金化」を利用して返済原資を確保するなど不正な考えを抱くのではなく、早急に弁護士や司法書士に依頼して適切な債務整理の手続きに入ってもらいたいと思うのです。