子供の学資保険の解約返戻金を自己破産前に受け取るのは犯罪?

自己破産の申立てを考えている人の中には、子供のために学資保険の契約をしている人も少なからずいるのではないかと思います。

学資保険は将来の子供の学資金を受け取ることができる積み立て式の保険契約となりますが、契約期間の長さによっては解約した場合に払い戻しを受けられる解約返戻金が発生するのが一般的です。

この学資保険の解約返戻金は数十万円から数百万円になる場合もありますので、それなりの資産(財産)となるわけですが、自己破産をしなければならないほど返済に窮してしまっている状態でその学資保険を解約し、解約返戻金を取り崩して生活費や借金の返済に充てることは控えた方がよさそうです。

なぜなら、もし仮に自己破産が避けられない状態で子どものための学資保険を解約し解約返戻金を受領してしまうと、詐欺破産罪として刑事責任を問われてしまう危険性が生じてしまうからです。

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子供のために学資保険の解約返戻金は自己破産する「親」の資産と判断される

子供のために学資保険を契約している「親」が自己破産する場合、その学資保険の解約返戻金は「親」の資産(財産)と判断されるため、自己破産の手続きが開始されれば裁判所によって取り上げられ債権者への配当原資に充てられるのが通常の取り扱いです。

なぜなら、たとえ子供名義の学資保険であっても、その保険料を支払っているのは常識的に考えると「親」であり「親」が働いたお金や「親」が借り入れたお金が形を変えて資産(財産)を形成しているものと理解されるため、その解約返戻金も「子供固有の資産」ではなく「親の資産」と判断されるからです。

▶ 自己破産すると子供の学資保険も管財人に取り上げられる?

そうすると当然、その子供のための学資保険によって発生する解約返戻金は「親」が自己破産する場合の「債権者への配当に充てられるべき資産」という位置づけにされてしまうので、自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられてしまうことになるのです。

学資保険を解約して解約返戻金を受領する行為は「債権者の資産」を減少させ債権者に不利益を与える行為に繋がる

このように、子供名義の学資保険であっても「親」が自己破産する場合には「親の資産」と判断され自己破産の手続き上で裁判所に取り上げられてしまうことになるのが通常ですから、その子供名義の学資保険によって生じた解約返戻金は「債権者の配当に充てられるべき資産」ととして扱われることになります。

そうすると、その「債権者への配当に充てられるべき資産」であるところの子供名義の学資保険の解約返戻金は「自己破産の申立人の資産」ではあるものの、それはもう「債権者の資産」というべきものになりますから、自己破産の手続きにおける債権者の保護を考える必要性から自己破産の申立人である債務者が勝手に処分することは制限されることになるでしょう。

実際、自己破産の手続きを定めている破産法においても「債権者への配当に充てられるべき資産(※このような資産のことを法律上は破産財団といいます)」を不当に減少させる行為が免責不許可事由として明確に定められていますので、自己破産の申し立て前に学資保険を解約して解約返戻金を受け取る行為は「債権者の資産」を不当に減少させ債権者に不利益を与える行為に繋がるものとして禁止されています。

▶ 自己破産前に子供の学資保険を解約すると免責が受けられない?

ですから、たとえ生活費や返済に困窮した場合であっても、自己破産の申し立てが避けられない状況にあるのであれば、子供名義の学資保険を解約して解約返戻金を受け取るようなことは厳に慎まなければならないということが言えるのです。

自己破産の申し立て前に学資保険の解約返戻金の払い戻しを受けると詐欺破産罪に該当する可能性がある

以上のように、自己破産の申し立てを行う人が子供のために学資保険を契約し、その学資保険に解約返戻金が発生している場合には、その解約返戻金が「自己破産する親の資産」として扱われる結果、「債権者の配当に充てられるべき債権者の資産」と判断され、自由な処分が制限されることになります。

具体的には、先ほども述べたように免責不許可事由に該当する可能性があるため、自己破産の申し立て前に子供の学資保険を解約して解約返戻金を取り崩してしまうと免責(借金の返済義務が免除されること)が受けられなくなる可能性が生じるわけですが、問題はそれだけではありません。

破産法では、「債権者の配当に充てられるべき資産(財産)」について、その「財産の損壊」をする行為であったり「現状を改変してその価格を減損」する行為であったり、あるいはその財産を「債権者の不利益に処分」する行為が詐欺破産罪として刑事罰の対象とされていますので、その程度によっては刑事責任を問われてしまうケースもあるからです(破産法265条1項)。

【破産法265条1項】
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(中略)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。(中略)。
一 債務者の財産(省略)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為

この点、もともと学資保険の「解約返戻金」として存在していた資産(財産)を学資保険を解約することによって解約返戻金という「現金」にしたというのであれば、「財産の現状を改変」することになりますし、仮にその払い戻された解約返戻金を費消してしまった場合には「解約返戻金」が形を変えた「現金」という資産を不当に「損壊」「減損」もしくは「債権者の不利益に処分」する行為に該当する可能性があることは明らかでしょう。

ですから、自己破産の申し立てが避けられない状況で子供名義の学資保険を解約し、その解約返戻金を受領してしまうこと自体が詐欺破産罪となる危険性を有していますので、そのような行為をしてしまわないよう十分に注意が必要と言えるのです。

最後に

以上のように、たとえ子供名義の学資保険であっても自己破産の手続きでは「親の資産」と判断されますから「親」が自己破産する場合にはその学資保険によって積み立てられた解約返戻金は「債権者の配当に充てられるべき資産」として処分が制限されることになりますし、仮に申し立て前に学資保険を解約して解約返戻金を受け取ってしまった場合には、免責不許可事由だけでなく詐欺破産罪という刑事責任を問われる事態になる危険性もありますので、その取り扱いには十分に注意すべきといえます。

ですから、もし子供のために学資保険を契約している状況で自己破産を検討している場合には、無暗に解約したりせず、早めに弁護士や司法書士に相談して適切な対処を取ってもらうことが必要になると考えておいた方がよいでしょう。